『6才のボクが、大人になるまで。』育児の恐れを緩和させる映画的時間旅行
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最終更新日:2019/06/13
映画:ラ行
『6才のボクが、大人になるまで。』と、邦題そのままの映画。6才の少年が18才になり、家を出ていくまでの12年間を、同じ役者で演じきる。12年の歳月は、子どもは成長し大人は老いるに充分な時間。今から12年後の自分や家族を想像するのは恐怖しかない。社会情勢も反映させた内容なので、もちろん推敲しながら撮影はしているだろうけど、この挑戦的な企画の脚本をいちばん最初にもらった役者たちは、12年後の自分を想像してどう思っただろう?
監督のリチャード・リンクレイターは、『ビフォア』シリーズでも同じ手法を使っている。このシリーズは、イーサン・ホークとジュリー・デルピーを主演に、同じ役を数年後に間を空けて撮影している。お互いの状況の変化を語り合う映画。実際の役者の人生も反映してくる実験的な試み。一作目の『恋人までの距離』のときは、若くてピチピチしていた主演の二人も、2013年の『ビフォア・ミッドナイト』では、もはや中年。時の流れは残酷。自分は彼らと同年代なので感慨深いものがある。
この『6才のボクが、大人になるまで。』でも、同じくイーサン・ホークが少年の父親役で出演している。何でもリンクレイター監督は、撮影期間中、自分に何かあったら、監督をイーサンに引き継いで欲しいと頼んでいたとか。まさにライフワーク。この映画の主人公は、時間そのものなのかも知れない。「何年後」とテロップを出す必要もなく、子どもたちの成長した姿が、時間経過を物語っている。
12年もあると家族にいろいろなことが起こる。面白いのは、6才の少年メイソンの両親は最初から離婚していること。パトリシア・アークエット演じる母親は、シングルマザーで家族を養うことはできないと、手に職をつけるため、早々に大学に通い始める。世の中をしっかり見据えた、ガッツのある母親。魅力的な彼女は何度か再婚をする。結婚後発覚するのは、その誰もがアル中だってこと。再婚相手は裕福な大学教授だったり、イラク戦争の元帰還兵だったりする。タイプは違えども、かたやストレス、かたやPTSDと、彼らの職業が彼らを病に至らせている。皆、志が高かったのに、この顛末は皮肉だ。メイソンは自分も飲酒するくせに、実父が酔っていると悲しそうな顔をする。継父たちのアル中の原因は酒ではないのはわかっているのに、なんだかこの映画を観てから自分もすっかり酒がまずくなってしまった。
イーサン・ホーク演じる実父は、最後まで何をやって生計を立てているのかナゾ。時にはオバマ支持の政治活動もしていたりする。映画でその時代を再現することは可能だが、あの時期本当に撮影されていたという空気感は、ドキュメンタリーに近い説得力がある。映画はその時代の雰囲気を後世に伝える記録としての機能も備えている。
実父の再婚相手の家は敬虔なクリスチャン。義父は銃愛好家。保守的な感じ。例えば家族に極端な思想やラディカルな人がいたらかなり厄介だけど、ちょっと離れたところにそんな人がいたら、問題意識が高まる刺激になるかも知れない。まあ、感化されて極端な人に育ってしまう危険性もあるけど。
そんな環境もあってか、息子のメイソンは、アート写真家の道を選んでいく。どうやら才能はあるみたい。こんなエキセントリックな両親だから、あまりその職業選択にとやかく言うことはない。でもこの道は苦労しか想像できない。もし自分が親で、子どもがアーティスティックな職業に就きたいと言ったらどうするだろう? 自分の失敗も含め、即反対してしまうと思う。でもそれではいけない。反対するようなつまらないことは言わずに、後押ししてあげないとダメなんだろうな。もし自分の失敗に意味があるのなら、そうやって活用すべきなのかも知れない。親と同じ轍を踏まないように。
「自分の人生の5年後10年後を想像しろ」という言葉は、ビジネス書っぽくてあまり好きではないが、きちんと人生をイメージしながら生きていくのは大切なことだ。淡々と時間経過を描いている映画だからこそ、自身の人生と向き合うきっかけを与えてくれる。
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