『ターミネーター/ニュー・フェイト』 老人も闘わなければならない時代
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最終更新日:2021/02/28
映画:タ行
『ターミネーター』シリーズ最新作の『ニュー・フェイト』。なんでもシリーズの生みの親であるジェイムズ・キャメロン監督が、一度手放してしまった続編製作の権利を、30年近く経ってやっとこさ取り戻して、最新作にたどり着いたとか。思えば『ターミネーター』シリーズの続編が発表されるたびに自分は劇場に足を運んでいた。テレビシリーズの続編もあったっけ。
それぞれの作品は、それなりに面白かった。毎回、新三部作の序章とか謳っていたような気がする。どれもこれも頓挫してしまい、幾つものパラレルワールドが生まれてしまった。タイム・パラドックスがテーマの映画なので、いく通りの未来が生まれてしまっても、それはそれで映画の本筋には沿っているのかも知れない。もちろん本来の続編製作意図とは違っただろうけど。
元祖ジェイムズ・キャメロンに権利が戻ったということで、オールドファンの自分はときめかずにいられない。なんでも『ターミネーター2』以降のすべての続編はなかったことにして、仕切り直しのパート3になるとのこと。旧キャストも勢揃いする。
てっきりジェイムズ・キャメロン自身が監督するのかと思いきや、そうではないと。『デッドプール』のティム・ミラーにメガホンは譲って、キャメロンは製作に回るとか。むむむ、『デッドプール』は面白かったけど、キャメロンが直々監督しないなら、やっぱり地雷臭しかしてこない。自分はここのところ映画館離れをしていたので、今回は様子見でいこう。ちょっとターミネーターに踊らされるのには疲れていた。
そして『ターミネーター/ニュー・フェイト』のレンタルが始まった。子どもの頃から好きだったシリーズなので、やはり気になる。遅ればせながら観てみることにした。あまりに容姿が変貌してしまった俳優は、物語上でのごまかしも仕方がない。とりあえずオリジナルキャストが揃う同窓会みたいなものだ。
ターミネーター役のアーノルド・シュワルツェネガーはほとんどの続編に出演してる。今回は、リンダ・ハミルトンがサラ・コナー役に返り咲いたのが最大の見ものだ。
闘うおばあちゃん。カッコいいのは確かだけど、なんだかモヤモヤする。リンダ・ハミルトンも年老いた。それは、自分自身もそれだけ年老いたということ。それがいちばん怖い。
ふと、最近炎上したAmazonの CMを思い出す。同社の物流の倉庫で、70代のおじいちゃんスタッフが、仕事のやりがいを語っているもの。CMの意図は、多種多様の人々が同じ会社で働いている前向きな姿をアピールしたかったのかも知れない。炎上した理由は、高齢になっても働かなければならない現代社会へ対しての不安や不満からだろう。
そういえば大事故を起こした仕事中の運転手が、たいてい高齢なのも気になる。事故に繋がるような過酷なシフトを組んだ企業にも問題があるが、重い体を押して働かなければならない老人の多さに愕然とする。本来ならば悠々自適の年金生活をしているはずの世代も、働かざるを得ない状況がこのCMの炎上に繋がった。
とは言え自分自身も、これから老齢を迎える中、体が動く限りは働いていたいと思っている。無理や無茶な働き方はもうしたくないが、どこかで社会とコミットしていたいと思う。高齢になっても「働きたいという願望」と、「危険な仕事をしなければいけない状況」を混同してはいけない。件のAmazonのCMのおじいちゃんスタッフだって、どんな気持ちで働いているか詮索するのは情報が少ないし、今のところ大きなお世話だ。
近年のハリウッド映画も、かつてのヒット作の続編やリブート作品が目立っている。話題ばかりが先行して、いつの間にか公開が終わっていたような、パッとしない作品もあれば、『マッドマッックス』みたいな、「シリーズ最高傑作かも?」みたいな作品も生まれてくるから、この「久方ぶりの続編」ブームも一概に否定できない。
ネームバリューを頼りに新作がつくられている現在のハリウッド映画。新しい企画が通りづらい現状なのだろう。ふと社会を見渡せば、問題ばかりが目についてくる。これら日常の問題に目を配ることでも、映画にする企画はまだまだ世の中にはたくさんある。企画を動かす投資する側の凝り固まった脳味噌が、エンタメを含めたあらゆる産業の疲弊に反映しているのだろう。
若者よりたくましい老人の姿は、確かにカッコいい。その反面、老人になってまで、若者のように担ぎ上げられて最前線に立たなければやっていけない世の中に、痛々しさも感じる。
そういえば劇中、任務を遂行したターミネーターが、余生を人間として暮らしている姿が結構笑えた。ターミネーターは山里にひっそりと家族を作って暮らしてる。玄関先には星条旗が掲げられている。ターミネーターは保守派なのね。共和党応援してるのかしら? トランプ政権支持してるのかしら? ターミネーターにも思想がある。想像すると楽しくなる。なんてことない、映画の制作がFOXだから単純にそのライフスタイルが反映してるだけだし、政治的宣伝もあるだろう。
「その日が来るのを備えていた」と、ターミネーターの部屋には銃器がズラリと飾ってある。「備えていた」とはカッコいい言い方だが、要は「怯えていた」訳で。マイケル・ムーアの映画に出てきた銃愛好家の俳優チャールトン・ヘストンの姿とダブらせているのは確信犯。
若かりし日のジェイムズ・キャメロンが描いていた『ターミネーター』シリーズは、人類のオーバー・テクノロジーに対する警鐘がテーマにあった。社会に対する危機感は、SF作品の根源。そのSF要素とアクションのイノベーションしたことが、このシリーズのユニークさだった。
いまやAIの暴走を題材とした作品は手垢まみれ。AI自体が独自の意思を持つ可能性は、いまのところあり得ないと科学は証明している。もう第一作のテーマをそのまま継承したら、ただの懐古主義。今回の『ニュー・フェイト』では、早々にSF要素は捨てて、シンプルにアクション映画に割り切っている。複雑化したタイム・パラドックスの要素もない。むしろティム・ミラー監督のオタクパワーで映画は突き進んでいく。映画監督に権威が感じられないのも、現代っぽい。
『ターミネーター』の『パート2』以降の続編はなかなか難しい。『ターミネーター2』が面白過ぎたというのもあるのかもしれないが、記憶は輝かしいものを美化してしまう。続編製作に時間が空けば空くほど、その期待値のハードルは高くなる。やっぱり古い企画の掘り起こしではなく、まったく新しいオリジナルの企画で、観客をワクワクさせてくれないものだろうか。
そういった意味で、ハリウッドに韓流エンタメが流入している現在のカタチになるのだろう。ある意味エンターテイメントは、早々に国境を越えつつあるのだと実感している。エンターテイメントが国を動かす産業となっているのがとても面白い。芸術は無意味なもの、贅沢品などではないということの証明だ。
「24時間いつでもお電話ください。私はあなたにいつでも対応しますよ」と、若い営業マンがセールスしてきたりする。正直イヤな印象しかしない。この人、不眠不休のブラック環境で働いてるのかなと心配してしまう。そんな丁稚奉公のような勤務状態だと、心身壊してていい仕事はできないだろうと、逆に不信感に繋がってしまう。
それにそんな働き方を美徳とする人がひとりでも多いと、世の中の働き方も悪い方へ引っ張られてしまいそう。悪い方へ働き改革してしまっては本末転倒。
先のAmazonで働くおじいちゃんの件も、それを観た人たちが、「自分もそんな働き方を、将来社会に強制されるのだろうか」という不安な気持ちにならされる。老人が働くのはいいが、働き方もある。若者と同じ最前線で働くなんて危ないだけ。若者のバックアップに回って働く方法を模索した方がいい。老後の生活を考えたとき、単純に隠居生活しなさそうなら、どんな働き方をするか、現役時代から考えていなければいけなさそうだ。そもそも老人も働かなければ立ち行かない社会に問題がありそう。
サラ・コナーの老後は、もっともハードな生き方の見本だ。そうとらえると、単純にカッコいいだけではすまされない。やれやれ。
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