『ウォレスとグルミット』欽ちゃんはいずこ?
この『ウォレスとグルミット』は、現在大ヒット中の映画『ひつじのショーン』のアードマン・アニメーションズのニック・パーク監督の出世作。なんでも『ウォレスとグルミット』第一作『チーズ・ホリデー』は学生時代の卒業制作だとか。三作目に当たる『危機一髪!』ではじめてひつじのショーンが登場するのだが、このときは羊らしい羊で、冠番組のような擬人化はされていない。いまみるとこの羊らしい『ひつじのショーン』に違和感すら感じる。
この『ウォレスとグルミット』シリーズ。最近でもテレビで放送されたりしている。すっかりレストアされて、絵も音も別物のようにキレイに修正されている。でも、あれ?なんか違う。そうそうウォレスの声が違うのよ。主人公のウォレスは発明家のおじさん、相棒で愛犬のグルミットと冒険をするのがシリーズの流れ。このウォレスの声を欽ちゃんこと萩本欽一さんが演じていたの。最近の放送分からは津川雅彦さんにキャスト変更されてる。欽ちゃんは役者じゃないから、セリフとか聞き取りづらい。お芝居的にはプロの津川雅彦さんの方が達者なのだが、上手ければいいというものでもない。あの欽ちゃんの「グルーミット!!」と呼びつけるイヤなヤツっぽさが良かったのに、津川版ウォレスはすっかり優しいおじいさんになってしまった。
そもそもなんで欽ちゃんがおろされちゃったのだろう? もうおじいちゃんだから? でも欽ちゃん自身は全然バリバリの現役で、大学にも入学してしまうほど。欽ちゃんの話を聞くと、やっぱり天才肌。自分にとって最良の勉強法を独自に編み出して、どんどん吸収している印象。やっぱり日本の芸能界でトップクラスになるだけのことはある。
クレイアニメーションの『ウォレスとグルミット』。正直つまんないでしょと侮っていたら、『危機一髪!』なんてとても面白い。クライマックスのカーチェイスシーンなんて、どうやって撮ったのだろうという場面の連続。ものすごい手間隙と工夫が、一瞬の描写にかけられているのが感じ取られる。
どんなに技術が進歩しても、クレイアニメづくりの手間隙はそんなに時代に左右されないみたい。『ひつじのショーン』はテレビシリーズだが、一秒の動画を作る手間は『ウォレスとグルミット』時代と変わらない。ただ違うのは優秀なスタッフの人数が増えたことだろう。ブレインも職人も増えたアードマン。上質な細かい芝居に大人も子どももクスッとさせられる。いやむしろ大人の方が笑えるのだから、イギリス人のセンスの高さを見せつけられる。日本のアニメは、こんな人間の機微を描く細かい芝居をつけられる制作者はいないだろう。表現の面白さの追求になかなか進まないのが、日本のアニメの悪い特徴だったりする。ウチの子ども達は、圧倒的に日本のアニメより海外作品の方が好きだ。子どもは常に優秀な審美眼を持っている。
関連記事
-
-
『AKIRA』 ジャパニメーション黎明期
日本のアニメが凄いと世界に知らしめた エポックメーキング的作品『AKIRA』。 今更
-
-
『窓ぎわのトットちゃん』 他を思うとき自由になれる
黒柳徹子さんの自伝小説『窓ぎわのトットちゃん』がアニメ化されると聞いたとき、自分には地雷臭し
-
-
『WOOD JOB!』そして人生は続いていく
矢口史靖監督といえば、『ウォーターボーイズ』のような部活ものの作品や、『ハッピー
-
-
『私ときどきレッサーパンダ』 世間体という呪い
コロナ禍の影響でこの2年間、映画館への足がすっかり遠のいてしまった。上映作品も軒並み公開延期
-
-
『モアナと伝説の海』 ディズニーは民族も性別も超えて
ここ数年のディズニーアニメはノリに乗っている。公開する新作がどれも傑作で、興行的にも世界中で
-
-
『アンという名の少女』 戦慄の赤毛のアン
NetflixとカナダCBCで制作されたドラマシリーズ『アンという名の少女』が、NHKで放送
-
-
原作への愛を感じる『ドラえもん のび太の恐竜2006』
今年は『ドラえもん』映画化の 35周年だそうです。 3歳になる息子のお気
-
-
『あん』 労働のよろこびについて
この映画『あん』の予告編を初めて観たとき、なんの先入観もなくこのキレイな映像に、どんなストー
-
-
『銀河鉄道999』 永遠の命と拝金主義
『銀河鉄道999』は自分が小学生低学年の頃、 社会現象になるくらいの人気があった。
-
-
『東京ゴッドファーザーズ』地味な題材のウェルメイドアニメ
クリスマスも近いので、 ちなんだ映画をセレクト。 なんでもこの『東京ゴッ
- PREV
- 『くまのプーさん』ハチミツジャンキーとピンクの象
- NEXT
- 『はだしのゲン』残酷だから隠せばいいの?
