『SING』万人に響く魂(ソウル)!
「あー楽しかった!」
イルミネーション・エンターテイメントの新作『SING』鑑賞後、ウチの子たちが開口一番に放った言葉。この映画は本当に楽しい。
動物を擬人化したアニメーション映画だけど、ディズニーの『ズートピア』みたいな深い意味はない。登場人物たちは、かわいくて親しみやすいキャラクターにデフォルメされている。子どもも観れて、大人も楽しめるエンターテイメント作品としての要素。
ハリウッドCGアニメの大手スタジオは、ディズニー・ピクサーやドリームワークスが、本作のイルミネーション・エンターテイメントのライバルにあたる。イルミネーションは、「ウチはピクサーみたいな高尚なシナリオや演出ではそもそも敵わない。だから小ネタで勝負していきます」と、『怪盗グルー』シリーズで頭角を現していった。イルミネーションアニメの特徴は、映画でさんざん笑ったけど、ストーリーはあんまりおぼえてないところにある。でも鑑賞後の気分はサイコーにハッピー。公言通り、スタジオの作風スタイルを確立している。
映画『SING』は、寂れた劇場のオーナーが起死回生のために、賞金をかけたオーディションをする。告知ビラに、賞金額を間違えて打ち込んでしまったため、名もなき歌い手たちが続々劇場に集まってくる。果たして劇場の未来は? オーナーは賞金を払えるのか?
この『SING』の予告編を観たとき、新旧様々なポップミュージックをカバーしているカオスな映画になるのではと想像してしまった。イルミネーション作品は、音楽センスがいつもバツグン。子どもをターゲットにしているとは思えないくらいサントラが贅沢。今回の映画の音楽使用料も、制作費の重要なポイント。映画はカオスどころか、整理整頓されてとても観やすい。才能と夢はあるが、チャンスがないアーティストたちも、やはり人生の起死回生を狙ってオーディションに集ってくる。金のないところに才能は集まらない。メインキャストを手早く紹介するストーリーテリング技術に圧倒。
劇中で使用される楽曲のオリジナルを知らない子どもたちは果たして楽しめているのかしら?と気になっていたが、ウチの子たちはまったく気にせず楽しんでいた。あの曲はこの曲はと、衒学的になるのは愚かなこと。フィーリングで楽しむべし! 今回は吹替版で観たけど、英語オリジナル版や、洋楽に対しての日本版スタッフキャストからの敬意を感じる。ここまでやってくれると、言葉の壁なんて軽々飛び越えてしまう。
いま日本では、洋楽を聴くことはマニアックな嗜好のようになっている。でも海外からやってくる音楽は、そもそも世界標準でマーケティングされている。どんな国の人にも好かれるようにつくられている音楽がマニアックなはずがない。むしろドメスティックでガラパゴス化したものの方が、クセやアクがあって客層を選ぶもの。新旧の洋楽の名曲がふんだんに使用された本作が、子どもたちにすんなり受け入れられるのがなによりの証拠。
自分はわかりやすい映画が好きだ。わかりやすい映画というのは音楽的だ。音楽的だからといって、けっしてミュージカルが好きだというわけではない。実際に音楽がかからない映画でも、音楽的な映画というのはある。
ポップミュージックにAメロ、Bメロ、サビのような展開があるように、映画や物語にも、人の生理的にしっくり届くようなリズムがある。いわゆる起承転結や序破急とか呼ばれるもの。その計算がなされているからこそ、万人に喜ばれるエンターテイメント性へと繋がっていく。作り手が観客へどこまでわかりやすくするかの駆け引きが水面下でなされてる。実験的な演出をしたり、ヘタウマでのヒット作もたまにあるけど、それはやはり王道ではない。つまりは自分は王道が好きなのだ。
『SING』のガース・ジェニングス監督はインデペンドの実写映画出身。自分と同世代。映画体験も近い。映画演出技術のノウハウは充分熟知の上だろう。
登場人物たちが動物で、感情移入に弊害があるかと思いきや、まったくもってその逆。ゴリラなんかは、『猿の惑星』が人種差別のメタファー作品だったから黒人がイメージなんだろうけど、マイルドにするためか白人のタロン・エガートンが配役されている。ヤマアラシの少女ロックシンガーはスカーレット・ヨハンソンだから、『シングルス』のブリジット・フォンダみたいなイメージかな? だとしたら見た目がかなりカワイイから、男目線だとどうしても容姿に目が行って性格まで見る余裕がない。きゃりーぱみゅぱみゅ歌ってるレッサーパンダたちは、日本のアイドルグループかな? 動物だから「萌え」みたいな毒々しさがない。この動物へのデフォルメが、性的なアピールを削ぎ、かえってキャラクターへ感情移入させやすくなってる。不思議だ。性別や人種を飛び越えたのだろう。
純粋に登場人物たちを応援してしまうし、一緒になって心踊るカタルシスの連続にストレス解消だ!
ロックとギャグでイルミネーションは突き進む! 今年の夏は看板作の『怪盗グルー』の新作も待っている。もう有名アニメスタジオとして不動となった! 『怪盗グルー3』も楽しみだ‼︎
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