*

『007 スペクター』シリアスとギャグの狭間で

公開日: : 最終更新日:2021/01/01 映画:サ行, 映画:タ行, 音楽

評判の良かった『007 スペクター』をやっと観た。

前作『スカイフォール』から監督は続投で映像派のサム・メンデス。007シリーズにアカデミー受賞監督が抜擢されるのも意外だし、なにより同じ監督が二作連続でメガホンをとるのも珍しい。二作目ということもあってか、今回はとても安定した演出。画面ではスゴいことが起こっているのに、サラリと肩を張らずに観れてしまう。果たしてそれがいいのかどうかは趣味が別れるけど、自分はこれくらいラフな方が観やすいかな。

007シリーズが始まった当時は、このキザでクールでゴージャス、平気で人殺しができて、女にモテモテの超肉食系のジェームズ・ボンドは、誰もが憧れるヒーローだった。

時代が変わって、一般の人もなんとなく心理学に詳しくなってしまうと、ここまで新奇探査傾向が強すぎると、この人ビョーキだなと冷静に感じてしまう。『オースティン・パワーズ』なんかでも、さんざおちょくられてしまったので、そのままの演出だとギャグ映画になってしまう。

それを知ってか知らずか、今回のメンデスの演出はコメディセンスも冴えてる。それもマジメな観客や、マニアには不愉快にさせない程度の絶妙なさじ加減。どんなにひどい目にあっても、死なないどころかピンピンしてるボンドに、笑いをとらせる余裕すらある。

そういえばロジャー・ムーアの頃、ジョーズっていうライバルとの闘いのやりとりがコテコテのコントみたいだったっけ。それが許されるなら、ユーモアのセンス、良くなりました。

ホントは人殺しなんてしたくないんだよって、ブルーアイズの哀しい目をした、アヒル口のダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドは結構好き。ここはシリアス色が強まったところ。クレイグ版007は今回が最後と噂されてる。エンドロールに「007 will return」とでていたけど、次は新生ボンドで戻ってくるのかも知れない。

始め、サム・スミスの主題歌が憂いすぎだろうと思ったけど、これくらい向こうで泣いてくれれば、観客のこちらは素直に笑う準備をしてしまう。これは確信犯なのか、天然なのか?

長寿シリーズは熱烈なファンが多いから、独走したら総スカンになるし、冒涜は絶対NG。いままでの作品のオマージュもまじえているようなので、なかなかの手練れの演出。オスカー監督さすがです!

クレイグの007シリーズはすべて連作なのも新鮮。

ベン・ウィショーのQが、理系オタク少年みたいで楽しい。MI6のメンバーが普通に通勤してる生活感も笑えた。案外スキだらけなのね。

ボンドガールも豪華。前半はイタリアのモニカ・ベルッチ、セクシー女優もすっかり熟女になってお久しぶりです。

そして中盤から後半出ずっぱりの、フランスのレア・セドゥがカワイイ! まだあどけない感じだし、他の作品では学生の役をしていたので、23〜24歳くらいかと思ってましたが、もう31だとか。自分はダニエル・クレイグが50歳過ぎてると思っていたので、親子ぐらい歳の離れたカップルでヤラシイな〜と誤解してしまった。クレイグまだ40代なのね。老けてる。哀しみ背負いすぎ!

ダニエル・クレイグとレア・セドゥが高価な身なりで並ぶツーショットがゴージャス過ぎる。あまりにキマリ過ぎで、やっぱり笑えてしまうのは、自分の感性もかなりゆがんでる。

とにかくMI6の仲間たちを背にして、ボンドガールと去ってしまうのなら、ジェームズ・ボンドもやっと帰るべき場所をみつけたのだろうか? それはそれでなによりだが。さて次回はいかに⁉︎

関連記事

no image

『FOOL COOL ROCK!』サムライ魂なんて吹っ飛ばせ!!

  『FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY

記事を読む

『オクジャ okuja』 韓国発、米国資金で米国進出!

Netflixオリジナル映画『オクジャ』がメディアで話題になったのは2017年のこと。カンヌ

記事を読む

『タナカヒロシのすべて』 鳥肌実のアヤシい存在感とまっとうな人生観

昨日は8月15日。終戦記念日。 この日で自分がすぐ イメージするのは靖国神社。

記事を読む

『男はつらいよ お帰り 寅さん』 渡世ばかりが悪いのか

パンデミック直前の2019年12月に、シリーズ50周年50作目にあたる『男はつらいよ』の新作

記事を読む

『チ。 ー地球の運動についてー』 夢に殉ずる夢をみる

マンガの『チ。』の存在を知ったのは、電車の吊り広告だった。『チ。』というへんなタイトルがキャ

記事を読む

no image

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』顛落の悲劇。自業自得か殉教者か?

  問題作すぎて新作『ニンフォマニアック』の 日本公開も危ぶまれながらもうじき公開

記事を読む

『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』 特別な存在にならないという生き方

立川シネマシティ[/caption] 世界中の映画ファンの多くが楽しみにしていた『スター・ウ

記事を読む

『Ryuichi Sakamoto | Opus』 グリーフケア終章と芸術表現新章

坂本龍一さんが亡くなって、1年が過ぎた。自分は小学生の頃、YMOの散会ライブを、NHKの中継

記事を読む

no image

『葉加瀬太郎』と子どもの習い事

何でも今年は葉加瀬太郎さんのデビュー25周年らしいです。まだ『クライズラー&カンパニー』がそ

記事を読む

no image

『スイス・アーミー・マン』笑うに笑えぬトンデモ・コメディ

インディペンデント作品は何が出てくるかわからないのが面白い。『スイス・アーミー・マン』は、無人島に一

記事を読む

『侍タイムスリッパー』 日本映画の未来はいずこへ

昨年2024年の夏、自分のSNSは映画『侍タイムスリッパー』の

『ホットスポット』 特殊能力、だから何?

2025年1月、自分のSNSがテレビドラマ『ホットスポット』で

『チ。 ー地球の運動についてー』 夢に殉ずる夢をみる

マンガの『チ。』の存在を知ったのは、電車の吊り広告だった。『チ

『ブータン 山の教室』 世界一幸せな国から、ここではないどこかへ

世の中が殺伐としている。映画やアニメなどの創作作品も、エキセン

『関心領域』 怪物たちの宴、見ない聞かない絶対言わない

昨年のアカデミー賞の外国語映画部門で、国際長編映画優秀賞を獲っ

→もっと見る

PAGE TOP ↑