*

『ダイナミック・ヴィーナス』暴力の中にあるもの

公開日: : 最終更新日:2019/06/20 アニメ, 映画:タ行

佐藤懐智監督と内田春菊さん

今日は友人でもある佐藤懐智監督の『ダイナミック・ヴィーナス』を紹介します。先日、佐藤懐智監督と漫画家であり作家の内田春菊さんのトークイベントにおじゃまさせて頂きました。演目は『DVって何なの?』。この『ダイナミック・ヴィーナス』はドメスティック・ヴァイオレンスを題材にした作品なのです。いじめられればいじめられるほど強くなるスーパーヒーローの話です。佐藤懐智監督はDVや暴力についてとことん調べた上での脚本執筆をしています。作中には近年日本で起こった事件もとりあげているのですが、本作の完成は2014年、今年までのこの一年の間に日本では更なる憂慮すべき問題が増えてきているのがとても残念です。

 

佐藤懐智監督曰く、「この作品は社会風刺なのだけれど、社会風刺というのはどちらかに偏った視点で描いてはいけない。批判するなら全部批判する。中立でなければ社会風刺ではなくなってしまう。もしどちらかに偏ったら、それはプロパガンダになってしまうから」。社会には風刺が必要だ。閉塞感の多い今の日本のような社会ならなおさら必要。この作品はとんがった内容ではあるのだけれど、物語の構造はものすごく基本に則っている。基本とは『起承転結』やら『序破急』、『ハリウッドスタイル』といった類いのもの。どんな物語であれ、この基本を元に構築されないと、観客は面白いと感じないのです。不思議なものです。もしその原則を破った作品を観ると、たいていわけがわからないものになってしまう。『ダイナミック・ヴィーナス』は一見エキセントリックに感じるけれども、これでもかというくらいきちんと物語や心理が描かれているのです。

この作品は欧米では多くの賞を獲得しました。海外では原発のことや秋葉原通り魔事件のこと、尖閣問題や北の某国のことはあまり知られていません。本来ならば「分からない国の分からない話」にもかかわらず評価されているとのことです。ちなみにアジアではことごとく受けが悪いそうです。デリケートな問題なのでしょうね。

人間が本来持っている暴力性がテーマの本作。あえて暴力描写をダイレクトに描くことで、世の中を風刺している。自分は、かなりまっとうな道徳的(?)な作品という印象を受けた。作者のまじめさが伺え、とても好感が持てます。批判の声はいつも細かいところを指摘してくるそうです。やれ「暴力描写が」とか「犬がかわいそう」とか。そこを描くからこそのテーマなのに。根本的にものごとを分析する能力の低さに愕然とします。

佐藤懐智監督はあえてアジテーションとしてと前置きしてこう語ります。「いまの日本の作品は、観客を甘えさせ過ぎなのではないだろうか? そういった企画しか通らないのも問題だ」。自分もこれには激しく同意します。作者が観客に「これわかるか?」と仕掛けて来たり、観客が作品を如何に深読みするかとかの駆け引きが、今の世の中なくなっている。制作側も観客側もナアナアでは、お互いの人生もめちゃくちゃな方向へ向かうことだろう。作品を創るということは、たとえ娯楽作品であっても創り手にはもっと高尚な志が必要なのだと常々感じる。佐藤懐智監督にはもっともっと、今の日本の作品らしからぬ作品を作って欲しい!!

ちなみに佐藤懐智監督の次回作は、社会風刺作ではなくて60年代フレンチムービー風の恋愛ものだそうです。そのまったく違ったアプローチにまた期待してしまうのです。

 

関連記事

no image

『007 スペクター』シリアスとギャグの狭間で

  評判の良かった『007 スペクター』をやっと観た。 前作『スカイフォール』

記事を読む

no image

『未来のミライ』真の主役は建物の不思議アニメ

日本のアニメは内省的で重い。「このアニメに人生を救われた」と語る若者が多いのは、いかに世の中が生きず

記事を読む

no image

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』アメコミみたいなアイツ

トム・クルーズが好きだ! 自分が映画を観るときに、監督で選ぶことはあっても、役者で決めることはほとん

記事を読む

no image

『ドクター・ストレンジ』アメコミとユダヤ人

流転の民族ユダヤ人は、どこの社会に行っても成功していくらしい。商売上手だったり、仕事ができるのはもち

記事を読む

no image

『パシフィック・リム』は日本サブカルの世界進出への架け橋となるか!?

  『ゴジラ』ハリウッドリメイク版や、 トム・クルーズ主演の 『オール・ユー・ニ

記事を読む

no image

『トゥモロー・ワールド』少子化未来の黙示録

  人類に子どもが一切生まれなくなった 近未来を描くSF作。 内線、テロ、人

記事を読む

no image

ある意味アグレッシブな子ども向け映画『河童のクゥと夏休み』

  アニメ映画『河童のクゥと夏休み』。 良い意味でクレイジーな子ども向けアニメ映画

記事を読む

no image

『おさるのジョージ』嗚呼、黄色い帽子のおじさん……。

  もうすぐ3歳になろうとするウチの息子は イヤイヤ期真っ最中。 なにをするにも

記事を読む

no image

『犬ヶ島』オシャレという煙に巻かれて

ウェス・アンダーソン監督の作品は、必ず興味を惹くのだけれど、鑑賞後は必ず疲労と倦怠感がのしかかってく

記事を読む

no image

『クラフトワーク』テクノはドイツ発祥、日本が広めた?

  ドイツのテクノグループ『クラフトワーク』が 先日幕張で行われた『ソニックマニア

記事を読む

no image
『スター・ウォーズ/スカイ・ウォーカーの夜明け』映画の終焉と未来

『スターウォーズ』が終わってしまった! シリーズ第1作が公開され

no image
『スカーレット』慣例をくつがえす慣例

NHK朝の連続テレビ小説『スカーレット』がめちゃくちゃおもしろい!

no image
『スター・ウォーズ・アイデンティティーズ』パートナーがいることの失敗

寺田倉庫で開催されている『スターウォーズ・アイデンティティーズ・ザ・エ

no image
『レディ・バード』先生だって不器用なひとりの人間

アメリカの独立系制作会社A24の『レディ・バード』。近年、評判のいいイ

no image
『365日のシンプルライフ』幸せな人生を送るための「モノ」

Eテレの『ドキュランドへようこそ』番組枠で、『365日のシンプルライフ

→もっと見る

PAGE TOP ↑