『ルパン三世(PART1)』実験精神あればこそ
公開日:
:
最終更新日:2019/06/12
アニメ
MXテレビで、いちばん最初の『ルパン三世』の放送が始まった。レストアされて、ものすごい高画質だった。予約録画していたのは、まだ小さなウチの娘だった。ジブリアニメ好きの娘は、『ルパン三世/カリオストロの城』の流れで録画していたらしい。あまりに作風が違うので、困惑するかと思いきや、さにあらず。やはり子どもは頭が柔らかい。『ルパン三世』はつくる人によって、ぜんぜん違う雰囲気になるんだよと説明したら、すんなり受け入れていた。
当初の『ルパン三世』は、「大人向けアニメ」とうたっていたらしい。アニメといえば、今も昔も世界的には子ども向けと考えられている。お色気や殺人場面も辞さない初期『ルパン三世』は、アニメなら高視聴率だった当時では珍しく不人気だったらしい。峰不二子のおっぱいとか見えちゃうから、ウチの小さな子たちはどうとるか気になった。確かに新鮮な衝撃は受けていたみたいだが、自分もこの『ルパン三世』を初めて観たのは幼稚園の頃。これを観たことでどんな影響を与えるかのモデルは、自分自身に問えばいい。
この『ルパン三世』のお色気場面は、ルパンと不二子の、普通の恋人同士のやりとりしか描かれていない。今観ると、まったく道理にかなった筋の通った描写だ。むしろ今のアニメやマンガにある、恋人関係でもない相手に妄想をフツフツと膨らませる描写の方が不健全。そんなものばかりに触れているとビョーキになりかねない。
この最初の『ルパン三世』が発表されたのは1971年。当時アニメは、子ども対象のコンテンツだった。『天才バカボン』のようなギャグアニメもあれば、『巨人の星』のようなドラマ性のある作品もあった。まだアニメというジャンルが、今後どんなものに化けるかわからない時代だった。この可能性に満ちたジャンルで、当時若かったスタッフたちが、なにかカッコイイことができないかと、模索しながら創ったのが『ルパン三世』なのではないだろうか?
アメリカンニューシネマや、フランス映画の犯罪ものなど、退廃的な雰囲気をアニメに取り入れていく。勧善懲悪ではなく、主人公も悪人。死の匂いが常につきまとう。主人公がいつ死んでもおかしくない。音楽も切なく、センスがいい。
初期の『ルパン三世』は、今観ても刺激的でカッコイイ。よく、子どもの頃影響を受けた作品を、大人になって観直すと、ガッカリすることがあるが、『ルパン三世』にはそれがなかった。刷り込みによるまやかしではないと思う。やはり当時のスタッフは全員が、必死で実験的な作品を創ろうとした意欲が、画面から伝わってくるのだろう。
でもやっぱり商業作品の宿命で、人気がとれなければ作風を変えざるを得ない。『ルパン三世』は回を重ねるごとに、コメディ要素が増えてマイルドになっていく。そして今の人気シリーズへとなっていくわけだから皮肉なものだ。
実験的なアプローチあってこそ生まれた『ルパン三世』は、いつの間にか万人受けする作品にまで育っていった。あれから45年。あの頃よりももっと失敗が許されない時代になった現代。実験的な作品が作られるような世の中ではなくなっている。新しいタイプの作品は生まれにくいのかも知れない。
新しいものや面白いものは、みんなが見ている場所と違うところに、ひょっこりいるものだと思えてならない。
関連記事
-
-
『かがみの孤城』 自分の世界から離れたら見えるもの
自分は原恵一監督の『河童のクゥと夏休み』が好きだ。児童文学を原作に待つこのアニメ映画は、子ど
-
-
『境界のRINNE』やっぱり昔の漫画家はていねい
ウチでは小さな子がいるので Eテレがかかっていることが多い。 でも土日の夕方
-
-
『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚
『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している『世にも奇妙な物語』をすぐ思い
-
-
アーティストは「神」じゃない。あなたと同じ「人間」。
ちょっとした現代の「偶像崇拝」について。 と言っても宗教の話ではありません。
-
-
『her』ネットに繋がっている時間、私の人生は停まっている
スパイク・ジョーンズ監督作品『her/世界でひとつの彼女』は、本格的なSF作品としてとても興味深い。
-
-
『未来少年コナン』 厄介な仕事の秘密
NHKのアニメ『未来少年コナン』は、自分がまだ小さい時リアルタイムで観ていた。なんでもNHK
-
-
『デッドプール2』 おバカな振りした反骨精神
映画の続編は大抵つまらなくなってしまうもの。ヒット作でまた儲けたい企業の商魂が先に立つ。同じ
-
-
『茶の味』かつてオタクが優しかった頃
もうすぐ桜の季節。桜が出てくる作品で名作はたくさんある。でも桜ってどうしても死のメタファーと
-
-
『アリオン』 伝説になれない英雄
安彦良和監督のアニメ映画『アリオン』。ギリシャ神話をモチーフにした冒険活劇。いまアリオンとい
-
-
『ひつじのショーン〜バック・トゥ・ザ・ホーム』人のふり見て我がふり笑え
なにこれ、おもしろい! NHK Eテレで放送しているテレビシリーズ『ひつじ
- PREV
- 『幕が上がる』覚悟の先にある楽しさ
- NEXT
- 『精霊の守り人』メディアが混ざり合う未来
