『汚れた血』 カノジョをキレイに撮る映画
『あの人は今?』的存在になってしまったレオス・カラックス監督。2年前に新作『ホーリー・モーターズ』で復帰していたのですね!?
この『汚れた血』。1990年頃、友人にビデオでみせてもらって、ぶっ飛んだ記憶があります。何だかわからないけど、絵が好き。それだけでした。
神経質な画面構成や、さまざまなジャンルの音楽の起用。SFなんだか恋愛ものなんだか、フィルムノワールなんだか、ジャンルもチャンポン。静かな夜に女の子と部屋でチチクリ合ってたら、急にデビッド・ボウイがかかって夜のパリを失踪する!! ワケわかんない演出だけど、カッコいい!! とにかく出演している女優さんがみんなキレイなのね。
当時カラックス監督と恋人関係だったジュリエット・ビノシュ。自分のカノジョをキレイに撮りたい。それだけで映画になってしまったのでしょう。この映画を制作したときカラックスは26歳。フランスではリュック・ベッソンとジャン=ジャック・ベネックスとで『恐るべき子ども』とか『ネオ・ヌーベルバーグ』とか言われて、もう永遠の子どもと言ったところ。カラックス自身も「自分は30歳までに死ぬ」と言っていたし、それ以降の自分の姿がイメージできなかったのでしょう。大人になるシフトチェンジが自分の中で出来なかったのでしょうね。だからこそこの『汚れた血』を含むアレックス三部作以降は映画も撮れず、たまに新作(『ポーラX』や『TOKYO!』)を出してもあまりパッとしなかったのでしょう。
カラックスはインタビューの映像からみてもイヤなヤツだってのは一目瞭然。才能がなければ、ただの嫌われ者にしかならない。そんな生きるのが下手な彼が描く、生きるのが下手な主人公に共感が出来るのです。
こんな永遠の子どものカラックス。どんなにゴタクをならべて小難しいこと言ってても、結局女の子が好きで、女の子に甘えちゃってるところが可愛くおちゃめにみえるのでしょう。
ただ映画で観る分にはいいのだけれど、本人の人生は大変だったろうな。やっぱり年相応に程よく大人になるってのも生きていく上で大切なことなのだと思う。人生が生きやすくなるから。こういう自分も若かりし時は30歳を過ぎた自分の姿なんてイメージできなかった。それでもなんとか年相応になれるものなんですね。
関連記事
-
-
『怒り』 自己責任で世界がよどむ
正直自分は、最近の日本のメジャー映画を侮っていた。その日本の大手映画会社・東宝が製作した映画
-
-
『オッペンハイマー』 自己憐憫が世界を壊す
クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を、日本公開が始まって1ヶ月以上経ってから
-
-
『ホドロフスキーのDUNE』 伝説の穴
アレハンドロ・ホドロフスキー監督がSF小説の『DUNE 砂の惑星』の映画化に失敗したというの
-
-
『わたしを離さないで』 自分だけ良ければいい世界
今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ原作の映画『わたしを離さないで』。ラブストーリ
-
-
『2001年宇宙の旅』 名作とヒット作は別モノ
映画『2001年宇宙の旅』は、スタンリー・キューブリックの代表作であり、映画史に残る名作と語
-
-
『リップヴァンウィンクルの花嫁』カワイくて陰惨、もしかしたら幸福も?
岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。なんともややこしいタイトル。
-
-
アーティストは「神」じゃない。あなたと同じ「人間」。
ちょっとした現代の「偶像崇拝」について。 と言っても宗教の話ではありません。
-
-
『ポンヌフの恋人』ボウイを愛した監督・カラックス
デヴィッド・ボウイの訃報はまったく信じられなかった。1月8日のボウイの誕生日に、
-
-
キワドいコント番組『リトル・ブリテン』
『リトル・ブリテン』という イギリスのコメディ番組をご存知でしょうか?
-
-
『リリイ・シュシュのすべて』 きれいな地獄
川崎の中学生殺害事件で、 真っ先に連想したのがこの映画、 岩井俊二監督の2001年作品
- PREV
- 『七人の侍』 最後に勝つのは世論
- NEXT
- 『ヴァンパイア』お耽美キワもの映画