*

『台風クラブ』制服に封じ込まれたもの

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:タ行

このたびの台風により、被害を受けられた皆様に心からお見舞い申し上げます。

台風18号が東日本に猛威を振るった9月9日は相米慎二監督の命日でもあった。相米慎二と台風……、『台風クラブ』!! 自分はその頃まだ映画監督の名前で映画を観ることのなかった中学生の頃、同年代の中学生が登場する『台風クラブ』をテレビの放送で初めて観た。相米慎二監督作品では、薬師丸ひろ子さんの「カイカン」で有名な『セーラー服と機関銃』とか、『うる星やつら/オンリー・ユー』の併映だった『ションベン・ライダー』を観ていたので、無意識のうちに相米作品は観ていたことになる。相米慎二監督の映画が今の規制の多い日本で、地上波放送は難しいかもしれない。

相米慎二監督といえば、カット割をしないで長回しのロングショットで延々ワンシーンを撮る演出が有名。緊張感や臨場感を伝えるスタイル。この作風は終始一貫していた。昨今の映画の役者の顔のアップばかりの映像に慣れてしまった目には、あらためて新鮮な感じすらする。

映画は台風で学校に閉じ込められた中学生達が、台風のように思いを開放、爆発させていくというもの。当時中学生だった自分には、どうも感情移入ができない「大人っぽい世界」だった。そもそも中学生が登場人物の設定でも、実際の中学生が演じているわけではなく、何歳か年上のお兄さんお姉さんが中学生を演じているし、大人目線で描かれた中学生の世界は、リアルタイムの中学生には達観しすぎていて、よくわからないものだった。この頃の1〜2歳年上はかなり大きな差がある。そもそもその頃の自分は、何も考えず何もこだわりがなかったので、「こんなものなのかな〜」とファンタジーを観るような感覚だった。岩井俊二監督作品や『おおかみこどもの雨と雪』など、後の日本の青春映画に多大に影響をあたえている。

キレやすい学生という言葉が生まれる前のこの映画。10代といえばきらびやかな記憶というよりも、鬱屈した灰色の時期という印象しかない。思春期はその暗い自分と真っ向から向き合うか、目をそらすくらいかが個性で、人生でいちばんつまらない時期なのではと思ってしまう。その灰色の記憶を刷新するために青春映画は存在しているのかと感じてしまうのです。昨今のただただ明るく軽い日本の青春作品は、現実逃避の現れなのではないのかと邪推してしまう。そもそも10代は心も体も形成される大事なとき。その大切な時期を制服で閉じ込めて、みんな同じに統制しようとするから、うっぷんも出てくるのでしょう。

日本社会はとくに飛び抜けた個性を嫌います。それが天才的な才能で、世の中を良くするかも知れない能力であったとしても、新しいものを嫌い、封じ込めようとする性質があります。大人が理解できないことを子どもがしでかすことへの脅威。それを規則で封じ込める。でもそれでは天才は生まれない。この恐怖をを社会が乗り越えられたとき初めて社会が成長していくのかもしれません。

ホントは10代だからこそ色々経験を積まなければいけない時期なんだと思います。制服に封じ込めて、規則でがんじがらめにするのではなく。10代のうちに生涯の仕事を決めておかなければ、社会で役に立つまでの時間がかかりすぎる。大学を卒業する頃にやっと仕事を考えるなんて遅すぎると感じてしまうわけです。

 

関連記事

『東京オリンピック(1964年)』 壮大なお祭りと貧しさと

コロナ禍拡大の中、2020東京オリンピックが始まってしまった。自分としては、オリンピック自体

記事を読む

『チェブラーシカ』 哀愁の旧ソ連名残

なんでも5年ぶりに 新作が作られた『チェブラーシカ』。 こんどは本家ロシア産なのかな?

記事を読む

『TOMORROW 明日』 忘れがちな長崎のこと

本日8月9日は長崎の原爆の日。 とかく原爆といえば広島ばかりが とりざたされますが、

記事を読む

『ドゥ・ザ・ライト・シング』 映画の向こうにある現実

自分は『ドゥ・ザ・ライト・シング』をリアルタイムで映画館で観た世代。それまで人種差別問題は、

記事を読む

『ターミネーター2』 メジャーだって悪くない!!

今年の映画業界はビッグネームの続編やリメイク・リブート作で目白押し。離れてしまったかつての映

記事を読む

no image

『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は諸刃の刃

  ジェイムズ・キャメロン監督が放った愛すべきキャラクター『ターミネーター』。何度も

記事を読む

『TAR ター』 天才やらかしあるある

賛否両論話題となっている映画『ター』。世界的な最高の地位を得た天才指揮者リディア・ターの目を

記事を読む

『東京暮色』 生まれてきた命、生まれてこなかった命

第68回ベルリン国際映画祭で小津安二郎監督の『東京暮色』の4Kレストア版が上映された。小津作

記事を読む

『ツイスター』 エンタメが愛した数式

2024年の夏、前作から18年経ってシリーズ最新作『ツイスターズ』が発表された。そういえば前作の

記事を読む

『トップガン マーヴェリック』 マッチョを超えていけ

映画『トップガン』は自分にとってはとても思い出深い映画。映画好きになるきっかけになった作品。

記事を読む

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

『大長編 タローマン 万博大爆発』 脳がバグる本気の厨二病悪夢

『タローマン』の映画を観に行ってしまった。そもそも『タローマン

『cocoon』 くだらなくてかわいくてきれいなもの

自分は電子音楽が好き。最近では牛尾憲輔さんの音楽をよく聴いてい

『僕らの世界が交わるまで』 自分の正しいは誰のもの

SNSで話題になっていた『僕らの世界が交わるまで』。ハートウォ

→もっと見る

PAGE TOP ↑