『黒い雨』 エロスとタナトス、ガラパゴス
映画『黒い雨』。
夏休みになると読書感想文の候補作となる
井伏鱒二氏の原作を今村昌平監督が映画化。
広島の原爆と原爆症に苦しむ
普通の人々を描いた本作。
当時としてはかえって制作費のかかる
モノクロフィルムで制作されている。
原爆の場面を真正面から描きたい
という意気込みが映像から伝わる。
今はシネコン・バルト9となっている場所にあった
新宿東映で、自分は10代のとき鑑賞しました。
今と違って防音設備のない映画館。
道路の音もだだ漏れで、
遂には劇場で演説しはじめちゃう人とかいて、
なんだか落ち着かない鑑賞でした。
実はその頃自分は生前の今村昌平監督と
お会いしてるんですね。
当時、今平監督が校長をしていた
日本映画学校(現・日本映画大学)を
受験した時、面接官だったのです。
今平監督の作風は豪快なので、
さぞかし怖い人かと思い、
ビクビクしていましたが、
なんのことはない、
ボクちゃん相手にするくらい
優しく接してくれました。
この学校で説明会で、
生徒の作品をみせていただいたんですね。
驚いたのは、必ず学生女優の
ヌードシーンがあるってこと。
まだまだ習作です。
技術も演技も内容も稚拙です。
そのなかで意味もなくヌードがでてくると
びっくりしちゃいます。
人前で裸になるくらいの覚悟が無くて
女優になれるか!! って精神論が聞こえてくる。
精神論でなく、技術論だけを教えて欲しい。
そんな甘ったれた言葉は通用しなさそう。
男性芸人でネタに困ったら、
全裸になればウケる。
女性タレントで落ち目になったら、
全裸になれば注目を浴びる。
よく言われる。
ある意味最終手段。
性をテーマにした、
センセーショナルな作品を発表して、
世に問うくらいの気概があるならまだしも、
闇雲に裸になっても、そればかりが浮いてしまう。
高い授業料払って、
娘が裸を撮られて発表されてしまうのでは、
親も泣きますよ。
ただ根性を見せれば良いというものでもない。
正しい場所で正しいエネルギーを使うべき。
習作でヌードなんて10年早いっ!!
今平監督作の特徴で赤裸々な性描写は必至。
女優のヌードシーンはひとつの見せ場。
ただ今平監督作の場合、
ヌードシーンは重要な意味を持っている。
むしろ必要不可欠な効果素材。
性と生と死。生命力の象徴。
生徒の作品はなんとなく
校長の作品の表面だけを
なぞっただけにすぎないという印象。
顔色うかがい過ぎ!
ただ、当時の校風が
たまたまそうだっただけで、
今はどうかはわかりませんが……。
なんて反発してるので、
もちろんその学校は受かりませんでした。
この『黒い雨』でも、
田中好子さんのヌードシーンがあります。
入浴しているときに、
自分の髪がゴソッと抜けるんですね。
原爆症が発症したのを自覚する場面。
そこで抜けた髪をみて、
ニタアって笑うんですね。
なんとも不気味な場面。
そういった効果を踏まえての描写は、
観客の脳裏にずっと残るのです。
作品を作るのに、精神と技術、
その整合性をとる冷静な判断力は
必要不可欠なのです。
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