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『ローガン』どーんと落ち込むスーパーヒーロー映画

公開日: : 最終更新日:2020/06/02 アニメ, 映画:ラ行, , 音楽

映画製作時、どんな方向性でその作品を作るのか、事前に綿密に打ち合わせがされる。制作費が高ければ高いほど、偉い人たちが集まって、どこまでどれくらいお金がかけられて、どんな客層がどれくらい財布の紐を緩めてくれるか予想をたてる。原作のある作品でも、どんな演出にするかで映画のヒットに関わってくる。今の時流にあった作風か。マーケティングはシビアだ。

この映画『ローガン』は、今流行りのスーパーヒーローモノにも関わらず、もの凄くシリアスで、鑑賞後トラウマになるほど救いがなく暗い。ディズニー・マーベルが楽しい作品が多いのに反して、このFOXマーベル作品『ローガン』は一線を画するところ。『デッドプール』に続いてR指定作品だが、あちらはコメディタッチなので、作風のタイプがだいぶ違う。

ローガンことウルヴァリンは、かつてX-MENのメンバーだったミュータント。いわばスーパーヒーローだった人。彼も老いて、かつての強さは失せてすっかり弱ってる。帰還兵の老人のよう。元気なときはいくらでも人を殺せたが、弱った今ではそのPTSDに苦しめられている。同居人はかつてミュータント集団X-MENの首魁だったプロフェッサーX。プロフェッサーXはアルツハイマー状態。意に沿わないストレスがかかると電磁波を放って、周りの人がみな動けなくなっちゃう。それにウルヴァリンの遺伝子から生まれた娘が加わってロードムービーになっていく。

弱ったスーパーヒーローと、要介護の痴呆老人、ヒーローの隠し子との共同生活。みんな特殊能力を持っている。そのあらすじを聞いたとき、自分の中の笑いを察知するセンサーがピンときた。「これはバカバカしくて笑えそうだ」。蓋を開けたらまったく真逆。笑えるどころか、悲惨すぎて非常に落ち込む。

アメコミはユダヤ人が作ったメディア。正義の心を子どもたちに教育しようとするプロバガンダ。『X-MEN』で描かれているミュータントへの迫害は、第二次大戦中にナチスが行ったユダヤ人へのそれのメタファー。コミックというオブラートに包んで、悲惨な出来事を告発している。

2000年から始まった映画版『X-MEN』シリーズは、コミックの世界を本気のリアルドラマ・タッチに仕上げた。子どもだまし的な荒唐無稽な世界観を、あたかも文芸作品のように演出していく。公開当時はそのスタイルが新鮮だった。

『シックス・センス』のM・ナイト・シャマラン監督みたいな、ホントは薄っぺらいマンガチックな物語を、あたかも高尚な作品かのように演出した映画が流行った。自分も初めて『シックス・センス』を観たときは、「面白い、こんな映画が観たかった」と本気で思ったものだ。イノベーションの成功。でもやっぱり内容が暗すぎるし、オタクがオタクであることを開き直った詭弁っぽい。それ以降同じような映画がたくさん出てきだけど、すぐ飽きちゃって観なくなってしまった。所詮は禁じ手の演出手法なのだろう。

若い人は生命力が溢れているので、かえって暗いものを求める傾向があると聞いたことがある。若き荒ぶるエネルギーの中和作用。『ローガン』は、どっぷり落ち込みたい人にはピッタリのエンターテイメント作品だ。

ヴィクトル・ユゴーが『レ・ミゼラブル』を書いた動機は、歴史的な悲劇に翻弄された理不尽な人生を告発するものだったかも知れない。やがてミュージカルになり、素晴らしい楽曲もあったせいか、「泣けるエンターテイメント」へと変化していったのではないだろうか。もともと原作は社会派の作品だったろうが、その堅苦しさは咀嚼され、ある種のファンタジーとなる。果たしてユゴーは、ミュージカルになった『レ・ミゼラブル』を観たら、どんな感想を抱くのだろうか? そういえばこちらもヒュー・ジャックマン主演だ。

『ローガン』には、社会派な問題提起のテーマはないだろう。元ネタはシリアスな西部劇のテイストらしい。エンターテイメントのためのエンターテイメントだ。

自分も歳を重ね、ただただ暗いだけの作品はしんどくなってきた。紛争地の状況や、歴史的な事件のもと、人々が何を感じどう生きたかを検証して物語にされたものなら、しんどいけど観てみたい。そのために落ち込むのは覚悟すると思う。自分や自分の子孫たちが幸せに生きられる世の中を目指すために、過去の不幸は知っておきたい。

ただ、自分もパワーがなくなってきた。ヘコむ目的だけで作られた作品に付き合えるほど元気じゃなくなった。もし自分も若ければ、この徹底した暗さの『ローガン』にハマったかもしれない。

物語の中の子どもたちに一筋の希望を持ちたいが、彼ら彼女らも殺人マシーンとして生み出された存在だ。紛争地で少年兵にならざるを得なかった子どもたちのように、これからの人生、PTSDに苦しめられるであろうことは容易に想像できる。映画はそんなことはお構いなしに美談として終焉していくだろう。

ロードムービーは、主人公たちがなにがしかを探しに行く物語だ。この『ローガン』の登場人物たちは、はじめから自分の死に場所を探しに旅に出る。

悲劇を咀嚼したアメコミを、先祖返りでシリアスに料理し直したリアル・ヒーロー映画。オリジナルの持つ問題提起もすっかりなくなった。これを観て何かを学ぶことは難しい。

でもそもそも映画を観て何かを学ぶきっかけなる人って意外と少ない。自分は何かを観て興味が湧いたら、関連する書物などを探して調べはじめる習慣がある。映画を観て「面白かった」「つまらなかった」だけで終わることはまずない。世の映画ファンと話をして、温度差を感じるところがそのところ。結局タイトルの羅列になったり、どっかのネット情報の受け売り話を交わすしか無くなる。

まあ、そうなると自分は完全に聞き手に回るので、退屈なひとときとなるものだ。だから映画ファンとはあまり話が合わない。映画や本の虫でなくとも、自分の言葉で感想が言える人は面白い。

重いけど軽い『ローガン』は、なかなか感想が言いづらい。無意味に落ち込みたい人にはピッタリの映画。自分はこの映画観た晩は、悪夢で汗ビッショリだったから、徹底した嫌な気分に浸れるにはオススメ映画だ。

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