『パイレーツ・オブ・カリビアン』 映画は誰と観るか?

2017年のこの夏『パイレーツ・オブ・カリビアン』の新作『最後の海賊』が公開された。映画シリーズ第1作目の『呪われた海賊たち』が2003年公開だから10年以上続く息の長いシリーズだ。
新作公開に先駆けて、フジテレビで過去4作をすべて連続放送してくれた。それを子どもたちと一緒に観たら、ものすごくおもしろかった!
小学生低学年の娘は、なんでも帰国子女の同級生から『パイレーツ・オブ・カリビアン』の存在を教えてもらって、「パパ、この映画知ってる? 観たい!」とご所望。自分も『パイレーツ・オブ・カリビアン』は、最初の三部作は映画館で観ている。当時も大ブームで、周りの人たちも声をそろえて「おもしろい!」と言っていた。
自分はといえば、このシリーズにはなんだか乗れず、おもしろさが理解できずにいた。毎回2時間半の長尺な映画との睡魔との戦いだった。基本ミーハーなので、流行りものの映画はなんでも観ていた。でももう今後『パイレーツ・オブ・カリビアン』は観ることはないだろうなと思っていた。
地上波放送用の再編集版『パイレーツ・オブ・カリビアン』は、小ネタが大幅にカットされていた。原作になっているディズニーランドのアトラクション『カリブの海賊』のワンシーンで、牢屋に閉じ込められた海賊たちが、檻の鍵を咥えた犬を呼んでる場面なんかも、さらっと短縮してる。でもそのおかげで、映画の大筋がみえやすくなった。脱線しないのでテンポもいい。そして自分がこのシリーズに乗れなかった理由がハッキリわかってきた。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』の主人公は、ジョニー・デップ演じるジャック・スパロウなんだけど、実は本編ではこのキャラクターはあまり活躍していない。オーランド・ブルーム演じるウィル・ターナーと、キーラ・ナイトレイ演じるエリザベスの物語なんだということ。ウィルは実は呪われた海賊の子で、その宿命をさらわれた最愛のエリザベスを追う冒険の中で知っていく。ジャック・スパロウは、その冒険で出会った頭のおかしい海賊に過ぎない。ジャック自身には、この冒険に挑む動機はほとんどない。冒険にただただ流されているだけ。イカれた海賊だからなんでもアリと言ってしまえばそれだけだが、観客としてはどうしてもジャック・スパロウの活躍が観たい。存在感ありすぎで、めだつもの。ウィルが大活躍して自身の運命を切り拓いている横で、チョロチョロ走り回っているジャック・スパロウに苛立ちすら感じてしまっていた。でもこれは大人の偏見に満ちた視点だ。
非力な存在の主人公でも許される場合がある。スター的なカリスマ性がその主人公にあれば、活躍しなくとも観客は認めてくれる。自分にとってジョニー・デップの存在は、「きっとなにかしてくれるであろう役者さん」なのだろう。インディペンデントな香りが魅力だと思っているから、メジャーなスター的な扱いをされている本作では、ちと物足りなかったのかも?
でも初見の子どもたちは、一目でジャック・スパロウも、ウィルもエリザベスも好きになっていた。純粋にウィルの活躍に乗っかって楽しんでいる。エリザベスが啖呵を切って海賊たちを従える姿に胸躍らせる。何がしたいのかわからないジャック・スパロウにケラケラ笑ってる。海賊たちがガイコツになったら、きゃあきゃあ言って怖がる。海賊船が海の渦に飲み込まれそうになれば大騒ぎ。自分も一度観ているはずの映画なのに、新鮮な気持ちで子どもたちとはしゃいでいた。『パイレーツ・オブ・カリビアン』おもしろいじゃん!
あまりに楽しかったので、ブルーレイボックスを買ってしまった! 最新作を盛り上げるための過去作の放映やら、ボックス発売なのに、そちらばかり夢中になってしまった。
今回自分が初めて観た第4作目の『生命の泉』は、ウィルもエリザベスも出てこない。やっぱりジャックを活躍させなきゃダメだと制作者側も感じたのか、この回はジャックがメインで物語が進んでいく。しっかりしてるジャック・スパロウ。いままでの作品とは別人。もちろんシリーズ毎に主人公の性格が変わってしまう作品はたくさんある。それはそれで方向性はオッケー。でもまあやっぱり番外編臭は否めない。
最新作の『最後の海賊』は、ウィルもエリザベスも出てくるらしいし、なんでもウィルの息子がメインだとか? 映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』は、ジャック・スパロウの冒険譚というよりは、ターナー家の物語といったところだ。最新作のジャック・スパロウのポジションは如何に!
だが重大な問題が発生した。過去作にハマり過ぎて、自分はもう『パイレーツ・オブ・カリビアン』でお腹いっぱい。最新作も観たような気分になってしまった。今はまだ『最後の海賊』を観る気になれないけど、観るならやっぱり子どもたちと観たい。なら吹き替え版か〜。だったらソフト化されるの待つかな? ディズニー作品はDVDやブルーレイの廉価版は出ないしな〜。
……なんだかんだしてる間に、上映も終わってしまいそうだ。果たして自分はいつ『最後の海賊』を観るのだろうか? それもこれも映画館の鑑賞料が高いからに尽きるんだろうけど。映画鑑賞は、すっかり敷居の高い娯楽になってしまった。
関連記事
-
-
『MINAMATA ミナマタ』 柔らかな正義
アメリカとイギリスの合作映画『MINAMATA』が日本で公開された。日本の政治が絡む社会問題
-
-
『TENET テネット』 テクノのライブみたいな映画。所謂メタドラえもん!
ストーリーはさっぱり理解できないんだけど、カッコいいからいい! クリストファー・ノーランの新
-
-
『バトル・ロワイヤル』 戦争とエンターテイメント
深作欣二監督の実質的な遺作がこの『バトル・ロワイヤル』といっていいだろう。『バトル・ロワイヤル2』の
-
-
『初恋のきた道』 清純派という幻想
よく若い女性のタレントさんを紹介するときに「清純派の◯◯さん」と冠をつけることが多い。明らかに清純派
-
-
『ホームレス ニューヨークと寝た男』華やかさのまやかし
ドキュメンタリー映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』。映画公開時もとても気になってい
-
-
『鉄道員』健さんなら身勝手な男でも許せちゃう?
高倉健さんが亡くなりました。 また一人、昭和の代表の役者さんが逝ってしまいまし
-
-
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 問題を乗り越えるテクニック
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、日本公開当時に劇場で観た。アメリカの91
-
-
『オッペンハイマー』 自己憐憫が世界を壊す
クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を、日本公開が始まって1ヶ月以上経ってから
-
-
『花束みたいな恋をした』 恋愛映画と思っていたら社会派だった件
菅田将暉さんと有村架純さん主演の恋愛映画『花束みたいな恋をした』。普段なら自分は絶対観ないよ
-
-
『プライベート・ライアン』 戦争の残虐性を疑似体験
討論好きなアメリカ人は、 時に加熱し過ぎてしまう事もしばしば。 ホントかウソかわから
