*

『(500)日のサマー』 映画は技術の結集からなるもの

公開日: : 最終更新日:2021/02/28 映画:カ行

恋愛モノはどうも苦手。観ていて恥ずかしくなってくる。美男美女の役者さんが演じてるからサマになるけど、このセリフやシチュエーションを考えてるのが、オタクみたいなおっさんや、夢見る夢子のままおばさんになってしまった人なのが、見え隠れしてなんかしてくると、興ざめどころかキモい。

現実で恋愛しているときの刺激は、なによりも勝る。そこではあらゆる感情が現れてくる。人生の歓びもあるだろうが、修練の場といった方がよさそうだ。だからわざわざ創作で、他人様の惚れた腫れたに付き合っている暇はない。むしろなんで恋愛モノなんてジャンルがあるのかすら疑問に思ってしまうほど。

まだ小中学生の女子が少女マンガにハマるのはわかる。数年後、自分も恋愛するだろうから、いろいろな凡例の知識として興味があって当然。このときの書物との出会いが、後の人生に大きく影響してくる。その時代だけしか通用しない流行りのマンガやアニメより、何十年も読み継がれている作品に出会った方が幸せな人生が送れそう。

自分はシリアスな恋愛モノは寒気がして観てられないが、海外のラブコメは結構好きだ。恋愛は当事者にとっては一大事だが、第三者からみたらイジワルな笑いの要素でいっぱい。人のふり見て我がふり直せではないが、ちょっとした襟を正して生きていく指針にもなる。

この『(500)日のサマー』は、今から10年弱前の2009年の作品なのに、いまだに話題にする人が多い。監督はマーク・ウェブ。聞いたことがあるぞ。なんだ『アメージング・スパイダーマン』の監督か。この映画がきっかけで大作に抜擢されたのか。

恋愛で相手のリアクションに一喜一憂して大騒ぎするのはよくある話。主人公が大騒ぎすればするほど、観客側はどんどん冷めていく。もちろん主人公は熱烈でいい。その物語が面白くなるかならかならないかの要は、いかに語り部の作家が、一歩引いた目で事象をとらえられるか。

この映画はボーイ・ミーツ・ガールからその終焉までの500日に絞って、時系列をバラバラにする仕掛けがある。ある場面では出会いのときめきに胸膨らむ姿が描かれていれば、次の場面では500日に近くなり、なんだか倦怠期に落ち込んでる。なんでそうなっちゃったの? 観客の興味をそそる。あたかもミステリー小説のページをめくるかのように、その顛末を紐解いていく楽しさ。

ジョセフ・ゴードン=レヴィットが、奥手の主人公をぶざまに演じてる。ぶざまだけど、彼、イケメンだからあんまりぶざまに見えない。ここが恋愛モノのファンタジー。

クロエ・グレース・モレッツ演じるローティーンの妹がやけに達観している。しどろもどろの兄に恋愛のアドバイスしてる姿も面白い。男はいつまでたっても子どものままだが、女は子どもの頃から女だ。でも他人事を客観的に正論でまとめるのはそれほど難しいことではない。

日本でもすっかりおなじみになったIKEAが、オシャレなデートスポットとして登場するのに時代を感じる。

『(500)日のサマー』は、小洒落た映画的テクニックがあちこちに散りばめられている。男目線だけで描かれているのも映画的デフォルメ。女性側がそのときなにを感じ考えているかは、全編通して直接的には描かない。それは観客ひとりひとりが洞察すればいい。映画は省略の芸術でもある。解釈の幅があった方が、鑑賞後語り合うのが楽しい。

マーク・ウェブ監督は、演出技術を巧みに使って、映画を面白くしている。未完で頓挫した『アメージング・スパイダーマン』シリーズは、よっぽどプロデューサーとかがうるさいこと言って、のびのび演出させてくれなかったのではないだろうか。この監督の他の作品も観てみたくなった。

関連記事

『キングコング 髑髏島の巨神』 映画体験と実体験と

なんどもリブートされている『キングコング』。前回は『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジ

記事を読む

no image

日本企業がハリウッドに参入!?『怪盗グルーのミニオン危機一発』

  『怪盗グルー』シリーズは子ども向けでありながら大人も充分に楽しめるアニメ映画。ア

記事を読む

『Ryuichi Sakamoto : CODA』やるべきことは冷静さの向こう側にある

坂本龍一さんのドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto : CODA』を観た。劇場

記事を読む

『ゴールデンカムイ』 集え、奇人たちの宴ッ‼︎

『ゴールデンカムイ』の記事を書く前に大きな問題があった。作中でアイヌ文化を紹介している『ゴー

記事を読む

『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』 ヒーローは妻子持ちNG?

今年は『機動戦士ガンダム』の35周年。 富野由悠季監督による新作 『ガンダム Gのレコン

記事を読む

『コンテイジョン』映画は世界を救えるか?

知らないうちに引退宣言をしていて、いつの間に再び監督業に復帰していたスティーブン・ソダーバー

記事を読む

『枯れ葉』 無表情で生きていく

アキ・カウリスマキ監督の『枯れ葉』。この映画は日本公開されてだいぶ経つが、SNS上でもいまだ

記事を読む

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』子どもとオトナコドモ

小学二年生の息子が「キング・オブ・モンスターズが観たい」と、劇場公開時からずっと言っていた。

記事を読む

『まだ結婚できない男』おひとりさまエンジョイライフ!

今期のテレビドラマは、10年以上前の作品の続編が多い。この『結婚できない男』や『時効警察』な

記事を読む

『鑑定士と顔のない依頼人』 人生の忘れものは少ない方がいい

映画音楽家で有名なエンニオ・モリコーネが、先日引退表明した。御歳89歳。セルジオ・レオーネや

記事を読む

『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』 映画鑑賞という祭り

アニメ版の『鬼滅の刃』がやっと最終段階に入ってきた。コロナ禍の

『ひとりでしにたい』 面倒なことに蓋をしない

カレー沢薫さん原作のマンガ『ひとりでしにたい』は、ネットでよく

『舟を編む』 生きづらさのその先

三浦しをんさんの小説『舟を編む』は、ときどき日常でも話題にあが

『さらば、我が愛 覇王別姫』 眩すぎる地獄

2025年の4月、SNSを通して中国の俳優レスリー・チャンが亡

『ケナは韓国が嫌いで』 幸せの青い鳥はどこ?

日本と韓国は似ているところが多い。反目しているような印象は、歴

→もっと見る

PAGE TOP ↑