『METAFIVE』アンドロイド化する東京人
公開日:
:
最終更新日:2019/06/12
音楽
自分は音楽ではテクノが好き。整理整頓された無機質な音にテンションがあがる。ロックなのに汗ひとつかかないようなクールなイメージ。人間が演奏していると言うより、機械に取り込まれたアンドロイドが演奏してるよう。サイバーパンクの世界……。
と、ごたくを並べたけれど、結局のところ子どもの頃の刷り込みに過ぎない。あれは自分が小学生になるかならないかの頃、いとこのお姉さんの部屋にYMOのアルバム『増殖』があったことに始まる。そのジャケットにショックを受けた。YMOのメンバー3人の人形がたくさん並んでいる不気味なジャケット。曲は後から聴いたが、やはり不気味で気持ち悪く、たちまち大好きになった。でももうその頃には世の中はすっかりYMOブーム。猫も杓子もYMOといったところ。既にすっかり流行に乗り遅れてる。その頃の刷り込みを律儀に30年以上も貫いているのだから、自分は頭が硬いのかも知れない。自分の子どもたちも、幼い今の時期に出逢ったものが、一生の趣味嗜好になりかねないと思うと、親の責任も重大だ。
で、このYMOの高橋幸宏さん率いる『METAFIVE』。メンバーはTEI TOWAさんや小山田圭吾さん、砂原良徳さんなど、ソロで活躍している人ばかりの豪華な顔ぶれ。ユキヒロ兄貴のひと声で集まったという感じ。むしろこれだけ個性の強いメンツが揃ってよくぶつからずに成立したなぁ。METAFIVEの当初は、YMOの完コピをライブでやっていた。正直これにはあまりピンと来なかった。昔の曲と言っても、大ファン過ぎた自分には聴き飽きた感があり、懐古主義にはならないな~、と。最近昔のバンドの再結成が多いが、当時どんなに好きでも今更感は否めない。どうも自分は古いバンドに再結成されても、やっぱり新曲が聴きたいらしい。そうなると今度のMETAFIVEの1stアルバムは新曲ばかりなので、その欲求を満たしてくれる。しかも音は当時のYMOを彷彿とさせるものばかり。
このMETAFIVEのニューアルバムに入っている『Luv U Tokio』という曲がある。PVではアンドロイドみたいなキレイな男女がでてきて、ロボットみたいな動きをしている。日の丸カラーがメインの画像。東京とか日の丸とかでてくると、なにか政治的な内容ではないかと身構えてしまうのは悪い傾向。これあくまで自分の個人的な感覚だけど、実際東京といってもそんなに目新しいスポットではなくなってしまった気がするのね。オシャレといっても、メディアでとりあげられた瞬間から一歩間違えばハナニツクものになってしまうし。どうしても都心部に行けば行くほど、昭和のまま感覚が止まっているように思えてならない。どんなに再開発が進んでもマインドが古いのかな? バブル期の亡霊に憑かれてるのかな? 働けば働いただけかえってきた時代ならまだしも、今のような不景気な世の中では、ブラック企業やブラック社員の原因にになりかねない。人は分刻みで働き、人権は失われる。自分にとって東京のイメージは経済だけの場所。そこには愛はない。新しいものはなかなか都心部には集まりにくくなったのかも。
最近、接客業をしている人がみんなビクビクしているようにさえ感じる。客のクレームや上司の目が気になるのかしら? 過剰なサービスはかえって我々の首を絞める。人権を無視されて重い枷をかけられて仕事をしている人は他人に厳しくなり、他所へ行ったらモンスターカスタマーとメタモルフォーゼする! 「おもてなし」の副作用なら悲劇だ。
「TOKIO」と言えばYMOの曲『テクノポリス』を思い出す。そもそもYMOは、海外からみた日本のキッチュなイメージを逆手にとって、ちょっと自虐的にアピールしたから受けたんだと思う。ダサいのも突き詰めて笑ってしまえば、それはそれでカッコいいという絶妙なバランスのユーモア。
先日、ニューヨーク・ヤンキースに入団したまーくんこと田中将大選手が、アメリカの生活でカルチャーショックを受けたことを語っていた。なんでも家具を注文したら配達予定日になっても来ない。業者に連絡すると「渋滞で進めないから諦めて帰っちゃった」とのこと。これ日本だったら大クレームもの。そりゃあ予定通りに家具が配達されなければがっかりするだろうけど、それで命に関わることはない。反対に、命に関わることと、どうでもいい遊びに対しても、同じような究極のサービスを求める日本の奴隷マインドも考えものだ。海外と日本、仕事に対する考え方は極端に違うので一長一短。どちらが良いとは言い切れないが、両者のメリットデメリットは考察してみる価値あり。相手のミスを指摘するより、笑って許せる余裕は大事。我ながらユーモアのセンスをもっと磨かないとな。
東京人は意識してもう少しルーズに生きるようにしていく必要がありそう。本来労働は人生を豊にしていくためにするもの。映画『ブレードランナー』のアンドロイド・レプリカントじゃないけど、ずっと奴隷扱いされてると、暴力的な反乱が起こりかねない。
人間は人間らしく生きることを常に意識して日々を送らないと、簡単に流されてしまうということでしょう。
関連記事
-
『ドゥ・ザ・ライト・シング』 映画の向こうにある現実
自分は『ドゥ・ザ・ライト・シング』をリアルタイムで映画館で観た世代。それまで人種差別問題は、
-
『Perfume』最初から世界を目指さないと!!
アイドルテクノユニット『Perfume』の パフォーマンスが、どんどんカッコ良
-
『オデッセイ』 ラフ & タフ。己が動けば世界も動く⁉︎
2016年も押し詰まってきた。今年は世界で予想外のビックリがたくさんあった。イギリスのEU離脱や、ア
-
『うる星やつら 完結編』 非モテ男のとほほな詭弁
2022年の元日に『うる星やつら』のアニメのリメイク版制作の発表があった。主人公のラムが鬼族
-
『Ryuichi Sakamoto : CODA』やるべきことは冷静さの向こう側にある
坂本龍一さんのドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto : CODA』を観た。劇場
-
『ベルリン・天使の詩』 憧れのドイツカルチャー
昨年倒産したフランス映画社の代表的な作品。 東西の壁がまだあった頃のドイツ。ヴィム・ヴェン
-
『葉加瀬太郎』と子どもの習い事
何でも今年は葉加瀬太郎さんのデビュー25周年らしいです。まだ『クライズラー&カンパニー』がそ
-
『アメリカン・ユートピア』 歩んできた道は間違いじゃなかった
トーキング・ヘッズのライブ映画『ストップ・メイキング・センス』を初めて観たのは、自分がまだ高
-
『鑑定士と顔のない依頼人』 人生の忘れものは少ない方がいい
映画音楽家で有名なエンニオ・モリコーネが、先日引退表明した。御歳89歳。セルジオ・レオーネや
-
『怒り』 自己責任で世界がよどむ
正直自分は、最近の日本のメジャー映画を侮っていた。その日本の大手映画会社・東宝が製作した映画