*

『チェブラーシカ』 哀愁の旧ソ連名残

公開日: : 最終更新日:2021/08/26 アニメ, 映画:タ行, 音楽

なんでも5年ぶりに
新作が作られた『チェブラーシカ』。
こんどは本家ロシア産なのかな?
はたしてどんな作風になっているのか?

ロシアアニメ『チェブラーシカ』を
ウチの娘に観せてみたのは2歳の時。

熊とも猿ともいえない
愛らしいチェブラーシカが、
みんなの役に立ちたいと、
友達とともに公園を作るエピソード。

公園が遂に完成したスピーチを
チェブラーシカがして最後に
「ウラー!!(ばんざーい)」と叫びます。

その仕草と言い方に娘はバカウケ。
もう10回くらいその場面ばかり
ヘビーローテション。
百発百中でバカウケでした。

このチェブラーシカの
「誰かの役に立たなければ」と
自分を追い込んで行くような考え方、
旧ソ連時代型社会主義の名残りなのかと
日本人の自分には違和感を感じた。

音楽や表現が哀愁溢れ、
子ども向けとは思えないくらい
シブい作品になっていた。

日本で本格的に本作が紹介された
2000年代初頭、ミニシアターでやったりと
アート映画の扱いをされていたと思う。

監督はロマン・カチャーノフ。
きっと本作が発表された
1960~70年代の旧ソ連では
子ども向け作品は希少だったでしょう。
少しでも子どもたちに芸術的なものに
触れて欲しいという制作者の優しさを感じます。

カチャーノフが頭角を表すのはスターリン死後。
旧ソ連の共産主義とは関係がないのだろうが、
まだまだペレストロイカ前、
表現の規制が厳しかった頃の作品。

なんでもスターリンは、
時の芸術家たちを自分の配下に置いて、
政治的な作品を作らせたそうです。

芸術家達はプロパガンダに利用されるフリをしながら、
自分の意図を潜ませて作品を作ったらしいです。

政治が芸術に介入して民衆を
コントロールしようとする。
流れのいい時代であれば、
これはルネッサンスにも成長するだろうが、
独裁的な世の中だと、とても不遇なものとなる。

こないだテレビで観たのですが、
音楽家のショスタコビッチは
プロパガンダの象徴的な『革命』という曲で
体制に取り込まれたフリをしながらも、
『カルメン』のなかのフレーズを多用する。
その意味は「信じるな!」。
すぐに悪政は終わるというもの。

気付かれないように自分の意志を忍ばせた。
スターリン時代の旧ソ連の特徴。

この『チェブラーシカ』は近年
日本のスタッフでリメイクされました。

歴史的な暗い要素はバッサリ切って、
表面的な可愛らしいチェブラーシカの誕生です。

時代や国を超えて愛されるキャラクターは
その時代や場所によって性格も変わっていきます。

チェブラーシカに歴史的な重みがなくなるのは
果たして良いことなのか、悪いことなのか?
今後数十年後、過去の歴史観として
冷静に判断できる頃になったら、
文化研究家達が語ってくれることでしょう。

そのとき笑われることがなければいいですが……。

関連記事

no image

『トランスフォーマー/ロストエイジ』最新技術のお披露目の場

ドルビーアトモスのAVアンプを探していると、この『トランスフォーマー/ロストエイジ』の見せ場の映

記事を読む

『怪物』 現実見当力を研ぎ澄ませ‼︎

是枝裕和監督の最新作『怪物』。その映画の音楽は坂本龍一さんが担当している。自分は小学生の頃か

記事を読む

『この世界の片隅に』 逆境でも笑って生きていく勇気

小学生の頃、社会の日本近代史の授業で学校の先生が教えてくれた。「第二次大戦中は、今と教育が違

記事を読む

『私ときどきレッサーパンダ』 世間体という呪い

コロナ禍の影響でこの2年間、映画館への足がすっかり遠のいてしまった。上映作品も軒並み公開延期

記事を読む

『窓ぎわのトットちゃん』 他を思うとき自由になれる

黒柳徹子さんの自伝小説『窓ぎわのトットちゃん』がアニメ化されると聞いたとき、自分には地雷臭し

記事を読む

no image

『槇原敬之』自分ではダメだと思っていても……。

  今年は槇原敬之さんのデビュー25周年ということ。自分が槇原敬之さんの存在を知った

記事を読む

『ホドロフスキーのDUNE』 伝説の穴

アレハンドロ・ホドロフスキー監督がSF小説の『DUNE 砂の惑星』の映画化に失敗したというの

記事を読む

no image

社会風刺が効いてる『グエムル ー漢江の怪物ー』

  韓国でまたMERSが猛威を振るっていると日々の報道で伝わってきます。このMERS

記事を読む

no image

『名探偵ホームズ』ストーリー以外の魅力とは?

  最近、ジブリ作品が好きな自分の子どもと一緒に『名探偵ホームズ』を観た。 か

記事を読む

『うる星やつら オンリー・ユー』 TOHOシネマズ新宿OPEN!!

TOHOシネマズ新宿が4月17日に オープンするということで。 都内では最大級のシネコン

記事を読む

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

『ボーはおそれている』 被害者意識の加害者

なんじゃこりゃ、と鑑賞後になるトンデモ映画。前作『ミッドサマー

『夜明けのすべて』 嫌な奴の理由

三宅唱監督の『夜明けのすべて』が、自分のSNSのTLでよく話題

→もっと見る

PAGE TOP ↑