*

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』子どもとオトナコドモ

公開日: : 最終更新日:2020/03/01 アニメ, 映画:カ行

小学二年生の息子が「キング・オブ・モンスターズが観たい」と、劇場公開時からずっと言っていた。映画館での鑑賞は逃したが、レンタルになったのでさっそく借りてきた。

ゴジラと言えば、私も小学一年の時に、学校の体育館で『キングコング対ゴジラ』を観たのを思い出す。16ミリのトリミングされたバージョンだった。残念ながら内容は覚えていない。もしかしたらオリジナルのシネマスコープサイズだったらば、衝撃を受けていたかもしれない。これが私にとってゴジラとの初めての出会い。

ゴジラのような怪獣映画は、当然子ども向けと思っていた。もちろん第1作目の『ゴジラ』は、社会風刺の警鐘を鳴らすようなSF映画だった。それでもやっぱり特撮モノは子ども向け。

ゴジラの映画が公開されると、ウチの子もゴジラ関係の本が読みたいと毎回ご所望される。探してみると、案外子ども向けの怪獣本って見つからない。書店でもネットでも見つからない。図書館へ行って、司書さんに探してもらっても、なかなか見つからない。あるのは大人向けの分厚い資料書みたいな本ばかり。そうか、怪獣モノの子ども向けの本て作られてないんだ!

怪獣といえば子ども向けと思い込んでいたが、いま作られている怪獣映画のターゲットはどうやらおじさんメインに絞られている。かつて子どもの頃、怪獣映画に夢中になり、すっかりそれが刷り込まれている「かつて子どもだった大人」が観てくれればいいと。

ハリウッドの中華系レジェンダリーは、そういったオトナコドモ向けのエンターテイメントに強い。『パシフィック・リム』なんかもそう。

私も振り返ると、小さな子どもの頃こそ特撮モノやアニメに夢中になっていたが、小学校高学年になると、だんだん幼稚にみえてくる。「あーあ、特撮やアニメは楽しいけれど、もうちょっとリアルなものが観たいな〜」という願望がムクムク膨らむ。ハリウッドのビッグバジェットで、本気のオトナコドモ映画を製作したら儲かるだろうという着眼点。とっくに大人の年齢に達しても幼稚趣味に浸れる。免罪符が降りたように錯覚させられる。さすが中華系、商売上手。

『ゴジラ』や『パシフィック・リム』の元ネタは日本だけれど、日本にはそんなダイナミックな商売をするパワーがない。そもそも投資しようとする企業が出てこない。せいぜい「この版権はウチにある!」とか、浅ましい利権争いで破綻するだけ。そりゃあ海外企業に権利も横取りされちゃう。

この『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の前批判で、「ドラマ性がまったくない」というものがあった。でもちょっと待って、これは怪獣映画。そもそも観客は怪獣が観たい。人間ドラマが観たいなら、ドラマ性の高い作品を観ればいい。怪獣映画は怪獣が出てきてナンボ。この『キング・オブ・モンスターズ』は、それをよくわかってる。

オリジナルの日本版『ゴジラ』シリーズは、前半40分くらいは、ゴジラの全容は見せてはいけないという約束があったらしい。ハリウッド版の前作の『ゴジラ』も、その定則を守って、なかなかゴジラが登場しない。でもそれって単純に初期のゴジラ作品に予算がなかったから。特撮場面に多く製作費をかけられなかったにすぎない。怪獣は出したいけれど、それにはカネがかかる。どれだけ引っ張って、観客に怪獣登場に有り難みを感じてもらえるかが勝負。そしてみせる場面では徹底的にみせる。でも、シリーズ作によっては、作り手もやりたくない、観客も観たくないようなドラマを延々観せられなければならなくなってしまう現象も起こる。慣例と工夫は違う。

『キング・オブ・モンスターズ』は、それを破ってくれた。つまらぬ慣例を軽々ぶち壊してくれた。もう怪獣祭りの始まりだ。登場する人物たちは、この延々と繰り返される怪獣プロレスの解説役。俳優たちも自分たちがメインでないことを重々知ってる。シリーズを通して登場する人物もいる。そんな登場人物が死ぬ場面があっても、感慨に耽るものはない。だってそもそもその登場人物の人間性に触れるエピソードがなかったから、感情移入もしていない。むしろもっとドラマ部分を割いてくれてもいいくらい。人間には興味がない。オタク心理の表れ。

映画は過去の日本で製作されたゴラシリーズのオマージュに満ちている。むしろ記憶で美化されたところまで補完してくれている。伊福部昭さんのオリジナルテーマ曲も、大編成のオーケストラにアレンジされてスケールアップしてる。

でもなにより楽しいのはメイキング。長い首が三つある怪獣・キングギドラのキャプチャーを、三人のCGアクターが演じてる。三人のアクターが寄り添いながらクネクネ動いて吠える演技をしている様は、なかなかシュール。みんな大真面目で演じてる。やっぱり怪獣映画は面白い。

映画公開時ツイッターで、芸人の鉄拳さんやパペットマペットさん、ゴー☆ジャスさんたちが三人揃ってこの映画を観たとか観れなかったとか。なんだか優しそうな御三方だ。そう、ひと昔のオタクはみんな優しかった。

いい歳した中年おじさんたちが、こぞって子どもっぽい映画を観に行くのはなんとも楽しい。年齢こそは重ねたけれど、精神的に大人になったわけではない。

ニーチェも言ってる。「人は成長してつまらない大人になってはいけない。パワーアップした大人・超人になれ」って。まあそれを引用するのは虚しい言い訳だけど。

我が家で『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』をかけると、早々に女性陣が外出してしまった。女子度ゼロの怪獣映画。いいのさ、それで。息子と一緒にキャアキャア言いながらゴジラを楽しむ。でもあと何年、息子もこんな遊びに付き合ってくれるのやら。今しかないひと時を十二分に楽しもうではないか!
ケセラセラ。

関連記事

no image

『君の名は。』株式会社個人作家

  日本映画の興行収入の記録を塗り替えた大ヒット作『君の名は。』をやっと観た。実は自

記事を読む

『未来のミライ』真の主役は建物の不思議アニメ

日本のアニメは内省的で重い。「このアニメに人生を救われた」と語る若者が多いのは、いかに世の中

記事を読む

no image

発信者がウソをついてたら?『告白』

  中島哲也監督作品、湊かなえ著原作『告白』。この映画の演出のセンスの良さにシビレま

記事を読む

no image

『カールじいさんの空飛ぶ家』憐憫の情を脱せなければ、ドラマは始まらない。

  ディズニーアニメの最新作『ベイマックス』が 予告編とあまりに内容が違うと話題に

記事を読む

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』 サブカルの歴史的アイコン

1995年のテレビシリーズから始まり、 2007年から新スタートした『新劇場版』と 未だ

記事を読む

『バケモノの子』 意味は自分でみつけろ!

細田守監督のアニメ映画『バケモノの子』。意外だったのは上映館と上映回数の多さ。スタジオジブリ

記事を読む

『デッドプール2』 おバカな振りした反骨精神

映画の続編は大抵つまらなくなってしまうもの。ヒット作でまた儲けたい企業の商魂が先に立つ。同じ

記事を読む

no image

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

  作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい

記事を読む

『グラディエーター』 Are You Not Entertained?

当たり外れの激しいリドリー・スコット監督の作品。この『グラディエーター』はファーストショット

記事を読む

no image

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』ある意味これもゾンビ映画

『スターウォーズ』の実写初のスピンオフ作品『ローグ・ワン』。自分は『スターウォーズ』の大ファンだけど

記事を読む

『たかが世界の終わり』 さらに新しい恐るべき子ども

グザヴィエ・ドラン監督の名前は、よくクリエーターの中で名前が出

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

→もっと見る

PAGE TOP ↑