*

『バードマン』あるいはコミック・ヒーローの反乱

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 アニメ, 映画:ハ行

 

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の

新作がコメディと聞いて、まず疑った。

生真面目な完璧主義者のイメージが強い
イニャリトゥ監督がコメディだって?
ふたを開けてみると、
コメディはコメディだけど
ブラックコメディだった!!
やっぱりね。

全編ワンカット長回しだとか、
サントラがドラムの即興だとか、
どうしても技術的なところに
ひっぱられてしまうのだが、
映画が始まってしまえば、
それは作品の魅力の一要素にすぎない。

この笑えないヒリヒリと突き刺さるコメディ。
完全に今のアメリカカルチャーの
コミックやCGにおされ、
ブロックバスター化された
エンターテイメントに対する皮肉。

キャスティングもみんな、
スーパーヒーローもので
痛い目にあった役者ばかり。
もう現実か虚構かサッパリわからなくなる。

主人公はかつてヒーローもので
一世風靡したにもかかわらず、
後の役者人生はパッとしない俳優。
起死回生でアート作品の
戯曲の主演演出を試みるが、
ストレスで幻覚を見続けている。

笑える要素は、
追いつめられた登場人物達が、
現実逃避の幻覚を
見続けるところなのだが、
これは映画的で
驚きのイマジネーション。
予告編でそこばかりが
フィーチャーされているのが難点。
予告編が作りづらい映画なのだろう。

で、この幻覚のシーン。
人物達の心の開放でもあり、
それは死とも隣り合わせ。
美しい音楽と空を飛ぶ場面がでてくると、
自分はヒヤヒヤしっぱなし。
イニャリトゥ監督なので、
いきなりグシャリと
グロテスクな死の描写に
いくんじゃないかと……。

役に殺されるとうのは
ダーレン・アロノフスキー監督の
『ブラック・スワン』と同じテーマ。

この映画は、
今のアメリカの軟弱なカルチャーを
おもむろに批判している。

そんな映画が作れてしまうのも凄いし、
そんな映画が評価されるのも凄い。
そしてなにより、
役者達が自虐的にもなりかねない
自分とあまりに似すぎた状況の
登場人物を演じるという、
器量がデカいのだか、
トチ狂っているのか分からない
危うさがこの映画の最大の魅力。

この限界ギリギリの精神状態を、
手放しで笑えるのは、
なかなか知的センスを試される。

見終わったあと、笑ったというよりは
緊張して肩が凝ってしまった自分は、
まだまだ修行が足りないようです。

関連記事

『パフューム ある人殺しの物語』 狂人の言い訳

パトリック・ジュースキントの小説『香水 ある人殺しの物語』の文庫本が、本屋さんで平積みされて

記事を読む

『炎628』 戦争映画に突き動かす動機

『炎628』は日本では珍しい旧ソビエト映画。かつて友人に勧められた作品。ヘビーな作品なので、

記事を読む

『ブレードランナー』 その映画が好きな理由

『ブレードランナー』、 パート2の制作も最近決まった カルト中のカルトムービーのSF映画

記事を読む

no image

『鉄コン筋クリート』ヤンキーマインド+バンドデシネ

アニメ映画『鉄コン筋クリート』が公開されて今年が10周年だそうです。いろいろ記念イベントやら関連書籍

記事を読む

no image

『ローレライ』今なら右傾エンタメかな?

  今年の夏『進撃の巨人』の実写版のメガホンもとっている特撮畑出身の樋口真嗣監督の長

記事を読む

『平家物語(アニメ)』 世間は硬派を求めてる

テレビアニメ『平家物語』の放送が終わった。昨年の秋にFOD独占で先行公開されていたアニメシリ

記事を読む

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』 これぞうつ発生装置

90年代のテレビシリーズから 最近の『新劇場版』まで根強い人気が続く 『エヴァンゲリオン

記事を読む

no image

『作家主義』の是非はあまり関係ないかも

  NHKでやっていたディズニーの 舞台裏を描いたドキュメンタリー『魔法の映画はこ

記事を読む

『ブラック・レイン』 松田優作と内田裕也の世界

今日は松田優作さんの命日。 高校生の頃、映画『ブラックレイン』を観た。 大好きな『ブ

記事を読む

no image

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でリアル・タイムトラベル

  なんだか今年は80年代〜90年代の人気映画のリブート作やリメイク作が目白押し。今

記事を読む

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

『ボーはおそれている』 被害者意識の加害者

なんじゃこりゃ、と鑑賞後になるトンデモ映画。前作『ミッドサマー

『夜明けのすべて』 嫌な奴の理由

三宅唱監督の『夜明けのすべて』が、自分のSNSのTLでよく話題

→もっと見る

PAGE TOP ↑