『STAND BY ME ドラえもん』 大人は感動、子どもには不要な哀しみ?

映画『STAND BY ME ドラえもん』を
5歳になる娘と一緒に観に行きました。
ドラえもん初の3DCG作品であり、
原作のチョイスも感動編や恋愛編などの
評判が良かったものばかりなので、
「あざといな~」と思いながらも、
楽しみにしておりました。
原作の『さようならドラえもん』の部分、
ドラえもんが未来へ帰るくだりでは、
親子共々号泣。
ただ自分と娘の涙の意味は
明らかに違っていました。
映画終了後も娘はずっと泣いていて、
終止ベタベタ抱きついていました。
ちょっとしたトラウマになったのでは?
子どもの心は
ポジティブでしかできていません。
いまポジティブ真っ盛りの子どもに、
子ども時代のメタファーである
ドラえもんとの別れは不必要。
子ども時代に、
いつか子ども時代を
卒業することを考える必要は
まったくありません。
この作品は、
かつて『ドラえもん』を観て、
いまだに大人になれない大人に向けて
作られたメッセージ。
原作のドラえもんは、
ダメダメなのび太くんが
ドラえもんやひみつ道具に頼って、
ズルをしようとして
かえってヒドい目に遭う
という展開が殆どです。
時々、大人になったのび太や、
感動的な物語、
恋愛にまつわる物語が
あったりします。
ちょっと路線が違うエピソードです。
大人になると、
この路線と違うエピソードが
読み直したくなるのです。
自分が大人になったから、
大人になったのび太くんが気になる。
運命は変えられる。
君自身が動いたから成長できた。
原作からアレンジされたのは、
のび太くんの成長。
大人になったのび太くんは
相変わらず情けないけど、
どこかしっかりして、
たくましいところがある。
実はしずかちゃんに自分から
プロポーズしていたりもする。
子どもののび太くんが
大人ののび太くんに、
ドラえもんに会わせるよと提案します。
「ドラえもんか。懐かしいな。でもいいや」
子ども時代をすでに
卒業しているのび太くん。
日本のエンターテイメントは
泣けることが良作であると
勘違いしている風潮があります。
悲しい物語は、
悲しい経験をした人には
観たくもないでしょう。
悲劇をお金を払ってまでも
観たがるとはなんと平和な国民性。
こんな時代だからこそ
本当に必要なのは喜劇のはず。
悲劇が好きというのは、
自分の人生と立ち向かっていないのでは?
とまで疑ってしまう。
藤子・F・ 不二雄氏は
『さようならドラえもん』
を発表してすぐに
『かえってきたドラえもん』を
書いています。
妻は4歳の時、字も読めないのに
この『さよならドラえもん』を読んで、
号泣して大騒ぎしたそうです。
そんなですから、
きっとものすごい反響があったのでしょう。
その反響は藤子・F氏を傷つけもし、
勇気づけもしたと思います。
『ドラえもん』の連載再開のハラが決まり、
それ以降、ドラえもんがのび太の元を
去る話は一切なかったと思います。
ドラえもんは永遠に
子どもの頃の心の象徴。
でも、大人の年齢になったら、
きちんとその「子ども心」とは
ケリをつけなければいけませんね。
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