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『インサイド・ヘッド』むずかしいことをゆかいに!!

公開日: : 最終更新日:2020/03/28 アニメ, 映画:ア行

ピクサーの2015年作品『インサイド・ヘッド』。ものすごい脚本だな〜、と感心してしまう映画。脳科学が流行っているから、それをファンタジーとして描こうという、とても地味なテーマ。ライリーという11歳の女の子の頭の中で、様々な感情が会議して行動を決めているというお話。普通なら企画の段階で、「わけがわからない」と一蹴されてしまいそう。でも、ピクサーの過去の実績の信頼あってこそ、この映画は実現化できたのかも知れない。ピート・ドクター監督作品で、ピクサーでは常連の男性監督。でもとても女性的な感性が作品全体に漂っている。Blu-rayの特典映像で、やはり女性中心のスタッフ編成だったのがわかった。作っている人が男か女か、観ていると伝わるのは不思議だ。

11歳の少女の頭の中を描いた本作、シナリオ制作会議はさぞかし盛り上がったのではないかと想像できる。人間の脳の中を映像化する。原作は脳科学。野暮な描き方をすれば、理屈っぽかったり、感情達がホストであるライリーの行動をジャッジするだけの高見の見物にもなりかねない。ここでの感情はヨロコビとカナシミ、イカリとムカムカ、そしてビビリの5種類。脳の司令塔で5人(?)の感情達は、ライリーの外的内的問題に、どう対応していくか会議して、行動へと移す。チームリーダーはヨロコビ。『チーム・ハッピー』と自分たちを呼んでいる。そう、使命はライリーを幸せにすること。この5人(?)の感情達、ヨロコビ以外はみんなネガティブ感情じゃない? しかもカナシミはネガティブの極みとして描かれている。カナシミの存在理由は一体何?というのが物語のテーマ。一見ネガティブにみえるものも、重要な存在理由があるって。

ヨロコビとカナシミという相反する感情が、司令塔から放り出されます。司令塔へ戻る冒険の旅の途中、ビンボンという、ライリーの空想の友達に出会います。「空想の友達」、あわわヤバいヤバい。そんなのが頭の中にいると、実生活に弊害が起こりそう。しかも容姿のデザインはピンクの象。ピンクの象はディズニー映画では狂気の象徴。『ダンボ』が酔っぱらったときにピンクの象が踊ってた。『くまのプーさん』がハチミツがなくて禁断症状になったときもピンクの象の幻覚みてた。どうもピンクの象は厄介な存在だ。そんなキャラクターやギミックのすべてが、脳科学に基づいているので、面白おかしいアトラクション的な演出を楽しんでいるうちに、観客自身の頭のつくり、心のつくりが、すんなり理解できる。

子ども達にはさぞかし難しい内容かと思いきや、ウチの小さな子ども達は、ちゃんと内容を理解して楽しんでいた。これには本当に制作者の努力が伺える。子ども達は意外にもメインのキャラクター・ヨロコビにはあまり興味を示さなかった。ポジティブ全開、直球のキャラクターより、すこしクセのある他のキャラクターの方が魅力的だったみたい。映画の描き方も、ポジティブなヨロコビが突き進むと、なんだか息切れして疲れちゃうようにも感じさせている。

脳の司令塔のリーダーは、人によって千差万別。カナシミがリーダーだったり、イカリがリーダーだったりする。それがその人の性格の個性。アメリカの映画だから、ポジティブなヨロコビがメインになったのだろう。きっと日本人の国民性としてはカナシミの方がしっくりきそうだな〜と、映画を観て感じた。一見ネガティブにみえてしまう心癖だけど、カナシミも悪くないと思えてくる。脳科学は面白い!!

「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、ゆかいなことをあくまでゆかいに」とは作家の井上ひさしさんの有名な言葉。この映画はまさにこれを実践している。映画をみんなで鑑賞したあとで、各々の脳の司令塔のリーダーは誰なのか、話し合うのも面白いかも。

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