『ミニオンズ』 子ども向けでもオシャレじゃなくちゃ
もうすぐ4歳になろうとしているウチの息子は、どうやら笑いの神様が宿っているようだ。いつも常に人を笑わそうとしている。それも決して深入りすることなく、空気を読みながら絶妙なタイミングでおちゃらけてみせる。自分が子どもだからこそウケる方法もわきまえている。おばあちゃんのハートをつかむのはお手の物。しかも、絶対子どもになんか興味のなさそうな、スマホ歩きしてる通りがかりのお兄さんにまでアピって、ちゃんと失笑させてしまう。お笑いに対してのレーダーも鋭い。テレビのお笑い番組も、勢いばかりの芸風には興味を示さないが、コント番組のような綿密な計算の笑いには、一瞬で食いつく。社会風刺ネタとかで、意味がわかっていないだろうけど、ちゃんと作り手が笑わせようとしているポイントで笑っている。そんな息子がずっと観たがっていた『ミニオンズ』。彼の笑いのレーダーに、ビビッときたのだろう。
ミニオンは『怪盗グルー』の部下で、一体何者なのかわからない集団。黄色くてちっちゃくて、メガネ(ゴーグル)をかけている。いつもみんなではしゃいでわるふざけばかりしている。幼稚園児くらいの精神年齢なんだけど、どうやら不死身のようなので、悪ノリのスケールがでかい。まったくもってうらやましい能力! この映画『ミニオンズ』は、『怪盗グルー』シリーズの前日談。ミニオンたちがまだグルーに出会う前の話。
ミニオンは、大悪党に憧れているのだけれど、ボスがいないとモチベーションがあがらない。自分たちでリーダーを選出すればいいのに、誰かにくっついて動くことを好む。これって日本人がモデルなのかな? アニメをつくる制作者たちは、当然日本のアニメは観ているだろうし、この映画は日本の企業も協賛している。日本にこびるような描写も多々。ミニオンは独自のミニオン語を喋る。何言ってるかわからないのに、何やってるのかわかる楽しさ。カタコトの英語や日本語がまじってる。「ヤキトリ〜!」とか叫んだりしてる。
幕末の開国時代、日本へ来た外国人が、日本人はいつもダジャレばかり言ってふざけていて、なんてユーモア好きで人懐っこい国民なんだと思ったらしい。確かに幕末の志士みたいな、血の気の多い連中もいただろうが、今も昔も日本人はそんなにかわらず、身内でちちくり合うのが好きな、素朴な人たちばかりなのだろう。
映画は1960年代が舞台。ここぞとばかり、その時代のサブカルチャーを再現してる。ミニオンが泥棒しようとしたら、警備員に囲まれる。ミニオンの秘密兵器・催眠帽子で、警備員に催眠をかけてみんなで踊りだす! 『フルモンティ』のパロディ。パンツいっちょでみんなで踊るなんて、子どもたち、大好物。うちの子も、ミニオンズと一緒に踊ってた! 映画の前半はアメリカで、後半はイギリス。エリザベス女王が若いときって、あんな笑い方、ホントにしてたのかな? サントラには60代ロックがふんだんに使われている。ヒッピー文化もおさえつつ、ストーンズやらジミヘンやらドアーズや、やたらカッコいい。イギリスに移動したのは、ビートルズやUKロックもおさえるためか! この映画での60年代ロックの使われ方は、あくまでBGMとして雰囲気づくり。音楽ファンには、ちと物足りない使われ方かもしれないけど、この映画を観た子どもたちが、古いロックに耳が慣れていくなんて、かなりステキ‼︎
今回、ミニオンズには3人がメインに冒険する。セリフが監督自ら演じるミニオン語なのに、三者三様の個性がちゃんと出ている。自分はいちばんちっちゃいボブが気にいった。いつもテディベアだいじに持ってるの。映画を観たらみんなボブが好きになるらしく、どこへ行ってもボブのキャラクター商品がなくなってる!
子どもをターゲットに作っている映画だけど、普通にただの子ども向けだと、どうしてもダサくなっちゃう。それを避けるための工夫が随所に感じる。おバカなのにオシャレ。親子で楽しめるエンターテイメントになっている。もちろん大人だけで観ても楽しい。制作のイルミネーションスタジオは、ライバルスタジオのピクサーに負けないスタイルを築いた。ピクサーが内容勝負なら、こちらは小ネタのオンパレード。ストーリーなんて、あってないようなもの。その潔さが気持ちいい。
なんだかこの時代で続編作って欲しくなった。そのときはぜひとも少年グルーとミニオンズの冒険話にして欲しい! おじさんじゃない怪盗グルー。かわいいんだか、憎たらしいんだかわからない絶妙な雰囲気になるんじゃないかな? 妄想は膨らむばかり。
関連記事
-
-
『たちあがる女』 ひとりの行動が世界を変えるか?
人から勧められた映画『たちあがる女』。中年女性が平原で微笑むキービジュアルは、どんな映画なの
-
-
『さよなら、人類』ショボくれたオジサンの試される映画
友人から勧められたスウェーデン映画『さよなら、人類』。そういえば以前、この映画のポスターを見
-
-
『RAW 少女のめざめ』それは有害か無害か? 抑圧の行方
映画鑑賞中に失神者がでたと、煽るキャッチコピーのホラー映画『RAW』。なんだか怖いけど興味を
-
-
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』ある意味これもゾンビ映画
『スターウォーズ』の実写初のスピンオフ作品『ローグ・ワン』。自分は『スターウォーズ』の大ファンだけど
-
-
『虹色のトロツキー』男社会だと戦が始まる
アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGINE』を観た後、作者安彦良和氏の作品
-
-
『レヴェナント』これは映画技術の革命 ~THX・イオンシネマ海老名にて
自分は郊外の映画館で映画を観るのが好きだ。都心と違って比較的混雑することもなく余
-
-
『未来を花束にして』勝ち得たものの代償
イギリス映画の『未来を花束にして』。100年前のロンドンを舞台に、女性の選挙権の必要性を訴え
-
-
『進撃の巨人 完結編』 10年引きずる無限ループの悪夢
自分が『進撃の巨人』のアニメを観始めたのは、2023年になってから。マンガ連載開始15年、ア
-
-
『ブレイブハート』 歴史は語り部によって変化する
Amazonプライムでメル・ギブソン監督主演の『ブレイブハート』が配信された。映画『ブレイブ
-
-
『反社会学講座』萌えアニメも日本を救う!?
まじめなことにユーモアをもって切り込んでいくのは大切なことだ。パオロ・マッツァリ
- PREV
- 『スターウォーズ展』 新作公開というお祭り
- NEXT
- 『映画 妖怪ウォッチ2』とその未来