『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!
『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自分はオリジナルの『ビートルジュース』を観ていたかどうか覚えておらず、なんだか記憶が怪しい。公開から36年も経つのだから仕方ない。いや、もしかしたらアルツハイマーの前兆か? 続編新作の『ビートルジュース ビートルジュース』にはウィノナ・ライダーが出演する。ウィノナ・ライダーはティム・バートン監督作品では常連のイメージ。でも自分は前作の『ビートルジュース』にウィノナ・ライダーがどんな役で出演していたかどうかも覚えていない。記憶があやふやなので、オリジナルの『ビートルジュース』を観てみることにした。
『ビートルジュース』が公開されたのは1988年。自分もまだ10代。ティム・バートン作品は『バットマン』くらいから、ちゃんと監督として意識して観始めた。マイケル・キートンが演じるビートルジュースのキャラの濃さが、生理的にムカつく。それで避けていたのかもしれない。とはいえ同監督同主演の『バットマン』が好きだった自分が、その制作コンビの前作『ビートルジュース』を無視するはずもない。10代は人生でもっとも映画を観ていた時期だ。
映画を観始めると、記憶がどんどん蘇ってくる。自分はかつて『ビートルジュース』を観ていた。そのとき、映画そのものは覚えていなかったものの、主演のウィノナ・ライダーがめちゃくちゃ可愛かったことだけは覚えていた。この『ビートルジュース』は、ティム・バートン監督だけでなく、ウィノナ・ライダーにとっても出世作でもある。大人になったウィノナ・ライダーのイメージしかない自分は、この10代半ばの彼女のビジュアルにインパクトを受けた。まだ子どもじゃないか!
自分はウィノナ・ライダーと同世代。90年代のサブカル男子は、ウィノナ・ライダー派かブリジット・フォンダ派に大きく分かれていた感がある。オタク男子は圧倒的にウィノナ・ライダーが好きで、自分もその部類だった。ブリジット・フォンダが好きというのは、男子よりも女子が多かったような気がする。まあ、どっちも似たような可愛い系女子なのだが。
『ビートルジュース』のウィノナ・ライダーは10代半ば。それが36年の月日を経て、ウィノナも自分もすっかり歳をとってしまった。あの頃自分も若かったのだと、時の流れの速さを実感する。レストア技術で、新作のようにきれいな画面になった『ビートルジュース』。いきなりタイムスリップしたような不気味な感覚がしてきた。
ティム・バートンは、なんで36年も経ってから『ビートルジュース』の新作をつくろうと思ったのだろう。ハリウッドにネタがなくなって、過去の有名作のブランドにすがっているのは大きいが、理由はそれだけではなさそう。ティム・バートンの近作『ウェンズデー』で、ジェナ・オルテガとの出会いが、『ビートルジュース』続編企画のきっかけとなったとのこと。『ビートルジュース』は、ウィノナ・ライダー愛が、画面がひしひしと伝わってくる。「数年おきにミューズとの出会いがあるから驚きだよね」なんて、ティム・バートンが言っていそうでキモい。
ジェナ・オルテガはティム・バートンのタイプなのがわかる。元奥さんのヘレナ・ボナム=カーターもジェナ・オルテガと同じ「ケッ」と世間を斜に構えたような顔をしている。というよりヘレナ・ボナム=カーターとはいつの間にか別れていたのね。今のティム・バートンのパートナーは新作『ビートルジュース ビートルジュース』にも出演しているモニカ・ベルッチ。ティム・バートンは不機嫌そうな女性が好みらしい。そうなると単純にお人好しそうなウィノナ・ライダーは、ティム・バートンの本命ではなかったのかもしれない。ただウィノナの一般ウケするルックスが、『ビートルジュース』の成功につながったのは確か。ゴシック趣味全開のマニアックな世界観を、誰もが楽しめるエンターテイメント作品に引き上げたのは、このキャスティングあってのこと。
『ビートルジュース』を観直してみて、なぜ観たかどうか忘れてしまったのか理解した。この映画、あまりにも内容がなさすぎて記憶に残らない。タイトルになっている、主人公のはずのビートルジュースも、ほとんど登場しない。そもそも登場人物たちが何をしたいのか、動機がよくわからない。受難劇なのか攻撃的な争いの話なのかすらよく掴めない。
ファンタジー映画は、今でこそ山のように制作されていて、むしろすっかり手垢がついたジャンルになってしまった。1988年当時は、ここまでゴシック趣味全開のコメディ映画なんてほとんど無かった。美意識の高いゴシックが、本格的に劇映画で取り入れられた。『ビートルジュース』は、ひとつのジャンルの先駆的な作品。ティム・バートンというアーティストの個人的な趣味嗜好が、そのままハリウッド映画に昇華する。なんとも実験的な試み。そんなアーティスティックなエンターテイメントがつくれるなんて、ハリウッドもかつては寛大だった。きっとティム・バートンという人が、かなりの天才肌で、この人に任せたら面白いかもとなったのだろう。
ウィノナ・ライダーが演じるリディアは、ゴシックファッションに身を包む少女。今で言うなら地雷系女子。個性的なファッションの人は、自身も個性的だったり、個性的に見せようと意識している。リディアのゴシックファッションはかわいいけれど、前髪のギザギザはイヤだな。当時の自分は不満に思っていた。でもあの前髪は『フランケンシュタインの怪物』へのオマージュ。こだわりすぎて変になってしまっている。でもまあコメディだからそれも許せる。ただ肝心なリディアの性格がよくわからない。これだけファッションがとんがっているのだから、性格にもクセがありそうなもの。なのにリディアは素直でいい子。反抗的な感じもない。登場人物の性格描写には、あの頃にはまだ限界があった。
今のエンターテイメント作品は、きちんと心理学や脳科学も取り入れて登場人物の性格づくりをしている。現代の視点で『ビートルジュース』を観てしまうと、なんとも物足りない。いや、当時だって物足りなかった。だから観たかどうかもわからなくなってしまうのだ。『ビートルジュース』は美術を楽しむ映画。ここまでしっかりとした美意識の高い映画なのだから、内容なんて薄っぺらくてもいい。でもやっぱり観客はそれでは許してくれなかった。その後のファンタジー映画のあり方を示している。『ビートルジュース』はそのさきがけ。
今度の『ビートルジュース』は、母親になったリディアに娘役のジェナ・オルテガが加わっていく。リディアの母親役のキャサリン・オハラも続投する。前作から36年後に同じキャストで三世代揃う。なんとも感慨深い。前作と新作を続けて観れば、一瞬にしてタイムトラベルできてしまう。時の経つのは本当に怖い。歳をとるということの非現実性。つくり手が意図しない形で怖い映画になってきた。
オリジナルの『ビートルジュース』は、現代のエンタメ映画に比べたら、お世辞にも観やすい映画ではない。けれどもエンターテイメント映画では、いまだに語り継がれる作品でもある。当時の予告編はめちゃくちゃ面白そうだったので印象に残ったのかもしれない。当時は宣伝がうまかった。有名なタイトルばかりがブランド化して、勝手に一人歩きしてしまった感は否めない。映画からは、ティム・バートンの他人に興味のない感じが全編から伝わってくる。そのサイコパスさも今となっては微笑ましい。人には興味はないけれど、絵づくりには細心の注意が行き届いている。その絵づくりの端々から、のちの作品のあの場面、この場面の原点みたいなとのを感じ取れる。作家は一生かけて、初めてつくった作品の焼き直しをつくり続けるという。『ビートルジュース』はティム・バートンの監督第1作目ではないけれど、頭角を表すきっかけになった作品ではある。そういった意味では、『ビートルジュース』は、ティム・バートンの要素がすべて詰まっている映画。ティム・バートンという作家がどんな人なのか? それを知る手引きになる作品なのかもしれない。
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