*

『SUNNY』 日韓サブカル今昔物語

公開日: : 映画:サ行, 音楽

日本映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』は、以前からよく人から勧められていた。自分は最近の邦画の漫画原作実写化や、ゆるふわ学園恋愛ものブームに辟易している。90年代サブカル懐古主義と、学園ものをイノベーションするなんて、なんだかとてもあざとい。観るのがちょっと恥ずかしい。その時代を自分も経験しているが、あまりいい印象がないのが正直なところ。まず観ることはない映画かと思っていた。

この映画のロケ地には、自分の母校が使われていると、同郷の古い友人から知らされていた。ふとこの映画を動画付きで紹介してくれた人がいて、学校の場面で校舎が登場して、変な汗が出てきた。我が母校が映画でどのように登場しているのだろう。

映画の撮影で使われている校舎は数校あった。似た作りの校舎を、この場面では外観だけ、ここでは教室や体育館の室内と、組み合わせて撮影されている。映画では、まるでひとつの校舎で撮影されているかのように仕上がっている。似たような構造の校舎を、よくいくつもみつけたなあと、映画のスタッフさんに感心してしまう。

90年代の日本のサブカルは、自分にとっては黒歴史にも近い。当時コギャルと呼ばれていた女子高生たちは、凶暴で怖い。この映画で舞台になるのは1995年以降だと思う。幸い自分はその時高校生ではなかった。もし当事者の高校生だったら、学校が辛くて仕方なかったことだろう。

映画は、使用されている当時のヒット曲がどうかとか、ファッションがどうかとか懐かしむ暇もないくらい、物語の展開が早い。現代の中年になった主人公たちが、学生時代を思い返す。現在と過去が同時進行で進んでいく。過去が暖色、現在が寒色という映像の区別化は、『ラストエンペラー』などで使われている手法。派手な生き方をしていれば、それなりに犯罪にも巻き込まれていくもの。そのエグさもちゃんと描いてる。レーティングはPG12だし、なんだか日本映画っぽくない。

調べると、この映画の原作は韓国の『サニー 永遠の仲間たち』という映画だった。この映画は、世界的に評判が高い。リメイク化は日本だけでなく、香港・ベトナム・インドネシアとアジア中心に数作ある。今後アメリカでもリメイク映画が製作されるらしい。世界中に共感が得られている作品。

韓国版『サニー』と日本版『SUNNY』、観比べる楽しさがある。韓国と日本はお隣の国。文化も近しい。韓国との微妙な文化の違いが楽しい。日中、街中でも祈りの時間があったり、美容整形があたりまえだったり。過去の場面は20年前にもかかわらず、当時のファッションセンスは、日本の1970年代っぽかったり。韓国はこの20年くらいで大幅にファッションが進化したのがわかる。

本編で使用されている音楽も気になる。日本版『SUNNY』は、95年くらいの国内Jポップで埋め尽くされている。韓国版『サニー』は、自国のKポップもあるけれど、世界的に有名な英語の楽曲もたくさんある。サブカルが国内外とミックスしているし、そのおかげでこの映画が世界的に受け入れられたのだろう。欧米からしてみたら、東アジアのよく知らない国の人たちも、同じ音楽を聴いて青春を過ごしたのだと、文化による共感。

そこで感じたのは、日本は90年代から、サブカルが自国中心になっていったこと。それ以前は、海外の音楽や映画が重宝されており、国内製のサブカルは、ローカライズされた簡易版というイメージがあった。いつしか洋楽はマニア向けとなった。映画も国内完結型の作品ばかり。それ以前はハリウッドを意識して、海外進出を試みた国内作品も多かったような気がする。ある意味日本では、90年代から文化の鎖国が始まってしまった。

韓国版『サニー』は、世界中の誰が観ても共感できる作品。でも日本版『SUNNY』は、日本人だけがわかる国内完結型の作品に仕上げられている。

でもそれはけして日本版『SUNNY』がつまらないというわけではない。オリジナルのいいところは、演出も演技もそのまま流用して、整合性取りづらかった場面も、感情移入しやすい流れに変更されている。とかくリメイク作はオリジナルに勝てないのが常だが、この日本版リメイクは、ものすごくおもしろいエンターテイメント作品にブラッシュ・アップされている。作り直す意味はあった。

中年になった登場人物たちは、誰もがみな、ハッピーではないところが悲しい。日本版では、彼女たちは太く短く生きていた印象を受ける。でも韓国版では、女性の生きづらさを訴えるようなフェミニズムを感じる。

若くて綺麗なだけが人生なのか。映画はそこまで社会問題を考えているとは思えないが、韓国の人たちの深層心理での、社会への思いが伝わってくる。

日本と韓国は、サブカルチャーが近い。ただこの10年で韓国は、ファッションや美容だけでなく、さまざまなジャンルで世界進出を果たしている。映画『パラサイト』がアカデミー賞を受賞したり、BTSが何度もビルボード1位を獲得したりしている。ソフトパワーのアメリカを牛耳る勢い。日韓のサブカルの格差は激しい。

国の違いはあっても、良いものは良い。新しい物好きの人たちは、どこの国の文化であれど、楽しければどんどん取り入れていく。そこには敬意もある。一般の人々は、どこの国であろうとも仲良くしていきたい気持ちがある。先入観や偏見のない若い人なら尚のこと。残念ながら、国のトップや政治だけが、反目しようとしている。実際市井の生活には、国境の差別なんて無意味で不利益しかない。

同じ物語を、各国の視点で描いた『SUNNY』という映画。制作意図とは別の感じ方をしてしまうのも、また映画の面白いところなのかもしれない。

関連記事

『DUNE デューン 砂の惑星』 時流を超えたオシャレなオタク映画

コロナ禍で何度も公開延期になっていたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF超大作『DUNE』がやっと

記事を読む

『ベイビー・ドライバー』 古さと新しさと遊び心

ミュージカル版アクション映画と言われた『ベイビー・ドライバー』。観た人誰もがべた褒めどころか

記事を読む

no image

マイケル・ジャクソン、ポップスターの孤独『スリラー』

  去る6月25日はキング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンの命日でした。早いこ

記事を読む

no image

『ポンヌフの恋人』ボウイを愛した監督・カラックス

  デヴィッド・ボウイの訃報はまったく信じられなかった。1月8日のボウイの誕生日に、

記事を読む

『ジョジョ・ラビット』 長いものに巻かれてばかりいると…

「この映画好き!」と、開口一番発してしまう映画『ジョジョ・ラビット』。作品の舞台は第二次大戦

記事を読む

『希望のかなた』すべては個々のモラルに

「ジャケ買い」ならぬ「ジャケ借り」というものもある。どんな映画かまったく知らないが、ジャケッ

記事を読む

『STAND BY ME ドラえもん』 大人は感動、子どもには不要な哀しみ?

映画『STAND BY ME ドラえもん』を 5歳になる娘と一緒に観に行きました。

記事を読む

『このサイテーな世界の終わり』 老生か老衰か?

Netflixオリジナル・ドラマシリーズ『このサイテーな世界の終わり』。BTSのテテがこの作

記事を読む

no image

『槇原敬之』自分ではダメだと思っていても……。

  今年は槇原敬之さんのデビュー25周年ということ。自分が槇原敬之さんの存在を知った

記事を読む

『グラディエーター』 Are You Not Entertained?

当たり外れの激しいリドリー・スコット監督の作品。この『グラディエーター』はファーストショット

記事を読む

『サタンタンゴ』 観客もそそのかす商業芸術の実験

今年2025年のノーベル文化賞をクラスナホルカイ・ラースローが

『教皇選挙』 わけがわからなくなってわかるもの

映画『教皇選挙』が日本でもヒットしていると、この映画が公開時に

『たかが世界の終わり』 さらに新しい恐るべき子ども

グザヴィエ・ドラン監督の名前は、よくクリエーターの中で名前が出

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

→もっと見る

PAGE TOP ↑