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『メッセージ』ひとりが幸せを感じることが宇宙を変える

公開日: : 最終更新日:2018/06/02 映画:マ行,

http://www.bd-dvd.sonypictures.jp/arrival/

ずっと気になっていた映画『メッセージ』をやっと観た。人類が宇宙人とファースト・コンタクトを取るストーリーだが、おそろしく地味なSFだ。昨年『ブレードランナー2049』を発表したドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の作品。

『メッセージ』のプロモーションでのヴィルヌーヴ監督の言葉に、「現代の消費社会に対する疑問を映画のテーマに据えた」とあった。社会風刺や警鐘を鳴らすのは、本来SF作品の役目だ。SFは現実逃避というより、ガス抜きのエンターテイメント。ヴィルヌーヴ監督はそれを分かっている。その姿勢に好感を抱いた。

自分は事前にテッド・チャンの原作短編小説『あなたの人生の物語』を読んでいた。中国系のテッド・チャンの作風は、アーサー・C・クラークに影響を受けた、哲学的宗教的な内容。彼の作品は短編ばかりで長編作はないのだが、その短編のどれもが濃密な構想と情報量で、それらをあえて省略しているような印象。描かれていないところは読者が各自想像してくださいと委ねてる。とても知的で興味深い作家さんだ。

映画『メッセージ』。原題は『Arrival』。邦題の意味改変に関してはもう論じるまでもない。このドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画版は、原作にある「行間を読んで欲しい」という雰囲気をそのまま残して、ストーリーを膨らませている。だから観客の想像力も刺激してくれる。

ただ短編小説を長編映画にする、ハリウッド映画にするという枷で、どうしてもストーリーをスケールアップしなければならないのは仕方がない。宇宙人がやって来たことによって、国家間の争いや、はたまた宇宙戦争の危機までに肥大してしまうのは、なんだかやりすぎな気がした。これも原作のテーマがすげ替えてしまうくらいリスキーな脚色だ。

どの国も政治家や軍隊が躍起になって宇宙人対策を練っている。どの男たちも好戦的だ。でもこの作品の主人公は女性言語学者。主人公が女性ということが、作品に大きな意味を持たせる。

映画は宇宙戦争の危機がクライマックスに用意されているが、実はそれは本筋ではない。原作では宇宙人たちは、各国のお偉いさん方が望むようなものは何一つせずに、さっさと帰ってしまう。軍や国家の計画は水泡に帰した結果となる。緊張感いっぱいのアーミーたちが滑稽に見えてくる。宇宙人たちが伝えたものは大きなものでなく、小さな個人の人生のこと。

よく大義のために個人は我慢しろという考え方がある。目標や結果がみえていて、あとひと頑張りでそれが達成できるときは忍耐も必要。でもやみくもに耐えることを要求する社会や組織はやがて衰退する。我慢はよくない。

大きなものを守るために、小さな一個人は犠牲になれ。だけど大きなものというのは、小さなものの集合体。我慢に我慢を重ねた不幸の集まりが、幸せに向かうとは到底思えない。我慢を強制するのは、統率者の詭弁に過ぎない。人ひとりが幸せを感じることの大切さ。

ハッピーな自分になるためには受け身では無理。幸せに生きる工夫と努力は必要だ。ときに物事を取捨選択しなければならない。

未来を知って、それが不幸なものだとしても、自分の気持ちがそちらへ行きたいのなら、やはり迷わずその道を突き進むだろう。宇宙人たちが劇中で女性言語学者に伝えたメッセージは、「宣告」ではなく「呼び水」だと信じたい。そうでなければ、わざわざよその星からやってくる意味がないから。

占いの卦も、その人が動き出すと変わると聞く。そのヒントを「彼ら」は伝えに来たのかもしれない。政治やら国家やら、そんなものより大切なのは、自分自身が価値ある人生を送ること。私の幸せは、この宇宙とつながっているというロマン!

ちょっと気になったのは、深い知識のある宇宙人たちは一部の米軍の蜂起にどうして事前に気づかなかったのかってこと。でももしかしたら、自分たちの身の危険もすべて知った上で、命がけでひとりの人間になにかを伝えに来たのだとすると、またこの映画のロマンは膨らむ。

自分が幸せになることで、周りも幸せになっていく。この殺伐とした世の中だからこそ、大事なメッセージが映画に含まれている。

しかしドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の、間をじっくりとった演出はかなり好み。最近の映画の流行りは、いかにテンポよい早いカット割りで、音楽ガンガンにがなりたてるもの。もちろんそれでうまくいっている作品はたくさんある。ただみんなそればかりでは辟易してしまう。ハリウッド映画にとどまらず、どの国の映画も似たようなスタイルになってしまった。その流れに逆らうヴィルヌーヴ演出。大画面で観るのにふさわしい。

原作小説を読んだとき、頭の中でイメージした映像をまったく違和感なく映画になっていた。

近年これといって好きな監督がいなくなったな〜と思っていた矢先、ドゥニ・ヴィルヌーヴとの出会いに、自分はワクワクしている。

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