『フロリダ・プロジェクト』パステルカラーの地獄
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最終更新日:2020/03/28
映画:ハ行
アメリカで起きていることは、10年もしないうちに日本でも起こる。日本は、政策なり事業なり、成功例を見本として取り入れていくのならわかるが、失敗したものですらそのままアメリカの猿真似で輸入してしまうようなところがある。非常にタチが悪い。アメリカでの社会問題は、日本にとってはいずれやってくるであろう嵐への警鐘。
映画のタイトルになっている『フロリダ・プロジェクト』は、フロリダのディズニーリゾートの開発計画の名称らしい。舞台は華やかなディズニーランドの近くにある貧困層が暮らしているモーテル。
ディズニーランドという「夢の国」の膝元に、その日暮らしの生活を送っている人びとたちがいる。格差社会の縮図。映画ではあまり触れていないが、このホームレス寸前の人たちは、サブプライムローンの余波で住む家を失ったらしい。
人が生きていくには、最低限の経済が必要。そして住居。先立つものと雨露をしのげる場所がなければ、人は夢すら見れない。それらを維持するために、人は頑張って働く。仕事で何かを成し遂げたいとか、活躍したいというのは、最低限の生活が維持できるようになってからの話だ。現代はそんな夢を見ることすら夢物語。
日本でも社会保障が年々手薄になっている。もし今の日本で、サブプライムローンのような経済破綻が起こったら、たちまち日本中がホームレスだらけになってしまう。誰もその危機感がないため、いざとなったとき何が起こるか想像しただけで恐ろしい。
映画『フロリダ・プロジェクト』は、そんな底辺の生活を強いられている日常に、淡々と視点を置く。この映画の最大の魅力は、その悲惨な状況を大人たちの視点で描くのではなく、小さな子どもたちの目線から捉えているところ。
この映画の子どもたちは全く演技をしているように見えない。驚くばかりだ。まるでドキュメンタリーのような子どもたちの会話のやりとり。それでいてちゃんと映画らしいストーリーが進行していく。いったいどうやって撮影したのだろうか。
レンタル店にあったDVDには、「日本語吹き替えなし」と書いてあった。それは作品の意図を尊重すればそうなる。この映画に別の役者さんが吹き替えをしてしまったら元も子もない。同年代の子どもの声優さんが声をあてるのは難しいし、大人の声優さんが子どもたちの声を入れてしまったら、もう別の作品になってしまう。
監督のショーン・ベイカーは自分と同年代。社会に対する問題意識がある。フロリダにはその日暮らしの人もいれば、築年数の浅くすぐ住めそうな住宅が、無人のまま放置されていたりもする。経済政策の歪みを感じる。
インディペンデントで製作されたこの映画。無名俳優ばかりの中で唯一ハリウッドスターのウィレム・デフォー出演している。彼が演じるモーテルの支配人が魅力的。住人を追い詰めている場面もあるが、住人たちが軽犯罪を起こしたときは庇ったりもしている。モーテル内での規律は住人に守らせるが、モーテル外からの迫害からは、その善悪に問わず住民優先で守護する態度。この場末のモーテルこそが最後の砦であり、王国なのだ。
最底辺の貧困生活をそのまま描いていたら、地獄そのものだ。フロリダというリゾート地というのもあって、モーテルの建物のパステルカラーのパープルが眩しい。この色彩に地獄のような生活を語らせていく。華やかな場所に集まるのは富裕層ばかりでなく、そのおこぼれに預からんと貧困層も多く集まる。実際のフロリダの風景がそうなのだろうが、パステルカラーの建物や、アミューズメントパーク的なグロテスクな建築物に囲まれた中で、最底辺の生活を描いていく演出の巧さ。とても映画的。これらは、子どもたちにとっては楽しい冒険空間になる。
子どもという生命力。全てがポジティブでできている。以前自分は短期間だけ小学校のカメラマンをしていたことがある。学校のイベントに出向いては、その状況の記録写真を撮るという仕事。運動会やら文化祭、卒業式、日常の様子なども各学校に出向いて撮影する。遠足にも子どもたちと一緒についていく。小学生の遠足で多いのは山登り。登山することで子どもたちに達成感を感じて欲しいという意図らしい。
山登りは天候との勝負。思わぬ雨に襲われることもある。そんなとき学年全員で、狭い休憩所に雨宿りしなければならなくなる。先生はじめ大人たちは、この後の予定などでそわそわしてる。でも子どもたちはお構いなし。みんなその休憩所で大はしゃぎ。彼ら彼女たちにとっては、突然の雨もまたアトラクションのひとつでしかない。
結局1時間経っても雨は止まず、このまま全ての予定をキャンセルして、出発点のバスに引き返した方がいいとなる。雨足を見ながら下山。先生たちは子どもたちに事故が起こらないように神経過敏。当の子どもたちは、雨の中下山するのも楽しくて、きゃあきゃあ大騒ぎ。きっとこれが大人ばかりの登山だったら、不平不満やクレームの嵐だっただろう。逆境でもポジティブに捉える強さを持つことの大切さ。それをそのままキープできれば、その後の人生が大きく変わってくる。
フロリダというファンタジーな場所で繰り広げられる最底辺な惨めな暮らし。子どもたちはその生活の中で、汚い言葉や仕草も覚えてしまうが、それは大人たちが荒んでいるから仕方がない。子どもたちにとってはそれもまた冒険なのだから。
でも数多の冒険譚や英雄の伝記を読んできた人には知っているはず。どんなに素晴らしい冒険をして、英雄になったとしても、それが必ずしも幸せな人生にはならはないということを。
世の中にはうまい言葉が溢れている。国が勧めているから、テレビで宣伝しているからといって、自分の人生にとって良いものとは限らない。もしかしたらその口車に乗っかって、人生がめちゃくちゃになってしまうこともある。何が自分にとって重要なのか、きちんと考えて行動する判断力が必要とされる。きちんと職についたから安泰という時代でもない。この映画は他人事ではない。サバイバル意識を持つことが大切だと思った。それもポジティブ精神でね。
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