*

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 アニメ, 映画:サ行, , 音楽

 

作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなっている。ご冥福をお祈り致します。

自分にとって冨田勲さんの印象といえば、シンセサイザー奏者というよりも、『ジャングル大帝』や『リボンの騎士』など、手塚治虫さんのテレビアニメの音楽の印象が強い。

とくに『ジャングル大帝』の壮大なテーマ曲は、再放送を観ていた当時幼稚園児だった自分でも、カッコいいと感動していたものです。当時のアニメは子ども向けに作られているので、主題歌といえば主人公の名前が歌詞に入った、子ども向けの覚えやすいメロディーなのがあたりまえ。この『ジャングル大帝』では、オーケストラの歌なしのインスト曲がオープニングテーマ。舞台となるアフリカのリズムを交えた、ハリウッドの大作映画のサントラさながらの重厚な音づくり。

この『ジャングル大帝』は、制作当初から海外進出を念頭に置いて制作されていたらしい。ミュージカル要素の強い、映像とシンクロした音楽は、ディズニー映画の作り方を、日本のテレビアニメに取り入れたことになる。手塚治虫さんは、自身も大ファンであるディズニー作品のスタイルを、日本版でイノベーションしようとしたのだろう。

ディズニー映画の大作の作風は現在に至るまで一貫して、子ども向けであっても幼稚な作りをしていないこと。大人にも通用する最高のエンターテイメントの技術を導入する。それは子ども達に最高のものを観せてあげたいという、制作者達の思いの現れだろう。この演出技術の素晴らしさだけで、ストーリーに感情移入する前から感動させられてしまう。

このテレビアニメ『ジャングル大帝』が制作された1960年代は、アニメーションというジャンル現れたばかり。日本ではまだまだこれからどんなものに化けていくのかわからない時代。制作者達はこの新しいジャンルで何が出来るか模索していただろう。新しい芸術に携わるカッコよさ、どれだけワクワクすることだろうか。だからこそ、現在の日本のアニメが、ごく限られた人向けだけに作られている現状は、ちょっと寂しかったりもする。

『ジャングル大帝』を海外へ持っていったとき、冨田勲さんのこの音楽はとてもユニークな印象を与えたことでしょう。のちにディズニーで発表され、いまだミュージカル版はロングランの記録を伸ばしている『ライオンキング』は、この『ジャングル大帝』からインスパイアを受けているのは周知のこと。『ライオンキング』発表当時、アメリカから手塚側はディズニーを盗作で訴えるべきではと打診されていた。その返答が「手塚は生前、ディズニー作品を愛していたのでむしろ光栄に思っているでしょう」というもので、ゴシップを期待していた世の中に、逆に美談となって伝わった。

作品が生まれるには、過去の良質な作品を愛するものがそれに影響され、ブラッシュアップされ新作となっていくことは、クリエイティブの世界ではよくあること。それをパクリととるかオマージュととるかは、その新作の中にある、過去作への真摯な敬愛の念が感じられればすぐ判断できる。

手塚治虫さんの作品は、そもそもディズニーのタッチの模倣からはじまっている。それをパクリと言われたら、もう立場がない。もし裁判大国アメリカのノリで訴えてしまったら、つまらない泥試合にしかならなかっただろう。お互いがお互いのファンだからこそ、名作が生まれる。新作のモチベーションは敬愛から!

原作の漫画『ジャングル大帝』は、主人公レオが生まれ、親離れして家族をつくり、命尽きるまでの一代記。レオが最後を迎える頃、息子は少年期のレオと瓜二つになっている。こうして命は受け継がれていく。壮大なテーマは『ライオンキング』でも『サークル・オブ・ライフ』として、やはり受け継がれていく。

作者がこの世を去ったあとでも、その精神は次世代へと脈々と受け継がれていくのは、なんともロマンに溢れている。

関連記事

『ツイスター』 エンタメが愛した数式

2024年の夏、前作から18年経ってシリーズ最新作『ツイスターズ』が発表された。そういえば前作の

記事を読む

『天気の子』 祝福されない子どもたち

実は自分は晴れ男。大事な用事がある日は、たいてい晴れる。天気予報が雨だとしても、自分が外出し

記事を読む

『デザイナー渋井直人の休日』カワイイおじさんという生き方

テレビドラマ『デザイナー渋井直人の休日』が面白い。自分と同業のグラフィックデザイナーの50代

記事を読む

『真田丸』 歴史の隙間にある笑い

NHK大河ドラマは近年不評で、視聴率も低迷と言われていた。自分も日曜の夜は大河ドラマを観ると

記事を読む

『ヒックとドラゴン』真の勇気とは?

ウチの2歳の息子も『ひっくとどらぽん』と 怖がりながらも大好きな 米ドリームワークス映画

記事を読む

『三体(Netflix)』 神様はいるの?

Netflix版の『三体』をやっと観た。このドラマが放送開始されたころ、かなり話題になっていたし

記事を読む

『ハイキュー‼︎』 勝ち負けよりも大事なこと

アニメ『ハイキュー‼︎』の存在を初めて意識したのは、くら寿司で食事していたとき。くら寿司と『

記事を読む

『斉木楠雄のΨ難』生きづらさと早口と

ネット広告でやたらと『斉木楠雄のΨ難』というアニメを推してくる。Netflix独占で新シーズ

記事を読む

『さらば、我が愛 覇王別姫』 眩すぎる地獄

2025年の4月、SNSを通して中国の俳優レスリー・チャンが亡くなっていたことを初めて知った

記事を読む

『マイマイ新子と千年の魔法』 真のインテリジェンスとは?

近年のお気に入り映画に『この世界の片隅に』はどうしも外せない。自分は最近の日本の作品はかなり

記事を読む

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』 こうしてすべてが変わっていく

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』という映

『M3GAN ミーガン 2.0』 ゆるぎないロボ愛よ永遠に

自分はSFが好き。友だちロボットのAIがバグって、人間を襲い出すS

『ナミビアの砂漠』 生きづらさ観察記

日曜日の朝にフジテレビで放送している番組『ボクらの時代』に俳優

『サタンタンゴ』 観客もそそのかす商業芸術の実験

今年2025年のノーベル文化賞をクラスナホルカイ・ラースローが

『教皇選挙』 わけがわからなくなってわかるもの

映画『教皇選挙』が日本でもヒットしていると、この映画が公開時に

→もっと見る

PAGE TOP ↑