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『白洲次郎(テレビドラマ)』自分に正直になること、ズルイと妬まれること

公開日: : ドラマ, 映画:サ行,

白洲次郎・白洲正子夫妻ってどんな人? 東京郊外ではゆかりの人として有名だけど、恥ずかしながら何をした人なのかよくわからない。白洲次郎氏は戦後の政治に関わった、GHQにハッキリNOと言った「従順ならざる唯一の日本人」という話は聞いたことがある。奥様の正子氏は日本古典芸能の研究家でエッセイストの走りといったイメージがある。こりゃあ文献を調べるより、彼らの人生を映像化した作品を観た方が手っ取り早い。

2009年にNHKで白洲次郎の伝記ドラマが製作されていた。それを観てみることにした。次郎役には伊勢谷友介さん、正子役には中谷美紀さん。両者とも英語に堪能なので適役。むしろツンとした美男美女の夫婦なので、かなりキザな演出になっている。演出は実写版『るろうに剣心』などの大友啓史監督。音楽は昨年の大河ドラマ『いだてん』も担当した大友良英さん。『いだてん』とは舞台になる時代も同じなので、ちと混乱する。

ドラマはあくまでドラマ。実在の人物がモデルとはいえ、脚色は必ずされているもの。製作者の意図も入ってくるので、描かれているそのままを鵜呑みにしてはいけない。伝記モノ歴史モノの観客の姿勢としては、作品はその事柄を知るための取っ掛かりとしてのみと、ふまえておかなければならない。創作作品で知った気になるのは危険。もしその事象に興味が湧いたら、さまざまな角度から調べてみる必要がある。

ドラマを観ていると、白洲次郎さんはものすごい先見の明があるのに気づかされる。そして抜け目ない。

成金実業家で傲慢な父親のもとで育った次郎少年。喧嘩っ早く手のつけようのない、どしようもない少年。その燃えたぎる衝動が、のちの人生を予感させる。

留学を経て、妻となる正子と出会う。彼女は貴族の娘。実業家の御曹司とはいえ、貴族の娘と一緒になるのは難しい。ただこの結婚で次郎が貴族の仲間入りを果たすのも確か。下克上の野心も否めない。もちろん身分が著しく違えば、二人が出会うこともない。知的な二人が、ただ地位欲しさに繋がるとも思えないし、思いたくない甘さもこちらにはある。たまたま妻の地位に乗っかっただけかもしれない。

戦争が始まると早々に、郊外の鶴川に引っ込んでしまう。その行動力がすごい。世界を見てきた次郎からすれば、日本が世界と戦争なんてしてしまえば、結果はみえていたのだろう。ただ普通ならその不吉な予想にはフタをしてしまうもの。楽観主義や面倒がったり、しがらみや慣例をまず考えて動けなくなってしまう。赤紙が届いても、「この戦争は必ず負ける!」と言い放ち、誰になじられようとも、地位を使って出征を拒んだ。これまたすごい!

とかく日本人は周囲の目を気にしてしまう。不本意であっても、周りにとやかく言われないために、不条理を飲み込んで同調圧力に加わってしまう。一見和を尊ぶように思えるが、この付和雷同が、世の中の事態をもっと悪くしてしまったりもする。白洲次郎のように、堂々とNOと言える日本人が大勢いたら、戦争を避けられたかも知れない。

戦後もGHQの言いなりに絶対ならず、言い返すことはズバリ言ってしまう性格。外野から見ると快活だが、近くの人は日米共々ヒヤヒヤしたことだろう。

次郎の言葉によく「プリンシプル」という単語が出てくる。日本語で言うなら「原則」みたいな意味。げんだいてきなら「ブレない生き方」。白洲次郎のこだわりに特性を感じる。

歴史を大きく動かしたり、変化をもたらした人たちは、とかく敵の多い人生を送りがち。幕末なら坂本龍馬や平賀源内なんかもそうだろうし、近代では岡本太郎さんもそう。現代ではIT系の社長などがそれにあたる。

そういった人たちは、変わり者や嫌われ者だったかも知れない。でも後からじだいがおいついて、その人たちの言葉を証明してくれたりもする。エキセントリックに見える彼らが、いちばんまっとうなことを言っていたのだと、凡人は二歩も三歩も遅れて気付かされる。本人からしてみれば、「それみたことか!」といった次第だろう。

戦後、当時の首相・吉田茂のブレーンとして活躍する白洲次郎。国内完結型の商売が、今後立ち行かなくなることや、敗戦国根性のままではダメだと白洲次郎はドラマの中で説いている。そんなスケールで物事を考えているなんて、周囲に伝わるはずもない。ただの売国奴にも見えかねない。そして状況は現代もあまり変わっていないようにも感じる。

もちろん政治家なので、綺麗事では済まされない。ドラマはそこのところはボカしている。手は汚さないわけにはいかないのは、進む道の宿命。

家庭を顧みない白洲次郎は、家族からも疎まれる。ドラマでの妻の正子は、鬱になりかけたところから、古典芸能や文学に傾倒していったように描かれている。

たとえ周囲が敵だらけになっても、自身の「プリンシプル」は揺るがなかった白洲次郎。人には譲れないものというものもどこかにある。それに素直に向き合ってしまうと、大きな流れからはみ出して、反感を買ってしまうこともある。周りの評価ばかりを気にしていたら、自分の人生に向き合うことができなくなってしまう。そのバランスの難しさ。

人は誰しも幸せな人生を目指すもの。その幸せの定義は、人それぞれ違う。自分自身の幸せを求めてしまうと、大衆と足並みがそろわなくなることもしばしば起こる。でもそれは仕方がないことなのかも知れない。

これからグローバル化をせざるを得ない日本において、今後いかに上手くわがままに生きるテクニックを身につけていくかが課題。

白洲次郎が、その好例なのか反面教師なのかはわからない。果たして白洲夫妻は、幸せな人生を遅れたのだろうか? 答えはわからない。やはり幸せの定義は人それぞれ。

ただ、白洲次郎のような「わがままに生きた人」が、先陣を駆け抜けたということで、一般人の我々の人生においても、生きる勇気を与えてくれているのかも知れない。

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