*

トップアイドルだからこそこの生活感!!『もらとりあむタマ子』

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:マ行

 

ダメ男というのは笑えるが、ダメ女というのはなかなか笑えない。それは世間一般の潜在意識の中に「女の人はきちんとしている。きちんとしていなければ」というような固定観念があるからではないだろうか?

山下敦弘監督と前田敦子さん主演という、『苦役列車』のコンビ再びのこの映画。なんでも当初は映画化する予定ではない映像コンテンツだったこの企画が、長編映画へとなっていったのだ。

前田敦子さんといえば元AKB48のセンターを勤めたトップアイドル。自分はこのアイドル文化や萌え文化が理解できずにいるので、とうぜんAKBにも疎い。山下敦弘監督といえば単館系映画の監督さんと言うイメージが強い。当初は硬派な作風だったけど『リンダリンダリンダ』あたりから、女の子を可愛く撮れる監督さんと言うイメージになっていった。しかも単館系というスタイルはそのままなので、アイドル映画のようなダサい感じには決してならない。この映画もトップアイドル主演にしてはひっそりと公開された。

自分は正直AKBの女の子達があんまり可愛いと思えない。とても普通っぽくて、創られた女の子像を演じて、オッサン達にヒャーヒャー言われている、発信者と受信者の偶像崇拝的なものを感じてしまって、どこにも本物が無い感じが苦手。

でも、この映画の前田敦子さんはとても魅力的。職を無くして、実家に転がり込んで、一日中マンガを読んだりゲームをしたりしてダラダラ過ごしてる。実はこういった生活感ある姿の前田敦子さんの方が、自分が彼女に抱いていたイメージそのまま。親近感が湧く。

ただ、この映画がうまくいっているのは、前田敦子さんというアイドルの虚像を演じ切ったパーソナリティだったからこそ。普通の女の子がノーメイクで寝癖のままでダラダラしていても、なんとなくそのままで笑えない。

前田敦子さんは相当の映画好きと聞きます。本来ならメジャー系のアイドル映画に引っ張りだこであろうに、こういったインディーズ系の作品にもどんどん出てしまう。AKBファンは困惑するだろうけど、自分のような映画ファンの目にも留まっていく訳だから、作品選びのセンスはいいと思います。

この映画では前田敦子さん演じるタマ子は、一年中ダラダラと何もしていないのだが、お父さんは地道に働き者。流行っていなさそうなスポーツ店を経営しながら、家事もこなす。家で出される素朴な家庭料理がとても美味しそう。働かざるもの食うべからずとは言ったものの、映画に出てくるカレーライスやゴーヤーチャンプルとか健康そうな食べ物ばかり。良い食べ物は良い心を築く。

タマ子は丸一年ダラダラしていたけれど、大きな人生の中ではこのダラダラも必要。本来彼女はしっかりしていて、ひととき父親に甘えていただけという、大きな人生の流れでは短い期間。働かないでいるのは生ける屍であるが、この映画のようにゆっくり時間が流れていくひとときは、人生に何度かは必要なのだと思う。

関連記事

『マッシュル-MASHLE-』 無欲という最強兵器

音楽ユニットCreepy Nutsの存在を知ったのは家族に教えてもらってから。メンバーのDJ

記事を読む

no image

『みんなのいえ』家づくりも命がけ

  念願のマイホームを手に入れる。自分の土地を得て城を持つことを夢に描くのは、日本人

記事を読む

『窓ぎわのトットちゃん』 他を思うとき自由になれる

黒柳徹子さんの自伝小説『窓ぎわのトットちゃん』がアニメ化されると聞いたとき、自分には地雷臭し

記事を読む

no image

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』物語みたいに割り切れないこと

映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の評判は、劇場公開時からよく耳にしていた。ただ、どの感想を聞い

記事を読む

『ミッドナイト・イン・パリ』 隣の芝生、やっぱり気になる?

ウッディ・アレン監督が2011年に発表した『ミッドナイト・イン・パリ』。すっかりアメリカに嫌

記事を読む

no image

『マイティ・ソー バトルロイヤル』儲け主義時代を楽しむには?

ポップコーン・ムービーの王道、今ノリにノってるディズニー・マーベルの人気キャラクター・ソーの最新作『

記事を読む

『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』 はたして「それ」はやってくるか⁈

今年の夏の大目玉大作映画『ミッション:インポッシブル』の最新作『デッドレコニング PART

記事を読む

『マルホランド・ドライブ』 整理整頓された悪夢

映画監督のデヴィッド・リンチが亡くなった。自分が小学生の頃、この監督の出世作である『エレファ

記事を読む

no image

『名探偵ホームズ』ストーリー以外の魅力とは?

  最近、ジブリ作品が好きな自分の子どもと一緒に『名探偵ホームズ』を観た。 か

記事を読む

『魔女の宅急便』 魔法に頼らないということ

ウチの子どもたちも大好きなジブリアニメ『魔女の宅急便』。 実はウチの子たちはジブリアニ

記事を読む

『ナミビアの砂漠』 生きづらさ観察記

日曜日の朝にフジテレビで放送している番組『ボクらの時代』に俳優

『サタンタンゴ』 観客もそそのかす商業芸術の実験

今年2025年のノーベル文化賞をクラスナホルカイ・ラースローが

『教皇選挙』 わけがわからなくなってわかるもの

映画『教皇選挙』が日本でもヒットしていると、この映画が公開時に

『たかが世界の終わり』 さらに新しい恐るべき子ども

グザヴィエ・ドラン監督の名前は、よくクリエーターの中で名前が出

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

→もっと見る

PAGE TOP ↑