『ローレライ』今なら右傾エンタメかな?
今年の夏『進撃の巨人』の実写版のメガホンもとっている特撮畑出身の樋口真嗣監督の長編デビュー作品『ローレライ』。福井晴敏氏の原作『終戦のローレライ』の映像化。舞台は第二次世界大戦末期、広島に原爆が落とされ、劇中では長崎の日もむかえ、第三の原爆投下を阻止する任務に就いた潜水艦の話。もちろんフィクション。ただ舞台は現実にあった戦争だし、主人公の青年は海の特攻隊・回天の隊員。映画は2005年公開だが、もし2015年の今の公開だったら、戦争を美化していると右傾エンタメ扱いになるだろう。
物語はリアリティよりも、歴史物の体裁をしながら、有名アニメ作品のアイディアのパッチワークと言ったところ。樋口真嗣監督が特撮やアニメ出身の人というのもあるが、サンライズアニメ『装甲騎兵ボトムズ』や『機動戦士Zガンダム』にでてくる強化人間の少女がでてきたり、乗組員達が自己犠牲でバタバタ死んでいく姿、はたまた潜水艦ものは名作ぞろいなので様々な作品のパロディというかオマージュというかパクリのオンパレード。映画ファンならニヤニヤしっぱなし。
ただ2005年のこの頃、戦争を題材にした映画というのは、偏った思想のものでなければそこそこヒットした。観客が戦争について好奇心があった現れだと思う。でこの『ローレライ』も、役所広司さんはじめ豪華キャストなので、まじめな戦争映画と勘違いして来てしまったお客さんが多かったと思う。蓋を開けてみて「なんじゃこりゃ?」ってなった観客も多かっただろうに。自分はもうコスプレ的にきゃあきゃあ笑いながら観ていた。
実際に合った戦争を舞台に面白おかしく描いた作品を笑いながら観れたのはとても幸せなことだと思う。これは平和で豊かな世の中が前提で成り立つこと。さていま日本の作品で、戦争を扱った映画を観たいかといったら即答で「NO」。なんだかプロパガンダの臭いを感じずにはいられない。せいぜい10年前では気にならなかったことが、今の世ではうさんくささがしてしょうがない。
これは自分が色眼鏡でものを判断するようになってしまったからなのか? それとも日本の世の中が変わってしまったのか? よくわからないところだ。
関連記事
-
-
『父と暮らせば』生きている限り、幸せをめざさなければならない
今日、2014年8月6日は69回目の原爆の日。 毎年、この頃くらいは戦争と
-
-
『her』ネットに繋がっている時間、私の人生は停まっている
スパイク・ジョーンズ監督作品『her/世界でひとつの彼女』は、本格的なSF作品としてとても興味深い。
-
-
『ラストナイト・イン・ソーホー』 ハイセンスなおもちゃ箱
前作『ベイビー・ドライバー』がめちゃめちゃ面白かったエドガー・ライト監督の新作『ラストナイト
-
-
『鬼滅の刃 無限列車編』 映画が日本を変えた。世界はどうみてる?
『鬼滅の刃』の存在を初めて知ったのは仕事先。同年代のお子さんがいる方から、いま子どもたちの間
-
-
『ラースと、その彼女』 心の病に真摯に向き合ったコメディ
いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの人気者になったライアン・ゴズリング。彼の魅力は、そこはかとなく漂う
-
-
『ピーターパン』子どもばかりの世界。これって今の日本?
1953年に制作されたディズニーの アニメ映画『ピーターパン』。 世代を
-
-
『シン・ウルトラマン』 こじらせのあとさき
『シン・ウルトラマン』がAmazon primeでの配信が始まった。自分はこの話題作を劇場で
-
-
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』虐待がつくりだす歪んだ社会
ウチの子どもたちも大好きな『ハリー・ポッター』シリーズ。こわいこわいと言いながらも、「エクスペクト・
-
-
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』子どもとオトナコドモ
小学二年生の息子が「キング・オブ・モンスターズが観たい」と、劇場公開時からずっと言っていた。
-
-
『平家物語(アニメ)』 世間は硬派を求めてる
テレビアニメ『平家物語』の放送が終わった。昨年の秋にFOD独占で先行公開されていたアニメシリ