『コクリコ坂から』 横浜はファンタジーの入口

横浜、とても魅力的な場所。都心からも交通が便利で、横浜駅はともかく桜木町へでてしまえば、開放的で大気には潮の香りで満ちている。今の季節だとちょっと熱いが、いつも気持ちのいい風が吹いている。広々としていても決して田舎ではなく、都心のものがすべて手に入る。とても自分は好きな街。いつか住み移りたいと本気で思っています。
この横浜、多くのクリエーターにインスピレーションを与えるべく、横浜ソングも多いし、横浜を舞台にした映画やドラマ、アニメ作品も数多に存在する。今ならNHK朝の連続テレビ小説『まれ』の舞台にもなっている。中華街もあるし、みなとみらいはSF未来都市っぽいし、なにか雑多な文化が混じって予想外の化学反応が起こりそうなワクワク感があるのかもしれない。
宮崎吾朗監督の劇場長編第二作にあたる『コクリコ坂から』も横浜が舞台のアニメ。時代は遡り、前の東京オリンピックを翌年に控えた高度成長期。戦争の傷跡も残しながら、日本が活気だっていた時代。あの頃は良かった的な懐古主義がジブリ作品のちょっとはなにつくところだが、たしかに2020年の東京オリンピックを目前にした今の日本は、あの頃に比べたら元気がないだろう。世の中長い不景気が続いていたけど、この頃ようやっと緩やかに景気が回復しつつある雰囲気がしてきたかも。それでも元気がない日本。
ここでの高校生たちはみんなおやじっぽくて、おやじってやっぱり若い頃からおやじだったのがよくわかる。当時を知る人に聞いたら、あの雰囲気は大学生のもので、高校生はもう少しおとなしい存在だったとのこと。学校に談判デモしたりと、高校生にしては行動力がありすぎるらしい。
『コクリコ坂から』のコクリコとは、フランス語でヒナゲシのこと。主人公の海ちゃんも仲間から『メル』と呼ばれている。公開当時、海ちゃんなのに『メル』って呼んでて意味が分からないと怒っている人がいたので、『メル』はフランス語で『海』のことだと教えたら、「なにを気取って!」と呆れておりました。どうやら作者はフランスがお好きならしい。
映画は朝ごはんを作るところから始まり、大団円は大掃除して終わるという究極の家事映画。海ちゃんが好きになった彼と父親が同じかもという展開は韓流ドラマの如し。海ちゃんの死んだ父親が『雄一郎』と自分と同じ名前。幼稚園だった娘が自分のパパと同じ名前のお父さんが亡くなって、健気に家事をしている海ちゃんをすごいと思い、同時にショックを受けていました。それにしても海ちゃんの家、海ちゃん以外の人はろくに家事をやらない。どうして彼女はここまでひとりで背負い込むのか?
活気のある時代を描いていても、映画は終始日常的な家事を描く。ドラマチックなことが起こらない静かな映画。静かに家事という生活に密着した足元を見つめなおしたいという現代人の願望かもしれない。
横浜という関東では異質な魅力を持つ街。都会にも関わらず、100年前から時間が止まったままのような場所もある不思議な街。
静かに生活を見直したいファンタジーの道具として、さまざまな作品に機能しているのかもしれない。
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