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『リメンバー・ミー』生と死よりも大事なこと

公開日: : 最終更新日:2019/06/10 アニメ, 映画:ラ行, 音楽

春休み、ピクサーの最新作『リメンバー・ミー』が日本で劇場公開された。本国アメリカ公開から半年遅れだ。すでに世界では劇場公開は終了して、ブルーレイも販売されている。ネット通販なら輸入盤も購入できる。

なんでも日本人は前評判がないと動かない国民性があるらしい。海外で評価された鉄板話題作でないと、わざわざ映画館まで足を運ばない。だから海外作品は、世界での実践ができてから、遅れての本邦初公開にならざるを得ない。ワイドショーなどの映画紹介コーナーで、映画のストーリーのほとんどを見せてしまって、「結末は劇場で」なんてのも当たり前。ネタバレどころの騒ぎじゃない。これでは観客の目も育たないし、映画ファンは興ざめだ。自分の意思より、他人の評価を気にしてしまう、如何にも日本人らしい宣伝だ。そこまでして映画を観る必要もない。さて我が家は子どもと一緒に観たいので、日本語吹替版を待つことにした。

『リメンバー・ミー』というタイトルは、またまた日本独特のローカライズ改題だ。原題は『coco』。メキシコが舞台だし、スペイン語で何かしらの意味があるのかと、いろいろ想像させる。映画を観れば『coco』が何だか分かる。でも今回の劇中歌からとった『リメンバー・ミー』というタイトルは、なかなかどうして悪くない。映画の内容ともしっくりいく。

「どうせピクサーの映画だから、また素晴らしいんでしょ?」って半ば卑屈になるくらい海外での前評判もいい。日本公開が始まると、パパ友やママ友など、普段なら映画の話などしない人たちからの評判を耳にした。「子どもと観に行ったら、とても良かったよ」と。

みんなすっかり忘れてしまっているけれど、アニメやマンガ、ゲームというものは本来子ども向けに作られたもの。変化球で年齢層を高めた作品がヒットしたせいで、大人向けのアニメなんて作られるようになっただけ。やっぱり不自然。大人向けアニメは、アンダーグラウンドで然るべき。

子ども向けだからといって、手抜きな子ども騙し的な作品を作ってみてもダメ。子どもたちの審美眼は、大人たちのそれより鋭い。大人たちが子どもたちを喜ばせよう、最高のものを観せてあげようと必死で作った映画でこそ、子どもたちが反応する。それが連れ添った大人たちにも響くのだ。最近は大人向けのものが多過ぎだ。本来なら子どものことに向き合った方がビジネスにも繋がりそうなのに。

家族サービスというイヤな言葉がある。日頃の仕事で疲れているお父さんが、休日休みたいのを返上して、子どもたちと付き合うという自己犠牲的な考え方だ。そんなイヤイヤな姿勢で遊んでもらっても、子どもたちはちっとも嬉しくない。親が横で一緒になって笑ったり喜んでる姿が、子どもたちにとってなにより思い出になる。「してあげた」ではなくて、「親みずから面白がる」。子どもたちはその背中をみて育つ。

ピクサーの映画は時として子どもには内容が難しい。それでも子どもの感受性は鋭いので、たとえ言ってることがわからなくとも、きちんと根幹は掴んでる。相手が小さいからといって侮るなかれ。みんなわかってる。それもピクサーの製作陣はよく理解している。子どもたちへの敬意だ。

『リメンバー・ミー』は生と死の世界を行き来する話。自分も「メキシコの死者の日のガイコツ、カワイイな〜」と思っていた。マスコットがウチにもあるくらい。祭典の雰囲気とスパニッシュな音楽、それだけでも映画になる。ピクサーの目の付け所はさすが。ギレルモ・デルトロやイニャリトゥ、アルフォンソ・キュアロンなんかメキシコ出身の映画監督も、最近ハリウッドで活躍してるから、いまメキシコは旬なのだろう。

宗教的な祭典を舞台に扱っているのに、どこの国のどんな文化の人にも理解できる脚本の落とし所は、「上手い!」としか言いようがない。どこの家族でも、過去に誰も亡くなった人がいない家はない。生と死の境目は、それほど隔たりがないと思えれば、やみくもに死を恐れる必要もなくなる。誰だっていつかは死ぬ。

メディアがいけないんだろうけど、とかく「死」や「老」を悪しきものとして捉える習慣が我々に根付いてしまった。長く生きることを重要視する椅子取りゲームみたいな考え方は、結構息がつまる。本来なら「どう生きるか」の方が大事だ。そんな生きる上での哲学も『リメンバー・ミー』には含まれている。とても道徳的。作品を作っているスタッフたちの人生観も垣間見られる。シナリオ会議は、哲学の討論会みたいになっちゃうんじゃないか?

『リメンバー・ミー』のエンドロールで、製作総指揮にジョン・ラセターの名前がまだクレジットされていた。ラセターといえば、今年セクハラ問題で、ディズニー・ピクサーを追放されたばかり。

いつも思うのは、ディズニーの作品は良質なんだけど、商売のやり方がえげつないということ。経営陣と製作陣のマインドの乖離すら感じてしまう。現実と理想の格差。

メディアで紹介されているピクサースタジオは、まるで遊園地のような施設が整っている。一見、「そんな会社で働きたい」と思わせてくれる。だが、会社の施設が豪勢な職場こそ、残業ばかりや休日無しのところが多い。社員の待遇が悪いから、せめて施設だけでも整えて社員の気を引こうとする経営者の考えか?

理想は高くありたい。でも現実と向き合えなければ、ただの現実逃避の夢物語。ピクサーの描く死生観が、果たしてどこまで高尚でいられるか。映画を観て、素直に夢をみるのも疑わしくなってくるとは、なんとも世知辛い世の中だ。

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