*

『トロールズ』これって文化的鎖国の始まり?

公開日: : 最終更新日:2019/06/11 アニメ, 映画:タ行, 音楽

 

配信チャンネルの目玉コーナーから、うちの子どもたちが『トロールズ』を選んできた。あれ、これドリームワークス製作? 大手メジャーのハリウッド製アニメだったんだ。まったく知らない作品だった。

ここ数年、日本ではドリームワークス作品は配給会社が付かず劇場公開はされていない。作品が世界公開されてからずっと遅れて、やっと配信やらビデオスルーで静かに公開されている。世界中ではドリームワークス作品はヒットしているのだが、日本ではどうも不人気らしい。名作が多いがゆえにとても残念だ。

アニメ映画『トロールズ』は、近年のミュージカル映画ブームに乗っかって、ドリームワークスもいざ続かんと、本格的な音楽映画になっている。ディズニーもイルミネーションも、アニメに音楽をふんだんに取り入れた映画で大成功している。

数多のファンタジーの要素を盛り込んで、とても道徳的でありながら、とても楽しい。童話やファンタジーからの引用は、ドリームワークスの出世作『シュレック』を彷彿させる。カラフルなトロールズのデザインと、70~80年代ディスコカルチャーは相性がいい。

ハッピーな種族トロール族と、トロールを食べることでしか幸せになれないと信じているベルゲン族との確執は、日頃世の中のトピックとなっている人種や宗教、性差別と重なる。ベルゲンの、外側から施してもらわないと幸せになれないという考えは、物質主義の現代人の象徴。いつもハッピーにみえるトロールだって、酷い困難にいつも遭遇している。トロールがいつもハッピーでいられるのは、メンタルが強いから。おバカさんにみえるくらいでないと、元気に生きていけない。そんな殺伐とした世界観でありながら、悪人以外の登場人物全員がハッピーエンドになる大団円へ向かって、歌って踊りまくる!

使用曲はかつてのアメリカヒット曲のオンパレード。オリジナルの歌詞はそのままで、あたかもこの映画のために書き下ろしたかのような選曲の妙で、登場人物たちの心情を語ってる。全曲ABBAのヒット曲で綴ったミュージカル『マンマ・ミーア』みたいな手法。

クライマックス直前、窮地に追い込まれたトロールたちが、嘆きのあまりにそのカラフルな体の色が消えてしまう。そこでシンディ・ローパーの『トゥルー・カラーズ』を歌いながら励まし合う場面は感動的。

この曲はLGBTのテーマソングとして有名。今でこそやっとLGBTの理解に向けて世の中が進みだしたのに、この曲がヒットした80年代から、もうこのような歌を歌うシンディ・ローパーって、なんて新しかったのだろうと思っていた。でもどうやら後からだんだんとLGBTの応援ソングに育っていったらしい。

ジャスティン・ティンバーレイクが歌う主題歌『キャント・ストップ・ザ・フィーリング!』なんて日本の洋楽メインのFMラジオではよくかかってた。この映画のオリジナル曲なんだと驚いた。映画『トロールズ』は、日本以外ではものすごくメジャーな映画なのだろう。

そういえば最近の洋楽FMラジオ局は、かかってる曲の半分はJポップ。洋楽チャンネルを選んで聴いてるリスナーは、純粋に洋楽が聴きたいはず。日本の企業間の都合で邦楽率が上がってしまっているのだろうが、どこのチャンネルでも同じような日本の曲ばかり。無個性でとてもつまらない。今までラジオって一日中同じ局をかけたままだったけど、最近ではザッピングするようになってしまった。洋楽が聴きたいリスナーは、ラジオ難民になりそう。

しかしこれだけエンターテイメント性の高い映画が、日本ではほとんど宣伝されず、知る人ぞ知るマニアックな作品になっているのが嘆かわしい。

ドリームワークスの映画が日本での劇場公開がなくなった今、いちばん懸念されるのは、今後海外作品が日本では輸入されにくくなるのではないかということ。日本人なんだから国産の作品だけ観てればいいんだ、みたいな乱暴な流れ。

かつて日本も世界のカルチャーに強い国だった。ニューヨーク、パリ、トーキョーへ行けば、とりあえず世界のメインストリームはつかめる印象だった。でもそれは20年くらい前の話。2017年の今では、日本カルチャーは独自のガラパゴス街道まっしぐらな感じがする。どこをみても同じようなものしかない。日本の映画のヒットチャートも名を連ねるのは日本製の似たような作品ばかり。日本人はみな、洋画も観なくなった。世界のヒットチャートに登る作品群とは乖離している。

日本カルチャーがどんどん閉鎖的になって、文化的鎖国の道を辿ってしまうのでは?と一抹の不安がよぎってしまう。

でも、どんなに宣伝されていなくとも、子どもたちの感性は、良いものを見つけ出せるのだなというのには感心してしまった。

関連記事

『アナと雪の女王』からみる未来のエンターテイメント

『アナと雪の女王』は老若男女に受け入れられる 大ヒット作となりました。 でもディズニ

記事を読む

『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』 25年経っても続く近未来

何でも今年は『攻殻機動隊』の25周年記念だそうです。 この1995年発表の押井守監督作

記事を読む

no image

『ウォレスとグルミット』欽ちゃんはいずこ?

  この『ウォレスとグルミット』は、現在大ヒット中の映画『ひつじのショーン』のアード

記事を読む

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』 特殊能力と脳障害

いま中年に差し掛かる年代の男性なら、小学生時代ほとんどが触れていた『機動戦士ガンダム』。いま

記事を読む

『RAW 少女のめざめ』それは有害か無害か? 抑圧の行方

映画鑑賞中に失神者がでたと、煽るキャッチコピーのホラー映画『RAW』。なんだか怖いけど興味を

記事を読む

no image

『さとうきび畑の唄』こんなことのために生まれたんじゃない

  70年前の6月23日は第二次世界大戦中、日本で最も激しい地上戦となった沖縄戦が終

記事を読む

no image

『父と暮らせば』生きている限り、幸せをめざさなければならない

  今日、2014年8月6日は69回目の原爆の日。 毎年、この頃くらいは戦争と

記事を読む

『超時空要塞マクロス』 百年の恋も冷めた?

1980年代、自分が10代はじめの頃流行った 『超時空要塞マクロス』が ハリウッドで実写

記事を読む

no image

『リップヴァンウィンクルの花嫁』カワイくて陰惨、もしかしたら幸福も?

  岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。なんともややこしいタイトル。

記事を読む

『グレイテスト・ショーマン』 奴らは獣と共に迫り来る!

映画『グレイテスト・ショーマン』の予告編を初めて観たとき、自分は真っ先に「ケッ!」となった。

記事を読む

『サタンタンゴ』 観客もそそのかす商業芸術の実験

今年2025年のノーベル文化賞をクラスナホルカイ・ラースローが

『教皇選挙』 わけがわからなくなってわかるもの

映画『教皇選挙』が日本でもヒットしていると、この映画が公開時に

『たかが世界の終わり』 さらに新しい恐るべき子ども

グザヴィエ・ドラン監督の名前は、よくクリエーターの中で名前が出

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

→もっと見る

PAGE TOP ↑