*

『リリイ・シュシュのすべて』 きれいな地獄

公開日: : 最終更新日:2021/09/13 映画:ラ行, 音楽

川崎の中学生殺害事件で、
真っ先に連想したのがこの映画、
岩井俊二監督の2001年作品
『リリイ・シュシュのすべて』。

万引き、恐喝、窃盗、援助交際、
いじめ、レイプ、殺人……そして自殺。
少年犯罪の思い当たるところ
すべて詰め込まれてる。

青春映画というよりは戦争映画。

観たくない世界がどんどん展開していく。
気分が悪くなっていくのだが、
映像はこれでもかと美しく、
ドビュッシーのピアノ曲と、
小林武史氏プロディースで
Salyさん演じる『リリイシュシュ』の音楽。
センスよくまとめられているので、
なんとなく魅入ってしまう。

でもこの映画ではとくに
社会に対する問題提起は無く、
ただただ陰惨な子ども達の犯罪が
描かれていくだけ。
高尚な語り口の一種のポルノ。

つまるところ、本質は不快なだけで、
なにも考察されていない。
まあこれはこれでいいのだけど。

当時まだめずらしかった
デジタルカメラでの撮影。
編集はあえて民生機でする。
原作もネット上で視聴者参加型の
インタラクティブな方法で、
観るものはこれがフィクションなのか
現実なのかわからなくなる錯覚に陥る。
蒼井優さんや市原隼人さんが
この作品でデビューしている。

いろいろな意味で岩井監督の先見性を感じる。

劇中、現実にはいじめをしている子達が
ネット上では優しい言葉を交わし合う。

どうしてこんなに現実と理想が乖離しているのか。
どうしてそんなにペルソナのマスクを必要とするのか?

この映画の少年少女は14歳。
まさに中学二年生。中二病。
そしてこの映画公開から14年が過ぎた。
子ども達の迷いは、
あの頃も今もなんら変わらない。
問題はなにひとつ解決していない。

自分を嫌いなままの人では
ドラマは展開して行かない。
だから見栄えの美しさだけで
ごまかされてしまう。
でもそのほころびはいつか突然、
眼前に現れる。

ああ不愉快。

関連記事

no image

『オデッセイ』 ラフ & タフ。己が動けば世界も動く⁉︎

2016年も押し詰まってきた。今年は世界で予想外のビックリがたくさんあった。イギリスのEU離脱や、ア

記事を読む

『希望のかなた』すべては個々のモラルに

「ジャケ買い」ならぬ「ジャケ借り」というものもある。どんな映画かまったく知らないが、ジャケッ

記事を読む

『レオン』 美少女は殺し屋も殺す

リュック・ベッソン監督作品、ジャン・レノ主演のフランス映画のスタッフ・キャストがハリウッド進

記事を読む

『ブラック・レイン』 松田優作と内田裕也の世界

今日は松田優作さんの命日。 高校生の頃、映画『ブラックレイン』を観た。 大好きな『ブ

記事を読む

no image

『トロールズ』これって文化的鎖国の始まり?

  配信チャンネルの目玉コーナーから、うちの子どもたちが『トロールズ』を選んできた。

記事を読む

『平家物語(アニメ)』 世間は硬派を求めてる

テレビアニメ『平家物語』の放送が終わった。昨年の秋にFOD独占で先行公開されていたアニメシリ

記事を読む

『ミニオンズ』 子ども向けでもオシャレじゃなくちゃ

もうすぐ4歳になろうとしているウチの息子は、どうやら笑いの神様が宿っているようだ。いつも常に

記事を読む

no image

『母と暮せば』Requiem to NAGASAKI

  残り少ない2015年は、戦後70年の節目の年。山田洋次監督はどうしても本年中にこ

記事を読む

『THE FIRST SLAM DUNK』 人と協調し合える自立

話題のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』をやっと観た。久しぶりに映画館での

記事を読む

no image

『怪盗グルーのミニオン大脱走』 あれ、毒気が薄まった?

昨年の夏休み期間に公開された『怪盗グルー』シリーズの最新作『怪盗グルーのミニオン大脱走』。ずっとウチ

記事を読む

『アドレセンス』 凶悪犯罪・ザ・ライド

Netflixの連続シリーズ『アドレセンス』の公開開始時、にわ

『HAPPYEND』 モヤモヤしながら生きていく

空音央監督の長編フィクション第1作『HAPPYEND』。空音央

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自

『マルホランド・ドライブ』 整理整頓された悪夢

映画監督のデヴィッド・リンチが亡くなった。自分が小学生の頃、こ

『侍タイムスリッパー』 日本映画の未来はいずこへ

昨年2024年の夏、自分のSNSは映画『侍タイムスリッパー』の

→もっと見る

PAGE TOP ↑