『ひろしま』いい意味でもう観たくないと思わせるトラウマ映画

ETV特集で『ひろしま』という映画を取り扱っていた。広島の原爆投下から8年後に製作された映画で、実際に被爆された方も多く出演しているとのこと。当時ムーブメントのようになり、撮影に参加した被爆者のエキストラは、最終的には8万人にも及んだらしい。でも、日教組が製作したせいか、反米的ということでほぼお蔵入りだったらしい。
すっかり軍事・政治ジャーナリストとなったオリバー・ストーン監督も「詩的な作品で、世界中の人に観てもらいたい」とコメントを寄せていた。ETV特集では、当時撮影に参加した被爆者たちのインタビューも載せていた。
反米的で政治的内容だから上映できないという当時の雰囲気。エキストラ出演した多くの被爆者たちは、自分たちの悲惨な経験を知ってほしいと、純粋な気持ちで参加したので、不本意で理不尽な思いをしたらしい。
大きなものに忖度する空気感は、現代だってそれほど変わらない。よくこんな番組を放送できたなと、番組製作者の勇気を感じる。映画の場面は、どれも凄惨でショッキングなものばかり。この幻の映画、観てみたいけど観る勇気がない。調べると、レンタルこそはしていないが、名画座では上映してる。と思っていたら、その翌週には本編をテレビ放送するじゃないか! いろいろ言われるNHKだけど、この時期この映画の放送はすごい決断だと思う。
原作は被爆者たちの文集『原爆の子』らしい。『原爆の子』といえば新藤兼人監督作品が真っ先に浮かぶ。なんでも新藤兼人版はドラマ性が強すぎて、実際の原爆の悲惨さが伝わりにくいということ。日教組が同じ原作の別バージョンで製作したらしい。
自分も鑑賞するのに勇気が必要だった。被爆者たちのインタビューでは、この撮影時にフラッシュバックで吐きながら演技をしていたとか。それでも現実はもっとひどかったと言う。映画を観ただけでもトラウマになりそうだ。犠牲になるのが子どもたちばかりなのも胸が痛む。
被爆者たちへの世の中の差別もきちんと描かれている。近年でも原爆に関する作品は生まれてくるが、こういった差別に関わる部分は、いつもマイルドになってしまう。現代では描けない、当事者だからこその描写だと迫ってくる。
「人は嫌なことは忘れてしまものだ。でも、忘れてはいけないこともある」と被爆者の方が言っていた。映画は当時の空気感をダイレクトに伝えている。セミドキュメンタリーの感覚だ。
音楽は伊福部昭さんが担当している。そういえば第一作目の『ゴジラ』もこのころ製作されている。『ゴジラ』の存在核兵器や戦争へのメタファー。あちらも数年前に被爆した国の空気感が怖かった。『ゴジラ』も反戦がテーマだが、戦争が直接描かれているわけではないので、問題にならなかったのだろうか? 第一作目の『ゴジラ』も、だいぶ怖かったけど。
純粋に被爆することの恐ろしさを伝えたくて、この映画を製作したり、エキストラ出演した人たちの気持ちが、ないがしろにされていたならとても悲しい。映画『ひろしま』は本当に恐ろしい映画で、鑑賞後には呆然としてしまう。戦争が恐ろしいのは当然だが、戦争にまつわる表現が、そのまま政治的になってしまうのも恐ろしい。
映画が内包する様々なテーマをかんがみても、この映画のテレビ放送は意味深いものだと感じる。
関連記事
-
-
『星の王子さま』 競争社会から逃げたくなったら
テレビでサン=テグジュペリの『星の王子さま』の特集をしていた。子どもたちと一緒にその番組を観
-
-
『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』賢者が道を踏み外すとき
日本では劇場未公開の『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』。DVDのジャケ
-
-
『すずめの戸締り』 結局自分を救えるのは自分でしかない
新海誠監督の最新作『すずめの戸締り』を配信でやっと観た。この映画は日本公開の時点で、世界19
-
-
『アデル、ブルーは熱い色』 心の声を聴いてみる
2013年のカンヌ国際映画祭で最優秀賞パルムドールを受賞したフランス映画『アデル、ブルーは熱
-
-
『マッシュル-MASHLE-』 無欲という最強兵器
音楽ユニットCreepy Nutsの存在を知ったのは家族に教えてもらってから。メンバーのDJ
-
-
『お嬢さん』 無国籍お耽美映画は解放へ向かう
韓国産の作風は、韓流ドラマのような甘ったるいものと、血みどろで殺伐とした映画と極端に分かれて
-
-
『ファインディング・ドリー』マイノリティへの応援歌
映画はひととき、現実から逃避させてくれる夢みたいなもの。いつからか映画というエン
-
-
『レディ・プレイヤー1』やり残しの多い賢者
御歳71歳になるスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』は、日本公開時
-
-
『のだめカンタービレ』 約束された道だけど
久しぶりにマンガの『のだめカンタービレ』が読みたくなった。昨年の2021年が連載開始20周年
-
-
『T・Pぼん』 マンスプレイニングはほどほどに
Netflixで藤子・F・不二雄原作の『T・Pぼん』がアニメ化された。Netflix製作とな
