『シェイプ・オブ・ウォーター』懐古趣味は進むよどこまでも

今年2018年のアカデミー賞の主要部門を獲得したギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』。デルトロ監督の前作は厨二魂全開の『パシフィック・リム』。でも宣伝では『パンズ・ラビリンス』の監督最新作と謳ってる。アート色の強いダーク・ファンタジー。系譜としては後者なのだろう。
デル・トロ監督は、当初続投予定だった『パシフィック・リム』の続編も蹴って、このオリジナル作品『シェイプ・オブ・ウォーター』に専念した。結果的にファンタジー系の作品にも関わらず、世界的な大きな賞をいくつも獲った。英断だったのは間違いない。
アカデミー賞の主要部門を獲ったくらいだから、さぞかし独創的な映画かと期待してしまった。映画を観ると、あまりにオーソドックスな作品なので、ちょっと驚いた。
アカデミー受賞作で前にもこんな感じの作品あったぞ。『ラ・ラ・ランド』がそうだ! 全米始め世界でも大ヒット。映画の公開が世界一遅い日本で、どんな作品か首を長くして待っていたら、オマージュのてんこ盛りの映画だった。もちろん面白い映画だし、評価されておかしくない作品だ。古き良きミュージカル映画のあのシーン、あの場面を彷彿させる演出を、現代の最新ハイテク撮影で表現している。年老いたアカデミー審査員に郷愁の念を抱かせてしまう。ついつい涙とともに票を入れてしまう。その計算は、あざといと言えばあざとい。
この『シェイプ・オブ・ウォーター』も、クラシカルな特撮映画のエッセンスにあふれている。謎の怪人は、昔の半魚人のイメージ。奇怪な生き物と人間の女性の恋愛モノも『キングコング』や、『美女と野獣』のオマージュ。
インタビューでデル・トロ監督が声だかに、「この『シェイプ・オブ・ウォーター』は、『美女と野獣』のアンチテーゼ。『美女と野獣』のラストで、野獣は美男子な王子に変身するが、こちらは野獣は野獣のまま終わる。美女も出ない」と言っていた。でもこの映画でも、主人公はトランスフォームしてしまう。やはりこの手の題材は変身願望を叶えなければ決着しないのか。
幼稚園児の男の子が、戦隊モノや怪獣モノの特撮作品に出会い胸を高鳴らせる。だんだん大きくなってきて、まだ幼少期の初めての胸の高まりを忘れられない。でも子ども向けの特撮作品では物足りなくなる。もっとスケールのデカい特撮が観たい。その表れが、映画『パシフィック・リム』やマイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー』だろう。
特撮モノが進化したハリウッド映画は、元ネタに準じて、いたって単純なストーリー。(厳しい言い方をすれば、幼稚な内容。)だから小さな子どもでも理解できるだろうと観せてみる。大抵の子どもは「怖いから止めてくれ」と言うだろう。胸を躍らせるなんてとんでもない。我々大人は、何かが麻痺してしまったらしい。奇しくも『シェイプ・オブ・ウォーター』もR指定。性描写も小さな子どもが抱く、羞悪なものとして登場する。
ニーチェが『ツァラトゥストラはかく語りき』で言っていた、成熟した人間である「超人」は、「大人」とは違って「パワーアップした子ども」の意味。喜怒哀楽の感覚に素直で、直感力が豊か。それが「超人」。「大人」になると、そんな感受性が衰えていく。
『シェイプ・オブ・ウォーター』の主人公イライザはろうあ者の中年女性。けして美人ではない。友人はゲイの老人で、同僚は黒人。世の中から虐げられてきた人々だ。弱者の視点を集めてみた。マイノリティをおさえるのは、最近の王道。
映画を作るとき、あんな場面が撮りたいとか、こんな人が見たいとか、作品を立ち上げるために浮かんだ要素を集めてみる。そのひとつひとつバラバラの要素を、いかに整合性つけてパッチワークしていくかで、作品は仕上がっていく。それがうまくいけば名作となる。
たとえ「人が見たことがないもの」をつくりだしたとしても、観客がついていけないほどカッ飛んだものを作ってしまったら、誰にも見向きされない。ある程度「観たことがあるもの」、「知っているもの」を、斬新な視点で料理するかに才能は問われてくる。オーソドックスは否定できない。それがエンターテイメントだ。
『シェイプ・オブ・ウォーター』も『ラ・ラ・ランド』も、面白い映画だし、人々に愛される作品だと思う。ただ、これほど懐古趣味な映画ばかりが、アカデミー賞を獲ってしまう近年の様子をみると、みんなもう新しい感性を発掘する気力がなくなってしまったのかと危惧してしまう。
世界中が疲れてる。過去に浸っていたい、現実に背を向けたい人が、思っているよりはるかに多いのかも知れない。先鋭を走っている筈の映画ですらこんな傾向なんだから、夢をみるのも難しくなってきたと、肩を落としてしまいそうだ。おセンチもほどほどに。さあ、元気を出さなきゃ。
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