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『神風』ベッソン発SF映画は紛らわしいタイトル

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:カ行, 音楽

 

フランスの俳優ミシェル・ガラブリュさんが1月4日に亡くなったそうです。フランスの役者さんということもあってか、日本ではあまり知られていない。自分はリュック・ベッソン監督の初期作品『サブウェイ』の警部役や、『Mr.レディMr.マダム』の父親役が印象深い。80年代からすでにおじいさん役をしていたから、正直ご存命だったとは驚きでした。享年93歳。ギリギリまで舞台に立っていたそうです。ご冥福をお祈りいたします。

さてミシェル・ガラブリュとリシャール・ボーランジェ主演のフランス映画『神風』という映画をご存知でしょうか? リュック・ベッソンプロデュース作品で、当時ベッソン作品の助監督だったディディエ・グルッセが監督しているSFサスペンス。『神風』なんてタイトルだと、戦争映画かと思いきや、本編ではまったく日本と関係ない。ミシェル・ガラブリュ演じるマッドサイエンティストが、クライマックスで日の丸ハチマキして「カミカゼ……」とかつぶやいてるだけ。そういえばまだ子どもだったロマーヌ・ボーランジェが実父リシャールと親子役でデビューしている。

リュック・ベッソンからしてみれば『サブウェイ』から『グランブルー』の間の作品。マニアックなインディペンデント監督から、国際的なマーケットに飛び出す寸前。自身の監督作ではないけれど、メジャー受けするにはどうしたらいいか、この『神風』で実験しているようにもうかがえる。SF作品なので、日本ってSFぽくねって、安直に日本にひっかけてみたのかな?

音楽はベッソン作品にかかせないエリック・セラが担当。音を聴いてイギリスのバンド『JAPAN』にそっくりなのでぶっ飛ぶ。エリック・セラはそもそもベーシスト。『JAPAN』のベース担当の故ミック・カーンと同じフレットレスベース使い。ミック・カーンの特徴である、ウネウネしたベースの弾き方もマネしているのかな?

映画自体はB級C級の作りなんだけど、内容はなかなか先見の明があった。リストラされた科学者が、家にひとりぼっちのひきこもりになる。話し相手はテレビだけ。やがて、愛想のいい笑顔のテレビの向こうの人たちを恨むようになり、テレビの電波を逆走して、生放送の画面の向こう側の人を射殺できるマシーンを開発してしまう。このマッドサイエンティスト役をミシェル・ガラブリュが演じており、この事件を追う刑事をリシャール・ボーランジェが演じている。

人間、ひとりぼっちになるとロクなことを考えない。奇しくもこの映画のマッドサイエンティストのありかたは、現代で実際のものとなってしまった。メディアはテレビからネットに代わった。報われない人がひきこもりになって、ネットで怒りの感情をぶつけている心理となんら変わらない。

自分がSF作品が好きなのは、そこに社会風刺や批判や警鐘が込められているから。20世紀に描かれたSF作品の未来が、今頃の時代設定になっていることが多い。あの頃多くの作家が描いた未来は、良いことも悪いことも結構言い当てている。多くの作品が描いた未来は、ディストピア。人はモノのようになっている。悲観的妄想がネガティヴなものを呼び寄せてしまったのか? はたまた純粋に予言が当たったのか? ともかく、今の世の中では、悲観的な作品は受けないだろう。暗いテーマが受けるのは、平和で安定した世の中であってこそ。今という時代ではちょっとシャレにならない。

この『神風』は、ツッコミどころはあれど、なかやかSF作品として着眼点がいい。まだCGが盛んになる前、特撮だからSFなのではなく、人の心がズレたときに起こる悲劇をシミュレーションしていた。なかなか興味深い。「SFイコール日本」って、ずいぶんステレオタイプだな~とは思いきや、現代人の一部がこの映画のマッドサイエンティストみたいな心理状態になっちゃったのだから、ある意味予言的中! ネットが心のはきだめに使われている。荒んだ情念だけでも充分人を殺せてしまう。この追い詰められた感情は、社会問題だと思うんだけど……。

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