『TOMORROW 明日』 忘れがちな長崎のこと
本日8月9日は長崎の原爆の日。
とかく原爆といえば広島ばかりが
とりざたされますが、本作は長崎が舞台。
映画『TOMORROW 明日』は
黒木和雄監督の
戦争レクイエム三部作の第一作にあたり、
長崎出身の井上光晴氏の原作となります。
『明日』というタイトルのように、
原爆投下の前日1945年8月8日の物語。
実は物語というほどドラマチックな
展開はあえておさえて、
淡々と銃後の人々の生活を描いています。
こんなときだからと祝言をあげる夫婦。
それをみまもる周囲の人々。
出産をむかえる妊婦。
捕虜の差別に心を痛める男。
赤紙が届き、ここではないどこかを
夢見る若い恋人たち。
起承転結もなく、
静かにそれらのエピソードを紡いでいく。
映画としては何も起こらないのです。
ただ、観客の私達は知っているのです。
この登場人物達に「明日」は来ないことを。
そのあらかじめ知っている結末で、
この作品を見ていく訳です。
映画としての仕掛けはそこ。
なんでも制作者達は、
当時の長崎の前日の記録を
徹底的に調べたらしく、
原爆投下の早朝に赤ちゃんを
産んだ人の記録など、
胸を痛めたそうです。
本来普通に来るはずだった「明日」。
その瞬間まで、みんな明日のことを
考えていたと思います。
関連記事
-
-
『ノマドランド』 求ム 深入りしない人間関係
アメリカ映画『ノマドランド』が、第93回アカデミー賞を受賞した。日本では3月からこの映画は公
-
-
『チャッピー』哲学のネクストステージへ
映画『チャッピー』が日本公開がされる前、この作品に期待の声があちこちから聞こえて来た。自分はこの映画
-
-
『星の王子さま』 競争社会から逃げたくなったら
テレビでサン=テグジュペリの『星の王子さま』の特集をしていた。子どもたちと一緒にその番組を観
-
-
『コクリコ坂から』 横浜はファンタジーの入口
横浜、とても魅力的な場所。都心からも交通が便利で、横浜駅はともかく桜木町へでてしまえば、開放
-
-
『関心領域』 怪物たちの宴、見ない聞かない絶対言わない
昨年のアカデミー賞の外国語映画部門で、国際長編映画優秀賞を獲った映画『関心領域』。日本が舞台
-
-
『映画から見える世界 上野千鶴子著』ジェンダーを意識した未来を
図書館の映画コーナーをフラついていたら、社会学者の上野千鶴子さんが書いた映画評集を見つけた。
-
-
『Love Letter』 ヨーロッパ映画風日本映画
岩井俊二監督の『Love Letter』。 この映画をリアルタイムで観たときに 「やられ
-
-
『今日から俺は‼︎』子どもっぽい正統派
テレビドラマ『今日から俺は‼︎』が面白かった。 最近自分はすっかり日本のエンターテイメ
-
-
『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は諸刃の刃
ジェイムズ・キャメロン監督が放った愛すべきキャラクター『ターミネーター』。何度も
-
-
『グッド・ドクター』明るい未来は、多様性を受け入れること
コロナ禍において、あらゆる産業がストップした。エンターテイメント業界はいちばん最初に被害を受