『ベイビー・ドライバー』 古さと新しさと遊び心

ミュージカル版アクション映画と言われた『ベイビー・ドライバー』。観た人誰もがべた褒めどころか、ちょっと興奮気味。あまり期待せず、フラッと劇場に行ったらエライことになったって。こりゃあ絶対おもしろいに決まってる。
音楽とアクションが完全にシンクロ。役者の芝居も音楽のリズムに合わせてる。スルスルとカーアクションが展開されるだけでなく、鉄砲の発砲音ですらリズムを刻む徹底した計算にはゲラゲラ笑えてしまう。
犯罪映画なのにR指定じゃないところもイイ。映画観終わったあと、すぐにサントラをチェックしたくなる。
ご都合主義ストーリーなんてちっとも気にならない。そんなの突っ込む方が野暮ってもんさ。単純に音楽と映像のグルーヴに身を任せればいい。ギミックやファッション、どれもこれもがしっくりキマってる。ただただ気分が良い。俗世にもまれて疲れた心身からは、こんな軽快な映画が観たかったんだと、つくづく頷かせられる。
自分がまだ10代になるかならないかの80年代のハリウッド映画を彷彿させた。あの頃、アメリカはじめ欧米の文化は、なにもかもカッコ良くみえていた。洋画と邦画、映画館の入場料は同じなのに、なんでここまで海外作品は豪華なのかと疑問に感じていた。二者選択ならゴージャスな方がいい。
でもこのゴージャスの意味は、けっしてバジェットのことを言っているのではない。ハリウッド映画だって、低予算のものもある。逆に大スペクタクル映画でも、拷問のように退屈な映画だってある。ゴージャスの定義は、「そこにブレないハートがあるかどうか」だ。
『ベイビー・ドライバー』は、何ひとつ奇をてらうものはない。小難しいテーマもないし、ストーリーだって図式化されたド定番の直球ストレート。なのに陳腐になるどころか、まったくもって知的で新しくてハイセンス!
自分は80年代にワクワクしながらハリウッド映画を観ていた。そこにあったのは、映画が放つ圧倒的なパワー。
男の子が好きなもの、車や武器や音楽やファッション、カワイイ女の子。そして主人公はアウェイで、誰にもマネできない特別な能力を持っている。それらをセンス良く集めてパッチワーク&イノベーションすれば、革新的な作品へと繋がっていく。オッサレな映画版セレクトショップみたいだから、きっと女子だって気に入ってくれるだろう。
ちょっと前ではタランティーノ映画の登場がそんな感じだった。アタマの悪いギャングアクションを、知的な文芸作の演出でみせてくれた。最近でもマーベルヒーローものなんかも、古くて新しい感覚だ。でも『ベイビー・ドライバー』は、さらに洗練されている。
じゃあ古き良き時代に懐古的に浸ればいいのではとなってしまいがちだか、さにあらず。人の記憶とはいい加減なもので、いま当時の作品を観直してみると、「なんだこんなものか」とガッカリしてしまうことなんてよくある。たいがい当時のときめきの記憶によって、盛りに盛り込まれて美化されているものだ。
時代を経て、作品もどんどんブラッシュアップされてきて、数年前では考えられなかったようなハイセンスな作品が生まれてくる。
昔のサブカルチャーを素材にしていても、調理方法は斬新だ。まったく観たことがないものでは、誰も理解はできない。観たことがあるようでいて、観たことがないものというものが、観客に受け入れられるのだろう。
ケビン・スペイシーのセクハラ問題で、あわや本作もお蔵入りするんじゃないかと危惧してしまったが、どうやらオッケーみたい。どっかの国みたいに、まだ来ぬクレームに怯えすぎて、自主規制とかしてくれなくてホント、よかったよかった。
とにかく『ベイビー・ドライバー』は、また一本、自分のお気に入りの作品に仲間入りした。
関連記事
-
-
『DENKI GROOVE THE MOVIE?』トンガリ続けて四半世紀
オフィス勤めしていた頃。PCに向かっている自分の周辺視野に、なにかイヤなものが入
-
-
『花束みたいな恋をした』 恋愛映画と思っていたら社会派だった件
菅田将暉さんと有村架純さん主演の恋愛映画『花束みたいな恋をした』。普段なら自分は絶対観ないよ
-
-
『Ryuichi Sakamoto : CODA』やるべきことは冷静さの向こう側にある
坂本龍一さんのドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto : CODA』を観た。劇場
-
-
『あの頃ペニー・レインと』実は女性の方がおっかけにハマりやすい
名匠キャメロン・クロウ監督の『あの頃ペニー・レインと』。この映画は監督自身が15
-
-
『タイタニック』 猫も杓子も観てたの?
ジェームズ・キャメロン監督で誰もが知っている『タイタニック』の音楽家ジェームズ・ホーナーが飛
-
-
『スタンド・バイ・ミー』 現実逃避できない恐怖映画
日本テレビの『金曜ロードショー』のリクエスト放映が楽しい。選ばれる作品は80〜90年代の大ヒ
-
-
『コジコジ』カワイイだけじゃダメですよ
漫画家のさくらももこさんが亡くなった。まだ53歳という若さだ。さくらももこさんの代表作といえ
-
-
『八甲田山』ブラック上司から逃げるには
今年になって日本映画『八甲田山』のリマスター・ブルーレイが発売されたらしい。自分の周りでも「
-
-
『ブリジット・ジョーンズの日記』 女性が生きづらい世の中で
日本の都会でマナーが悪いワーストワンは ついこの間まではおじさんがダントツでしたが、 最
-
-
『男はつらいよ お帰り 寅さん』 渡世ばかりが悪いのか
パンデミック直前の2019年12月に、シリーズ50周年50作目にあたる『男はつらいよ』の新作
