*

『コクリコ坂から』 横浜はファンタジーの入口

公開日: : 最終更新日:2021/06/05 アニメ, ドラマ, 映画:カ行,

横浜、とても魅力的な場所。都心からも交通が便利で、横浜駅はともかく桜木町へでてしまえば、開放的で大気には潮の香りで満ちている。今の季節だとちょっと熱いが、いつも気持ちのいい風が吹いている。広々としていても決して田舎ではなく、都心のものがすべて手に入る。とても自分は好きな街。いつか住み移りたいと本気で思っています。

この横浜、多くのクリエーターにインスピレーションを与えるべく、横浜ソングも多いし、横浜を舞台にした映画やドラマ、アニメ作品も数多に存在する。今ならNHK朝の連続テレビ小説『まれ』の舞台にもなっている。中華街もあるし、みなとみらいはSF未来都市っぽいし、なにか雑多な文化が混じって予想外の化学反応が起こりそうなワクワク感があるのかもしれない。

宮崎吾朗監督の劇場長編第二作にあたる『コクリコ坂から』も横浜が舞台のアニメ。時代は遡り、前の東京オリンピックを翌年に控えた高度成長期。戦争の傷跡も残しながら、日本が活気だっていた時代。あの頃は良かった的な懐古主義がジブリ作品のちょっとはなにつくところだが、たしかに2020年の東京オリンピックを目前にした今の日本は、あの頃に比べたら元気がないだろう。世の中長い不景気が続いていたけど、この頃ようやっと緩やかに景気が回復しつつある雰囲気がしてきたかも。それでも元気がない日本。

ここでの高校生たちはみんなおやじっぽくて、おやじってやっぱり若い頃からおやじだったのがよくわかる。当時を知る人に聞いたら、あの雰囲気は大学生のもので、高校生はもう少しおとなしい存在だったとのこと。学校に談判デモしたりと、高校生にしては行動力がありすぎるらしい。

『コクリコ坂から』のコクリコとは、フランス語でヒナゲシのこと。主人公の海ちゃんも仲間から『メル』と呼ばれている。公開当時、海ちゃんなのに『メル』って呼んでて意味が分からないと怒っている人がいたので、『メル』はフランス語で『海』のことだと教えたら、「なにを気取って!」と呆れておりました。どうやら作者はフランスがお好きならしい。

映画は朝ごはんを作るところから始まり、大団円は大掃除して終わるという究極の家事映画。海ちゃんが好きになった彼と父親が同じかもという展開は韓流ドラマの如し。海ちゃんの死んだ父親が『雄一郎』と自分と同じ名前。幼稚園だった娘が自分のパパと同じ名前のお父さんが亡くなって、健気に家事をしている海ちゃんをすごいと思い、同時にショックを受けていました。それにしても海ちゃんの家、海ちゃん以外の人はろくに家事をやらない。どうして彼女はここまでひとりで背負い込むのか?

活気のある時代を描いていても、映画は終始日常的な家事を描く。ドラマチックなことが起こらない静かな映画。静かに家事という生活に密着した足元を見つめなおしたいという現代人の願望かもしれない。

横浜という関東では異質な魅力を持つ街。都会にも関わらず、100年前から時間が止まったままのような場所もある不思議な街。
静かに生活を見直したいファンタジーの道具として、さまざまな作品に機能しているのかもしれない。

関連記事

no image

さよならロビン・ウィリアムズ = ジーニー『アラジン』

  ロビン・ウィリアムズが 8月11日に亡くなったそうです。 彼の作品には名

記事を読む

no image

『きゃりーぱみゅぱみゅ』という国際現象

  泣く子も黙るきゃりーぱみゅぱみゅさん。 ウチの子も大好き。 先日発売され

記事を読む

『モアナと伝説の海』 ディズニーは民族も性別も超えて

ここ数年のディズニーアニメはノリに乗っている。公開する新作がどれも傑作で、興行的にも世界中で

記事を読む

『THE FIRST SLAM DUNK』 人と協調し合える自立

話題のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』をやっと観た。久しぶりに映画館での

記事を読む

『ホドロフスキーのDUNE』 伝説の穴

アレハンドロ・ホドロフスキー監督がSF小説の『DUNE 砂の惑星』の映画化に失敗したというの

記事を読む

『博士と彼女のセオリー』 介護と育児のワンオペ地獄の恐怖

先日3月14日、スティーヴン・ホーキング博士が亡くなった。ホーキング博士といえば『ホーキング

記事を読む

no image

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』集え、 哀しい目をしたオヤジたち!!

  『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』はマーベル・ユニバースの最新作。『アベン

記事を読む

no image

社会風刺が効いてる『グエムル ー漢江の怪物ー』

  韓国でまたMERSが猛威を振るっていると日々の報道で伝わってきます。このMERS

記事を読む

『天気の子』 祝福されない子どもたち

実は自分は晴れ男。大事な用事がある日は、たいてい晴れる。天気予報が雨だとしても、自分が外出し

記事を読む

『アンブロークン 不屈の男』 昔の日本のアニメをみるような戦争映画

ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが監督する戦争映画『アンブロークン』。日本公開前に、

記事を読む

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

『大長編 タローマン 万博大爆発』 脳がバグる本気の厨二病悪夢

『タローマン』の映画を観に行ってしまった。そもそも『タローマン

『cocoon』 くだらなくてかわいくてきれいなもの

自分は電子音楽が好き。最近では牛尾憲輔さんの音楽をよく聴いてい

→もっと見る

PAGE TOP ↑