*

『魔女の宅急便』 魔法に頼らないということ

公開日: : 最終更新日:2021/04/11 アニメ, 映画:マ行

ウチの子どもたちも大好きなジブリアニメ『魔女の宅急便』。

実はウチの子たちはジブリアニメがあまり好きではない。子ども目線からすると、重くて暗くて怖い世界観みたいです。結局ジブリ作品は大人のためのアニメのようです。しかし『となりのトトロ』と、この『魔女の宅急便』は、子どもたちの間ではヘビーローテーション。とうとうディスクにキズがついて観れなくなってしまった。

この映画の主人公キキは魔女見習い中。魔法といえば空を飛ぶことしか憶えられなかった。そのキキがスランプになり、魔法が使えなくなるというのが最大の見せ場。困難を乗り切って向かえるラストシーン。独りのときずっと話し相手だった黒猫のジジが肩に寄り添ってくるのだけれど、以前みたいにおしゃべりができない。キキはちょっとさみしそうな顔をするのだけれど、次の瞬間それを受け入れるような目線の芝居をします。これが映画のラストシーン。

自分がこの映画を初めて観たのは10代の頃。生まれて初めて親元を離れて、一人暮らしをした年だったので、あたかも自分の姿をみるようでした。ここで黒猫のジジとはしゃべれないまま物語は終わってしまいます。10代の頃はなんだか釈然としない印象を受けましたが、いまとなってはこれはベストな終わり方なのだと思います。映画では、黒猫ジジとは魔法を使って話しているような表現こそしているけれど、じつはこれ、自問自答のメタファーなのだと。子どもの頃、無力な自分を思い知り、自己弁護するために、自分は人と違う力を持っていると思い込もうとする。イマジナリーフレンド。

魔法が使えるのではないか?
超能力があるのではないか?
千里眼があるのではないか?

そんな風に「自分は特別な存在だ」と大人になる年齢になるまで言っていたら、それはもうほとんどビョーキだろう。無力な自分を認めてあげる。きっとそれが大人になる第一歩。だからもうキキは、黒猫ジジの声に頼る必要がなくなったのです。魔法という自分だけにしか通用しない方法を隠れ蓑にしなくなることで、物語は終わっていくのです。

この映画の声優さんは、主人公キキと年上の画学生役を高山みなみさんが二役演じています。意図としては、女性はいくつになっても同じ人のようなものであったのかも知れませんが、キキとジジが同じ声優さんのほうがしっくりするのでは? と今となっては感じてしまうのです。

関連記事

『もののけ姫』女性が創る社会、マッドマックスとアシタカの選択

先日、『マッドマックス/怒りのデスロード』が、地上波テレビ放送された。地上波放送用に、絶妙な

記事を読む

『銀河鉄道999』 永遠の命と拝金主義

『銀河鉄道999』は自分が小学生低学年の頃、 社会現象になるくらいの人気があった。

記事を読む

no image

『ファインディング・ドリー』マイノリティへの応援歌

  映画はひととき、現実から逃避させてくれる夢みたいなもの。いつからか映画というエン

記事を読む

『シェイプ・オブ・ウォーター』懐古趣味は進むよどこまでも

今年2018年のアカデミー賞の主要部門を獲得したギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・

記事を読む

no image

『君の名は。』株式会社個人作家

  日本映画の興行収入の記録を塗り替えた大ヒット作『君の名は。』をやっと観た。実は自

記事を読む

『ベルサイユのばら(1979年)』 歴史はくり返す?

『ベルサイユのばら』のアニメ版がリブートされるとのこと。どうしていまさらこんな古い作品をリメ

記事を読む

no image

『団地ともお』で戦争を考える

  小さなウチの子ども達も大好きな『団地ともお』。夏休み真っ最中の8月14日にNHK

記事を読む

no image

『マイレージ、マイライフ』失業、それもまた人生のチャンス。

  イケア・ジャパンが従業員全員を 正社員化することを発表した。 非正規社員

記事を読む

『進撃の巨人 完結編』 10年引きずる無限ループの悪夢

自分が『進撃の巨人』のアニメを観始めたのは、2023年になってから。マンガ連載開始15年、ア

記事を読む

『インクレディブル・ファミリー』ウェルメイドのネクスト・ステージへ

ピクサー作品にハズレは少ない。新作が出てくるたび、「また面白いんだろうな〜」と期待のハードル

記事を読む

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

→もっと見る

PAGE TOP ↑