*

『ヴァンパイア』お耽美キワもの映画

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:ア行, 映画:ハ行

 

映画「ヴァンパイア」録画で観ました。岩井俊二がカナダで撮った映画です。ものすごく暗かった。ヴァンパイアといっても、以前流行の吸血鬼ものと違って、一風変わった人殺しのお話です。

自殺願望の女の子から血液を抜き取って集める、自殺の手伝いをする殺人者の話です。『キワもの』と『美』の間。嘆美な世界。ハマる人は好きだろうけど、わからん人にはさっぱりのお耽美ちゃんな世界観。犯罪者が自分を正当化する時の哲学ってこういうことなのかもしれません。

殺人者の主人公は、被害者になる女の子たちに優しく接し、『性欲』ではなく『あこがれ』から殺人行為に進んで行くようにみえます。十代の男の子がアイドルにあこがれるように。自分は男だから男性として観ているんだけど、被害者になる女性側の観客はどう感じたんだろう? はたしてこんなふうに殺して欲しいの? マトモな精神状態の人が出て来ない、ビョーキだらけの映画。この映画は模倣犯を喚起するものなのか、それこそ日頃の鬱積をガス抜きするための潤滑剤なのか。かなり受け手の感性に委ねられる。この映画を観てウツっぽくなるのは否めない。健康的な作品ではないので、あまり話題にもならなかったのでしょう。暗すぎる映画は注目されにくい。世界的に暗い気分になっている現代では、とくに暗い映画は観たくない雰囲気がある。

岩井俊二はタッグを組んでいたカメラマンの篠田昇が亡くなって、ずっと新作を撮らずにいたが、今回は自分でカメラもやっている。撮影どころか、脚本・編集・音楽・製作と主要なところはすべて自分でこなしてる。映画は大勢の人間と創るものだと思うが、彼は殆どの作業を自分でこなしてしまう。だからこそ、どんどん閉じこもって行く印象を受ける。これはこれで説得力ある映画なんだけど、時代性からして、なにがしらの救いは欲しかったかな。

不思議な後味の映画でした。

関連記事

no image

人を幸せにしたいなら、まず自分から『アメリ』

  ジャン=ピエール・ジュネ監督の代表作『アメリ』。 ジュネ監督の今までの作風

記事を読む

『日の名残り』 自分で考えない生き方

『日の名残り』の著者カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞した。最近、この映画版の話をしてい

記事を読む

『犬ヶ島』オシャレという煙に巻かれて

ウェス・アンダーソン監督の作品は、必ず興味を惹くのだけれど、鑑賞後は必ず疲労と倦怠感がのしか

記事を読む

no image

戦争は嫌い。でも戦争ごっこは好き!! 『THE NEXT GENERATION パトレイバー』

  1980年代にマンガを始めOVA、 テレビシリーズ、劇場版と メディアミック

記事を読む

『パスト ライブス 再会』 歩んだ道を確かめる

なんとも行間の多い映画。24年にわたる話を2時間弱で描いていく。劇中通してほとんど2人の主人

記事を読む

『エイリアン』とブラック企業

去る4月26日はなんでもエイリアンの日だったそうで。どうしてエイリアンの日だったかと調べてみ

記事を読む

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』 これぞうつ発生装置

90年代のテレビシリーズから 最近の『新劇場版』まで根強い人気が続く 『エヴァンゲリオン

記事を読む

『はちどり』 言葉を選んで伝えていく

雑誌に韓国映画『はちどり』が取り上げられていて興味を抱いた。中学生が主人公の映画でフェミニズ

記事を読む

no image

それを言っちゃおしまいよ『ザ・エージェント』

社会人として働いていると「それを言っちゃおしまいよ」という場面は多々ある。効率や人道的な部分で、これ

記事を読む

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 マルチバースとマルチタスクで家庭を救え!

ずっと気になっていた『エブエブ』こと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を

記事を読む

『トクサツガガガ』 みんなで普通の人のフリをする

ずっと気になっていたNHKドラマ『トクサツガガガ』を観た。今や

『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』 黒歴史を乗り越えて

カナダ映画の『アイ・ライク・ムービーズ』がSNSで話題になって

『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』 映画鑑賞という祭り

アニメ版の『鬼滅の刃』がやっと最終段階に入ってきた。コロナ禍の

『ひとりでしにたい』 面倒なことに蓋をしない

カレー沢薫さん原作のマンガ『ひとりでしにたい』は、ネットでよく

『舟を編む』 生きづらさのその先

三浦しをんさんの小説『舟を編む』は、ときどき日常でも話題にあが

→もっと見る

PAGE TOP ↑