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『花束みたいな恋をした』 恋愛映画と思っていたら社会派だった件

公開日: : アニメ, ドラマ, 映画:ハ行, , 配信

菅田将暉さんと有村架純さん主演の恋愛映画『花束みたいな恋をした』。普段なら自分は絶対観ないようなタイプの映画。近年の日本の恋愛ものといえば、パートナーのどちらかが難病にかかるかマンガ原作の映像化、人気アイドルタレントの夢の共演といったところ。自分にはまったく無縁のジャンルと化している。それではなんで興味を示したかと言うと、この映画のカップルがサブカル好きの設定だと知ったから。そしていまどき珍しい、原作なしのオリジナル脚本ということ。

ここ20年、日本の映像メディアでは、原作のヒットがなければ企画が通らないのは当たり前だった。原作媒体は数万部以上の売上実績があること。そこに今人気の俳優をキャスティングする。そうしなければ宣伝効果は出ない。映画制作は儲かることが最優先。投資や実験、新しい才能の発掘や育成などの冒険などできない。とにかく出資者は損をすることを嫌う。過去のヒット作のデータを集めて、その成功例だけを映画制作に落とし込む。結局、同じような手垢のつきまくった映画が量産されていしまう。キャスティングも今が旬の人を起用することが大事。内容にミスマッチだったり、ミスキャストなんて関係ない。そもそもお金を出す側は、映画のストーリーなんて興味がない。話題の集まっているものを揃えれば、ヒット作が生まれると勘違いしている。逆に、映画の企画を通すために、とりあえずノベライズを書いて売上実績をつくってから、映画化の企画会議にのせていくパターンもある。この遠回りな方法は、プロデュース側に審美眼がないことと、日本全体が経済的にジリ貧になっていることの現れ。

ダメダメなメジャー日本映画の潮流で、原作なしのオリジナル脚本の映画が誕生するのは、それだけでワクワクする。原作なしでも有名な脚本家が担当するなら、オリジナルでも企画が通りやすい。脚本は『東京ラブストーリー』などの人気脚本家・坂元裕二さん。自分はこの『東京ラブストーリー』というドラマのヒットをリアルタイムで知っている。でも10代の男子が、恋愛ドラマの魅力などわかるはずもない。社会現象にもなったドラマだったけど、まったく理解できずのアウェイ。後になって自分も脚本家養成学校に通うようになり、有名な作品はとりあえず知っておかなければと、勉強のつもりで流行りのドラマを観たりもした。坂元裕二さんは、最近観た映画の『怪物』でカンヌ国際映画祭脚本賞を獲っている。ならば話題になった『花束みたいな恋をした』も観てみたくなる流れとなる。

『花束みたいな恋をした』の舞台となるのは2015年〜2020年の5年間。ちょうどコロナ禍直前で物語は終わっていく。趣味や考え方の近い男女が出会ったら、それは運命的な出会いと感じてしまう。ソウルメイトに会った電撃。なんで他人のイチャイチャしている姿をずっと見せつけられなければならないのかと疑問も膨らみつつの鑑賞。他人の恋バナほど気色の悪いものはない。ただこの映画のカップルは、ルックスがとてもカワイイ。観ているこちらもときめいてしまう。恋愛は始まりの時期が一番楽しい。そしてどんになに蜜月を過ごしたカップルも、三年経てばその熱は冷めてしまう。それは生存本能みたいなもので、三年で育児もひと段落ついたり、諦めもついて他のパートナーを探すようになるらしい。この映画のカップルは五年付き合って破局している。蜜月期はとっくに終わって、結婚もせず子どももできなかった。予期せぬ人生イベントが、熱の冷めたカップルをつなぐこともあるが、この二人にはその転機は訪れない。

似たもの夫婦という言葉がある。うまくいっているカップルは、皆どこか似ているところがある。2人並んで歩いている姿がしっくりしている。若い頃だと自分と似た価値観の人などはいないと感じている。でも、趣味が合うからといって、性格も合うとは限らない。誤解も人生を先に進めるきっかけになるのなら、悪いことばかりではない。この映画の主人公たちは、自分とは世代が違うけれど、かなり似たタイプの人たち。自分もサブカルは大好きだし。クリエーター職にも就いていた。街でみつける有名人は、華やかなタレントよりも、映画監督やプロデューサーのような裏舞台のクリエーターばかり。自分もかつては多摩川沿いの部屋に住んでいた。窓からの景色が多摩川しかないのが最高だった。駅から徒歩30分以上かかることも気にしない。部屋にいるとき、どれだけ快適に過ごせるかが部屋選びの最優先事項。この映画のインテリアがいい。あれ、既視感。昔観た映画『いま、会いにゆきます』を思い出した。監督が同じ土井裕泰監督と知り、なるほどと思った。演出やキャスティングばかりが、監督の個性ではない。

この仲のいいカップルの結末が破局を迎えることを、映画は早い段階で観客に伝えている。どうしてそんな顛末を迎えてしまうのか。ミステリー小説でも読むかのように、観客の興味をそそる巧みな脚本技術。このカップルは、お互いを嫌いになって別れるわけではない。この二人の行手を阻むものは、日本の社会制度の悪さ。企業最優先の経済社会を構築するために、個人の生活など度外視されている風潮。普通に働くだけで安定した生活ができる給料は、今の日本ではなかなか貰えない。少子化や生涯結婚率の低さがメディアで取り上げられている。その原因はこの映画で描かれている。生きるのがやっとの社会経済では、将来に夢など描けるはずもない。

菅田将暉さん演じる麦は、イラストレーター志望。個人事業のクリエーターとしての仕事は、常に足元を見られて格安での受注を余儀なくさせる。これでは食っていけない。意地になって就職する。給料をきちんともらえる職探し。焦ってブラック企業に突入していく。その人の人生観は、その人の仕事で大きく左右される。サブカルの趣味も捨てて、仕事中心の生活となっていく。それがどんどん麦の心を荒ませていく。現在日本の非正規雇用者の数が問題となっている。けれど正社員だからといって必ずしも安泰とは限らない。どんなに働いても残業代が月額一律払いの企業に就職したなら、夜中だろうが休日だろうが休みもなく馬車馬のように働かされる。それで心身を壊してしまっても、会社は保証してはくれない。そんな働かせ方をさせるブラック企業は、社員を使い捨てにするだろう。仕事も健康も失ってしまい、途方に暮れることにもなりかねない。生活のために働いているのに、肝心な生活が、仕事によって滅茶苦茶にされていく。まさに本末転倒。

有村架純さん演じる絹は、趣味と生活を密着させようとする。彼女はイベント会社に就職する。麦からは「そんなの遊びで、仕事じゃない!」となじられる。確かに仕事は楽しいかもしれないが、生活できるほどの収入が得られそうにもない。浮いた職業柄、危うい人間も集まりやすい。もちろんその真っ当ではないところが、その仕事の魅力でもある。でもキャリアとしては貧弱。「好きなことを仕事にするべき」と、自己啓発などでは言われがち。でもはたしてその「好きなこと」が食っていける仕事なのか。好きだけでは生活は成り立たない。仕事選びは、「好きなこと」より、「生活できること」や「長くやっていけること」の方が重要。趣味と仕事は棲み分けた方が、結果的に人生がシンプルになってラクになる。将来のプランも立てやすくなる。そういった意味では、麦も絹も職業選びのポイントで失敗している。

ただ、仕事選びに失敗しただけで、将来が見えなくなってしまうのでは、そもそも社会構造がおかしいと捉えた方がいい。日本人は自分が失敗したときに、まず自分を責める癖がある。一生懸命やっても、なんの活路も見いだせないようなら、原因は自分以外にあると考えた方がいい。この映画の二人はかなりタフな人たちらしく、別れて数ヶ月もしないうちに別のパートナーを見つけて再出発を始めている。観客は映画を通してこの二人の蜜月にずっと付き合わされたから、かなり切なく思えてしまう。どんなにタフでも、ダメージは受けている。やり直してもやり直しても、同じ壁にぶつかり続けていると、いつか心も折れてしまう。この映画の二人が、オタクの割には肉食系というものギャップがあって面白い。そういえば、オタクのうんちくが通じない相手には、すぐ自分の意見を引っ込められる社会的協調性の高さにも感心してしまう。

若者が将来に夢を抱けない。未来地図が見れるなら、かなりの贅沢となってしまった2020年までの日本。我らを取り巻くこの国のサブカル界も、終焉を迎えつつあるようにも感じた。それというのは、このサブカル・カップルの趣味嗜好が、親の世代に近い自分たちの頃とほとんど同じということ。日本の発展の失われた20年が、そのままサブカルに反映している。かなり末期的な印象。けれど、2020年にコロナ禍が社会を変えた。これが悪いことばかりではなかった。

コロナ禍においてサブカル業界では、ライブができなくなたり、映画館へ行けなくなったりした。自宅に篭る生活が続いて、みんな配信で動画を観るようになった。レンタルビデオ屋はカードゲーム屋に代わり、ミニシアターが相次いで暖簾を下ろしていった。家にいる時間が増えたため、国産のテレビアニメを配信で知る人が増えた。日本のアニメ資本も、海外からのものが主流となってきた。ブラック環境と言われた日本のアニメ制作事情も改善されつつある。潤沢な資金とアニメーターの生活の補償が整えば、良質な作品が生まれてくるのは当然のこと。バラエティに富んだコンテンツの多さの配信サービスで、テレビを楽しむ人が増えた。貧弱なテレビ局の番組に注目は薄れる。テレビ機器は、放送局から流れる番組を受信することより、配信サービスを楽しむ機械となった。映画好きも、配信でいつでも好きな映画を観れるようになった。DVDやBlu-rayのような円盤の売れ行きも激減した。実際、ディズニーは今後円盤事業は無くしていくらしい。

コロナ禍のビフォアアフターで、サブカルの流れは大きく変わった。そこには寂しさよりも、便利さの方が大きく感じられる。日本はサブカルをはじめ芸術を軽視する風潮がある。でもサブカルはその社会をダイレクトに映す鏡でもある。サブカルが盛り上がっている国は元気がある。日本は何度目かのアニメブームの再来で、世界が注目し始めている。ここから不景気の突破口が見つかればいいのだが。

そういえばこの映画の二人の出会いは、押井守監督の話題からだった。押井守監督作品は、自分が子どもの頃観ていたもの。今の若い人も押井守監督をレジェンとして感じているのだろうか。それはそれで危うい。時代があまりにも変わらなすぎる。けれどコロナ禍以降、確実にアニメ業界のクリエーターも世代交代できたようにも感じる。この映画のコロナ前の状況と、現在のコロナ後の現状は異なった雰囲気を持っている。サブカル業界もコロナ禍でひと時代を終えた。中年以降の人が、「最近の若い人の観るものはわからない」と言えるようになれば、本当に時代が変わったのだと思える。流行では老人が振り回されるくらいで、ちょうどいいのかもしれない。

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