*

『黒い雨』 エロスとタナトス、ガラパゴス

公開日: : 最終更新日:2021/10/30 映画:カ行,

映画『黒い雨』。
夏休みになると読書感想文の候補作となる
井伏鱒二氏の原作を今村昌平監督が映画化。

広島の原爆と原爆症に苦しむ
普通の人々を描いた本作。

当時としてはかえって制作費のかかる
モノクロフィルムで制作されている。

原爆の場面を真正面から描きたい
という意気込みが映像から伝わる。

今はシネコン・バルト9となっている場所にあった
新宿東映で、自分は10代のとき鑑賞しました。

今と違って防音設備のない映画館。
道路の音もだだ漏れで、
遂には劇場で演説しはじめちゃう人とかいて、
なんだか落ち着かない鑑賞でした。

実はその頃自分は生前の今村昌平監督と
お会いしてるんですね。

当時、今平監督が校長をしていた
日本映画学校(現・日本映画大学)を
受験した時、面接官だったのです。

今平監督の作風は豪快なので、
さぞかし怖い人かと思い、
ビクビクしていましたが、
なんのことはない、
ボクちゃん相手にするくらい
優しく接してくれました。

この学校で説明会で、
生徒の作品をみせていただいたんですね。

驚いたのは、必ず学生女優の
ヌードシーンがあるってこと。

まだまだ習作です。
技術も演技も内容も稚拙です。
そのなかで意味もなくヌードがでてくると
びっくりしちゃいます。

人前で裸になるくらいの覚悟が無くて
女優になれるか!! って精神論が聞こえてくる。

精神論でなく、技術論だけを教えて欲しい。
そんな甘ったれた言葉は通用しなさそう。

男性芸人でネタに困ったら、
全裸になればウケる。
女性タレントで落ち目になったら、
全裸になれば注目を浴びる。
よく言われる。
ある意味最終手段。

性をテーマにした、
センセーショナルな作品を発表して、
世に問うくらいの気概があるならまだしも、
闇雲に裸になっても、そればかりが浮いてしまう。

高い授業料払って、
娘が裸を撮られて発表されてしまうのでは、
親も泣きますよ。

ただ根性を見せれば良いというものでもない。
正しい場所で正しいエネルギーを使うべき。
習作でヌードなんて10年早いっ!!

今平監督作の特徴で赤裸々な性描写は必至。
女優のヌードシーンはひとつの見せ場。

ただ今平監督作の場合、
ヌードシーンは重要な意味を持っている。
むしろ必要不可欠な効果素材。

性と生と死。生命力の象徴。

生徒の作品はなんとなく
校長の作品の表面だけを
なぞっただけにすぎないという印象。
顔色うかがい過ぎ!

ただ、当時の校風が
たまたまそうだっただけで、
今はどうかはわかりませんが……。

なんて反発してるので、
もちろんその学校は受かりませんでした。

この『黒い雨』でも、
田中好子さんのヌードシーンがあります。

入浴しているときに、
自分の髪がゴソッと抜けるんですね。
原爆症が発症したのを自覚する場面。

そこで抜けた髪をみて、
ニタアって笑うんですね。
なんとも不気味な場面。

そういった効果を踏まえての描写は、
観客の脳裏にずっと残るのです。

作品を作るのに、精神と技術、
その整合性をとる冷静な判断力は
必要不可欠なのです。


関連記事

no image

『君たちはどう生きるか』誇り高く生きるには

  今、吉野源三郎著作の児童文学『君たちはどう生きるか』が話題になっている。

記事を読む

『マグノリアの花たち』芝居カボチャとかしましく

年末テレビの健康番組で、糖尿病の特集をしていた。糖尿病といえば、糖分の摂取を制限される病気だ

記事を読む

『キングスマン』 威風堂々 大人のわるふざけ

作品選びに慎重なコリン・ファースがバイオレンス・アクションに主演。もうそのミスマッチ感だけで

記事を読む

『このサイテーな世界の終わり』 老生か老衰か?

Netflixオリジナル・ドラマシリーズ『このサイテーな世界の終わり』。BTSのテテがこの作

記事を読む

『ダンダダン』 古いサブカルネタで新感覚の萌えアニメ?

『ダンダダン』というタイトルのマンガがあると聞いて、昭和生まれの自分は、真っ先に演歌歌手の段

記事を読む

『ゴッドファーザー 最終章』 虚構と現実のファミリービジネス

昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の脚本家・三谷幸喜さんが、今回の大河ドラマ執筆にあた

記事を読む

『きっと、うまくいく』 愚か者と天才の孤独

恵比寿にTSUTAYAがまだあった頃、そちらに所用があるときはよくその店を散策していた。一頭

記事を読む

no image

大人になれない中年男のメタファー『テッド』

  大ヒットした喋るテディベアが主人公の映画『テッド』。 熊のぬいぐるみとマーク・

記事を読む

no image

『電車男』オタクだって素直に恋愛したかったはず

  草食男子って、 もう悪い意味でしか使われてないですね。 自分も草食系なんで…

記事を読む

no image

太宰治が放つ、なりすましブログのさきがけ『女生徒』

  第二次大戦前に書かれたこの小説。 太宰治が、女の子が好きで好きで、 もう

記事を読む

『ブラッシュアップライフ』 人生やり直すのめんどくさい

2025年1月から始まったバカリズムさん脚本のドラマ『ホットス

『枯れ葉』 無表情で生きていく

アキ・カウリスマキ監督の『枯れ葉』。この映画は日本公開されてだ

『エイリアン ロムルス』 続編というお祭り

自分はSFが大好き。『エイリアン』シリーズは、小学生のころから

『憐れみの3章』 考察しない勇気

お正月休みでまとまった時間ができたので、長尺の映画でも観てみよ

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』 あらかじめ出会わない人たち

毎年年末になるとSNSでは、今年のマイ・ベスト10映画を多くの

→もっと見る

PAGE TOP ↑