*

太宰治が放つ、なりすましブログのさきがけ『女生徒』

公開日: : 最終更新日:2019/06/15

 

第二次大戦前に書かれたこの小説。

太宰治が、女の子が好きで好きで、
もうたまらなく好きで、
それなら自分が女の子になってしまえって
書いた文章と言って良いでしょう。

少女が朝起きて夜寝るまでの様子を
一人称で書き綴る。

文体は現代的で、まったく古さがない。
むしろ今現代でちょうどいい。

当時特有のキーワードが出てこなければ、
まったくもって現代書かれているものと錯覚してしまう。

男が女になりすまして心情の機微を描いている。

最初のうちは太宰の顔が浮かんできて、
おっさんが一生懸命少女の気持ちを
想像して書いていたのかと思うだけで
笑けてしまうのだが、終盤に入る頃には
普通に少女の日常の様子が想像できてしまう。

世の中のメディアに出てくる女性像は
ほとんどが男の都合で男が作り上げたもの。

女性自身が本当に
感情移入できる女性像と言うものはあまりない。
とくに日本の作品はそうだ。

男の妄想の女性像に、男が金を払う。

男が金儲けのために作り上げた男向けの商売。
萌えアニメやアイドル、風俗にAV……。
男の妄想の女性像でビジネスが成り立っている。

世界的にみて黄色人種の男性は女性にモテない。
アジアの男性は足も短く、えらがはり、出っ歯で眼鏡。
金に強欲で、女性や子どもに威張り散らす印象が高い。

見た目もブサイクで、性格も悪いのではモテるはずはない。

男尊女卑の世の中で、
太宰治のように女性の心の機微をいつも考えてて、
それでもってハンサムな作家さん。
そんな人から「僕と一緒に死んで欲しい」なんて言われたら、
ほろっときてしまう女性もいて当然。

自殺なんかはけっして良い事ではない。
女性の気持ちを考えられる想像力の高い太宰だったら、
幸せに生きる道もあったのではないかと思うのだけれど……。

とにかくこの文章、
今ネットに溢れているブログの文体にそっくり。

当時、こんな文章はなかったでしょうし、
とても理解できる人が多かったとは思えません。

太宰はタイムスリップして現代から学んで
文章を書いたとしか思えないくらい。

太宰治はやっぱり天才なんでしょうね。

天才が幸せな人生が送れるような
世の中になれば良いけれど……。

 

太宰治 『女生徒』 – 青空文庫はこちら

関連記事

no image

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

  作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい

記事を読む

『赤毛のアン』アーティストの弊害

アニメ監督の高畑勲監督が先日亡くなられた。紹介されるフィルモグラフィは、スタジオジブリのもの

記事を読む

no image

『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』賢者が道を踏み外すとき

  日本では劇場未公開の『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』。DVDのジャケ

記事を読む

『愛の渦』ガマンしっぱなしの日本人に

乱交パーティの風俗店での一夜を描いた『愛の渦』。センセーショナルな内容が先走る。ガラは悪い。

記事を読む

『日本のいちばん長い日(1967年)』ミイラ取りがミイラにならない大器

1967年に公開された映画『日本のいちばん長い日』。原作はノンフィクション。戦後20年以上経

記事を読む

no image

発信者がウソをついてたら?『告白』

  中島哲也監督作品、湊かなえ著原作『告白』。この映画の演出のセンスの良さにシビレま

記事を読む

『ドライブ・マイ・カー』 綺麗な精神疾患

映画『ドライブ・マイ・カー』が、カンヌ国際映画祭やアカデミー賞で評価されているニュースは興味

記事を読む

『ベニスに死す』美は身を滅ぼす?

今話題の映画『ミッドサマー』に、老人となったビョルン・アンドレセンが出演しているらしい。ビョ

記事を読む

no image

『生きる』立派な人は経済の場では探せない

  黒澤明監督の代表作『生きる』。黒澤作品といえば、時代劇アクションとなりがちだが、

記事を読む

『嫌われ松子の一生』 道から逸れると人生終わり?

中島哲也監督の名作である。映画公開当時、とかく中島監督と主演の中谷美紀さんとが喧嘩しながら作

記事を読む

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

→もっと見る

PAGE TOP ↑