*

『ベイビー・ドライバー』 古さと新しさと遊び心

公開日: : 最終更新日:2021/05/01 映画:ハ行, 音楽

ミュージカル版アクション映画と言われた『ベイビー・ドライバー』。観た人誰もがべた褒めどころか、ちょっと興奮気味。あまり期待せず、フラッと劇場に行ったらエライことになったって。こりゃあ絶対おもしろいに決まってる。

音楽とアクションが完全にシンクロ。役者の芝居も音楽のリズムに合わせてる。スルスルとカーアクションが展開されるだけでなく、鉄砲の発砲音ですらリズムを刻む徹底した計算にはゲラゲラ笑えてしまう。

犯罪映画なのにR指定じゃないところもイイ。映画観終わったあと、すぐにサントラをチェックしたくなる。

ご都合主義ストーリーなんてちっとも気にならない。そんなの突っ込む方が野暮ってもんさ。単純に音楽と映像のグルーヴに身を任せればいい。ギミックやファッション、どれもこれもがしっくりキマってる。ただただ気分が良い。俗世にもまれて疲れた心身からは、こんな軽快な映画が観たかったんだと、つくづく頷かせられる。

自分がまだ10代になるかならないかの80年代のハリウッド映画を彷彿させた。あの頃、アメリカはじめ欧米の文化は、なにもかもカッコ良くみえていた。洋画と邦画、映画館の入場料は同じなのに、なんでここまで海外作品は豪華なのかと疑問に感じていた。二者選択ならゴージャスな方がいい。

でもこのゴージャスの意味は、けっしてバジェットのことを言っているのではない。ハリウッド映画だって、低予算のものもある。逆に大スペクタクル映画でも、拷問のように退屈な映画だってある。ゴージャスの定義は、「そこにブレないハートがあるかどうか」だ。

『ベイビー・ドライバー』は、何ひとつ奇をてらうものはない。小難しいテーマもないし、ストーリーだって図式化されたド定番の直球ストレート。なのに陳腐になるどころか、まったくもって知的で新しくてハイセンス!

自分は80年代にワクワクしながらハリウッド映画を観ていた。そこにあったのは、映画が放つ圧倒的なパワー。

男の子が好きなもの、車や武器や音楽やファッション、カワイイ女の子。そして主人公はアウェイで、誰にもマネできない特別な能力を持っている。それらをセンス良く集めてパッチワーク&イノベーションすれば、革新的な作品へと繋がっていく。オッサレな映画版セレクトショップみたいだから、きっと女子だって気に入ってくれるだろう。

ちょっと前ではタランティーノ映画の登場がそんな感じだった。アタマの悪いギャングアクションを、知的な文芸作の演出でみせてくれた。最近でもマーベルヒーローものなんかも、古くて新しい感覚だ。でも『ベイビー・ドライバー』は、さらに洗練されている。

じゃあ古き良き時代に懐古的に浸ればいいのではとなってしまいがちだか、さにあらず。人の記憶とはいい加減なもので、いま当時の作品を観直してみると、「なんだこんなものか」とガッカリしてしまうことなんてよくある。たいがい当時のときめきの記憶によって、盛りに盛り込まれて美化されているものだ。

時代を経て、作品もどんどんブラッシュアップされてきて、数年前では考えられなかったようなハイセンスな作品が生まれてくる。

昔のサブカルチャーを素材にしていても、調理方法は斬新だ。まったく観たことがないものでは、誰も理解はできない。観たことがあるようでいて、観たことがないものというものが、観客に受け入れられるのだろう。

ケビン・スペイシーのセクハラ問題で、あわや本作もお蔵入りするんじゃないかと危惧してしまったが、どうやらオッケーみたい。どっかの国みたいに、まだ来ぬクレームに怯えすぎて、自主規制とかしてくれなくてホント、よかったよかった。

とにかく『ベイビー・ドライバー』は、また一本、自分のお気に入りの作品に仲間入りした。

関連記事

『Ryuichi Sakamoto | Opus』 グリーフケア終章と芸術表現新章

坂本龍一さんが亡くなって、1年が過ぎた。自分は小学生の頃、YMOの散会ライブを、NHKの中継

記事を読む

no image

『坂本龍一×東京新聞』目先の利益を優先しない工夫

  「二つの意見があったら、 人は信じたい方を選ぶ」 これは本書の中で坂本龍

記事を読む

『THE FIRST SLAM DUNK』 人と協調し合える自立

話題のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』をやっと観た。久しぶりに映画館での

記事を読む

『ローガン』どーんと落ち込むスーパーヒーロー映画

映画製作時、どんな方向性でその作品を作るのか、事前に綿密に打ち合わせがされる。制作費が高けれ

記事を読む

『ホットスポット』 特殊能力、だから何?

2025年1月、自分のSNSがテレビドラマ『ホットスポット』で沸いていた。自分は最近ではほと

記事を読む

『僕らの世界が交わるまで』 自分の正しいは誰のもの

SNSで話題になっていた『僕らの世界が交わるまで』。ハートウォーミングなコメディであろうこと

記事を読む

『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』 映画鑑賞という祭り

アニメ版の『鬼滅の刃』がやっと最終段階に入ってきた。コロナ禍のステイホーム時期に、どうやって

記事を読む

no image

『バトル・ロワイヤル』 戦争とエンターテイメント

深作欣二監督の実質的な遺作がこの『バトル・ロワイヤル』といっていいだろう。『バトル・ロワイヤル2』の

記事を読む

『バービー』 それらはぜんぶホルモンのせい

グレタ・ガーウィグ監督の新作『バービー』は、バービー人形の媒体を使った社会風刺映画と聞いた。

記事を読む

no image

何が来たってへっちゃらさ!『怪盗グルーのミニオン危機一発』

  世界のアニメ作品はほぼCGが全盛。 ピクサー作品に始まり、 母体であるディズ

記事を読む

『M3GAN ミーガン 2.0』 ゆるぎないロボ愛よ永遠に

自分はSFが好き。友だちロボットのAIがバグって、人間を襲い出すS

『ナミビアの砂漠』 生きづらさ観察記

日曜日の朝にフジテレビで放送している番組『ボクらの時代』に俳優

『サタンタンゴ』 観客もそそのかす商業芸術の実験

今年2025年のノーベル文化賞をクラスナホルカイ・ラースローが

『教皇選挙』 わけがわからなくなってわかるもの

映画『教皇選挙』が日本でもヒットしていると、この映画が公開時に

『たかが世界の終わり』 さらに新しい恐るべき子ども

グザヴィエ・ドラン監督の名前は、よくクリエーターの中で名前が出

→もっと見る

PAGE TOP ↑