『ヒミズ』 闇のスパイラルは想像力で打開せよ!

園子温監督作品の評判は、どこへ行っても聞かされる。自分も園子温監督の存在は『ぴあフィルムフェスティバル』で頭角を現し始めていた頃から知ってはいた。でも未だ彼の作品を一本も観たことがない。縁がないというのもあるが、自分からあえて避けていたようなところがある。どんなにみんなが良いと言っていても、彼の作風である殺伐な怖い雰囲気は、立ち入らない方が身のためだと直感していた。作品に負けて、自分が病気になりそうな感じ。
最近の国内完結型のマーケットの日本映画はどうでもいいけど、世界で評価されている作品には興味が湧く。この『ヒミズ』は、海外で先行公開されて、翌年に日本公開。海外での活動に主力を置いている。雑誌『映画芸術』ではその年のワースト2に選ばれ、『ヴェネツィア国際映画祭』では主演の染谷将太さんと二階堂ふみさんは新人賞のマルチェロ・マストロヤンニ賞を獲得している。まさに賛否両論。癖のある映画なのは確かだ。
東日本大震災の世界を描いたというのがとても興味深かった。震災が2011年で、その年にはこの映画は完成しているので、題材としてはまだ火がくすぶっている混沌とした時のものだ。
観てみてやっぱり怖い作品なのは冒頭からわかる。津波にあった街並みから映画は始まる。今でこそすっかり後片付けされて、平地となってしまった地域。今では撮りたくても取れない映像だ。
映画は息がつまるようなイヤな場面の連続だ。登場人物たちは冷静な精神状態の者は一人もいない。壊れているか壊れる寸前の人々ばかり。主人公たちの学校の先生も「みんなは明日の日本を担う『世界に一つだけの花』なんだ〜」と、SMAPの振り付きで毎日授業で語ってる。偽善臭プンプン。教師自身も現状を咀嚼できていない。怖くて仕方がないのだ。そんな大人、思春期の子どもたちから舐められるのは当然だ。かつて自分も抱いていた大人への不信感。ティーンエイジャー独特の尖った感覚を、生々しく捉えている園子温監督の感性はさすがだ。
この原作漫画は東日本大震災とは関係ないらしい。ただただディズトピアな狂った人たちの世界というだけなのだろう。そうなるとただの反社会的な映画にしかならない。人々が壊れてしまったのは、震災という個人ではどうしようもない事態に飲み込まれてしまったから。ただ狂人による犯罪映画では、荒んだ感性しか食いつかない。震災という未曾有の事態が、反社会的な物語を社会派の物語に変えていく。世界の人々は、今日本で何が起こっているのかを知りたいのだ。
映画公開時は、こんなディストピアな日本は、ファンタジーの世界だけだとたかをくくっていただろう。しかし震災から数年が経ち、未だに復興の目処もたたず、あいも変わらず原発の再稼働も進められている。フィクションが描いた最悪の事態が、2018年の現在では現実のものとなっている。
映画『ヒミズ』の中では、通り魔事件が異常多発している。実際はそんなことないと思いがちだが、最近では普段街を歩いているだけで、異常な殺気を放って歩いている人に出くわすことも多くなってきた。彼らが一線を越えないのは、たまたまだったのかもしれない。何かきっかけがあれば暴走しかねない危機。その隣を無防備な家族づれや学生が通り過ぎたりしてる。崖っぷちは案外背中合わせのすぐそばにあったりする。
自暴自棄になった主人公が、自分の命をせめて正しいことに使いたい。悪者を殺して社会のためになってから死にたいと願う。こんなくだりがなんだか今のスーパーヒーロー映画ブームにつながった。先日の南北朝鮮戦争の終結は、久々にハッピーなニュースだった。それでも世界中には長く続く不景気やキナ臭い話。日本では労働問題も深刻。どんなに頑張っても、未来がみえにくい世の中。自分一人の力ではもうどうすることもできない。超人的な力を持ち、正義のために尽くし、それが叶っていくことへの願望。アメコミブームは懐古主義なのものではなく、閉塞的な現代人の悲鳴に近いものなのかもしれない。
親にきちんと愛してもらえない不幸な主人公たち。この若い恋人たちは、絶望的な世界でささやかな幸せの姿を想像していく。暗く重く怖いことばかりの映画の中で、唯一救いのある場面だ。未来を想像する力、自分はこうなりたいとイメージして生きることで、もしかしたらこの負のスパイラルから抜け出せるかもしれない。
以前テレビの反社会的集団を担当した刑事のドキュメンタリーでその人が言っていた。「少しでも親に愛されていると実感した人ならば、絶対に反社会的な集団には入っていかない。どこかで踏ん張れる。愛されない子どもをなくすことが治安を良くするいちばんの近道だ」
この映画『ヒミズ』では、大人たちが若者の未来のために犠牲になろうとする。でも老人だって夢を見てもいいはず。自分がハッピーな姿を若者に示してゆける。そんな輝いている人生の先輩たちの背中を見て、若者たちも「生きること」への夢が見られる。それは理想論なのだろうか。
ついこの前までは、底辺の暮らしをする荒んだ人々が描かれるなど、現代が舞台の日本映画ではありえないように思えていた。このようなテーマの映画は、時代モノや発展途上国の社会派作品のイメージだった。残念ながら2018年の現代日本では、この『ヒミズ』はファンタジーでもなんでもなく、リアリティのある物語だ。だからこそこの映画が怖いのだ。映画製作時の2011年からすると、悪い方への未来予測が当たってしまったことになる。日本はこれからどこへ向かうのだろうか。
園子温監督の映画はやっぱり疲れる。パンチが効き過ぎてダメージが強い。体調がいい時に観ないとヤバいことになる。関わったスタッフ・キャストは、無事現世に戻ってこれたのかしら? かなりの劇薬映画だ。その効能は良いものなのか悪いものなのかさっぱりわからない。マジでエグい映画だぞ。
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