『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は諸刃の刃
公開日:
:
最終更新日:2019/06/13
映画:タ行
ジェイムズ・キャメロン監督が放った愛すべきキャラクター『ターミネーター』。何度も続編やらテレビシリーズがつくられ、もうすっかりSFアクション映画のスタンダードになってしまった。今回の新作は久しぶりにシュワちゃんことアーノルド・シュワルツェネガーがターミネータ役として戻ってくる!! もうそれだけでファンとしてはたまらん。この映画からオリジナルの『ターミネーター』と『ターミネーター2』へのリスペクトがこれでもかと感じてしまう。タイムパラドックスを扱った作品だけにこれでもかとどんでん返しの連続。ぼんやりしているとストーリーに追いつけなくなってしまう。どんでん返しの後はアクションに次ぐアクション。もうすっかり目が回ってしまう。
今回はシュワちゃん以外はおなじみのキャラクターもキャスト総入れ替え。カイル・リース役はやっぱりジェイ・コートニーよりもマイケル・ビーンの切ない感じの方が良かったけど、サラ・コナー役はリンダ・ハミルトンよりエミリア・クラークの方がかわいくていい。そういえばジョン・コナー役のジェイソン・クラーク、同じファミリーネームだけど親戚かなにかなの?
タイムパラドックスを表現するために、前作と同じ場面は、まったく完コピのカメラワークでソックリな役者さんで再現してる。で、途中で展開が急変して、あれあれ?と言ってる間にストーリーが進んでくる。観客の多くはオリジナルの『1』と『2』は腐るほど観てるだろうから、このどんでん返しはにやけてしまう。有名なセリフ「Come with me, if want you live」を誰が言うのかが、毎回の見もの。
ネームバリューがある作品というのは、タイトルだけでお客が入る。それは有利なのだが、どうしても観客は熱烈なファンなので、どんな新作をつくったとしても、なかなか観客が手放しで誉めてはくれない。そこが弱点。この映画の製作陣はオリジナルの大ファンなのは伺える。なので同じファンである観客をいい意味で裏切ろうと必死に仕掛けてくる。ただファンがつくるファンに向けた作品なので、やっぱり同人誌的。本家のシュワちゃんが出なければ、ホントにファンの集いみたいになってしまう。難しいところです。最初の『ターミネーター』はSFとして新しい作品をつくろうとして生まれた作品。今回の『ジェニシス』は前作のリスペクト作品。そうなってしまうと結局前作に追いつくのが精一杯。やっぱり『ターミネーター』ファンの集に終止してしまう。
この新作『〜新起動/ジェニシス』は新三部作として、続編やる気満々のストーリーになっている。今回の評判が良ければ、新三部作の始まりである。そういえば『ターミネーター4』のときも新三部作の第一弾とうたっておきながらそのまま終わってしまった。同人誌のようなリブート作品。制作者があまりオリジナルに愛がありすぎると、結局オリジナルに追いつくことができない。『スタートレック』のリブート作をつくったJ・J・エイブラムス監督は、実はトレッキー(スタートレックファン)ではなかったと聞きます。変に思い入れがなかったぶん、新しい作品として自由に面白く再スタートできたのかもしれません。有名な作品を手がけるというのは、有利でもあり不利でもある、諸刃の刃なのかもしれません。
関連記事
-
-
『チェルノブイリ』 あれ、みんな英語しゃべってる?
先日、福島で震度6強の地震があった。311の東北震災から、もうすぐ10年が経とうとする矢先の
-
-
『天使のたまご』 アート映画風日本のアニメ
最新作の実写版『パトレイバー』も話題の世界的評価の高い押井守監督の異色作『天使のたまご』。ス
-
-
『デューン 砂の惑星 PART2』 お山の大将になりたい!
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ティモシー・シャラメ主演の『デューン』の続編映画。超巨大製作費でつ
-
-
『トイストーリー4』 人のお節介もほどほどに
大好きなピクサー映画の『トイストーリー』シリーズの最新作『トイストーリー4』。なぜかずいぶん
-
-
『ツレがうつになりまして。』鬱を身近に認知させた作品
鬱病を特別な人がなる病気ではなく、 誰をもいつなりうるか分からな事を 世間に
-
-
『鉄コン筋クリート』ヤンキーマインド+バンドデシネ
アニメ映画『鉄コン筋クリート』が公開されて今年が10周年だそうです。いろいろ記念イベントやら関連書籍
-
-
『ドグラ・マグラ』 あつまれ 支配欲者の森
夢野久作さんの小説『ドグラ・マグラ』の映画版を久しぶりに観た。松本俊夫監督による1988年の
-
-
『時をかける少女』 永遠に続く人生の忘れ物
細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』が公開されるにあたり、彼の出世作である『時をかける少女
-
-
『ダンケルク』規格から攻めてくる不思議な映画
クリストファー・ノーランは自分にとっては当たり外れの激しい作風の監督さん。 時系列が逆に進む長
-
-
『THIS IS US』人生の問題は万国共通
アメリカのテレビドラマ『THIS IS US』を勧められて観た。ゴールデングローブ賞やエミー賞を獲っ
- PREV
- 『初恋のきた道』 清純派という幻想
- NEXT
- 『3S政策』というパラノイア