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『ドラゴンボール』元気玉の行方

公開日: : 最終更新日:2019/06/10 アニメ, 映画:タ行,

 

実は自分は最近まで『ドラゴンボール』をちゃんと観たことがなかった。

鳥山明さんの前作『Dr.スランプ』は、小学生のころ大好きでずっと読んでいた。画面の端々に『スターウォーズ』のストームトルーパーや、『エイリアン』が出てきて楽しかった。『Dr.スランプ』が終わって、新たに『ドラゴンボール』が始まった。でも自分もそろそろ中学生、もうマンガやアニメは卒業しようと決心した。

マンガやアニメの有害性は、その頃はまだハッキリとは言われていなかった。その時の自分の直感は正しかったみたいだが、残念ながら数年後にはまたアニメ映画を観始めてしまっていた。でも『ドラゴンボール』はすっかり乗り遅れて、観るのを諦めていた。

社会人になってからも、日常会話のなかで『ドラゴンボール』のワードはたまに耳にした。フリーザとかベジータって誰? スーパーサイヤ人って何? 疎外感は否めない。それがなんと、最近になって自分の子どもたちまでも『ドラゴンボール』を観始めてたのだ!

鳥山明さんの原作は既に終了しているが、テレビアニメの新たなシリーズは今だに続いている。設定もどんどん変わっているらしい。

ウチの奥さんも『ドラゴンボール』はリアルタイムで観ていた。中途半端に原作から離れた続編を観てもよくわからないだろうと、初期のシリーズから観直し始めたらしい。アニメなんてハシカみたいに、たとえハマったとしても早々に卒業すればいいと。

子どもの幼稚園で、男の先生が『ドラゴンボール』のぬりえを子どもたちに渡したら、みんなスーパーサイヤ人の髪の毛の色を赤や青に塗りだした。「スーパーサイヤ人の髪の色は黄色じゃないか? 今の子たちはなんて独創的なんだ」と、その男の先生は思ったらしい。先生は30代。まさにドラゴンボール世代。ぬりえの表紙を見たら、サイヤ人の髪が青い! 『ドラゴンボール超』という最新アニメシリーズのものだった。先生は「勉強不足でした!」と冗談で言っていた。そして息子とフュージョンのポーズをとってくれた。

自分はといえば、どんなに子どもたちが『ドラゴンボール』のアニメを観ていても、それを横目でみていた。とにかくストーリーの展開が恐ろしく遅い。二時間たっても、主人公と敵が荒野で睨み合ったまま。ベテラン声優さんたちの力技の演技で持たせている。ハリウッドのアクション映画に慣れ親しんでいる身では、アクビが出ちゃう。

当時、原作連載とアニメ放映が同時進行だったため、アニメが原作に追いつかないように内容を水増しして時間稼ぎしていたらしい。勝手にストーリーを作るわけにもいかないから、話がなかなか進まない。

エンターテイメント作品は、観客を楽しませるアイデアを、これでもかとふんだんに畳み掛けて作るもの。大人の事情の商業主義は非建設的。人気のある絵を、ただ垂れ流して観ていては、子どもの創造性も蝕まれてしまう。だからといって闇雲に規制するのもいけない。ひとつのジャンルに偏らず、さまざまな種類の作品に触れていくことが大切だ。創造力や審美眼はそうして育まれる。

ミスター・サタン。彼の存在が、自分を『ドラゴンボール』の世界に引き込むきっかけとなった。サタンは作品の後半に出てくるキャラクター。主人公の悟空は、素朴な性格だから愛着も湧く。けれど『ドラゴンボール』は、超人的なキャラクターばかり。八百万の神やギリシャ神話に近い。神話の神々は、人間が拠り所にする存在というより、もっと人間臭く、不貞も殺し合いもする。

サタンはそんな登場人物の中で、数少ない普通の人間。まともに超人的な他のキャラクターに立ち向かって勝てるわけがない。サブキャラなので、あっさり殺されちゃうかもしれない。サタンはピンチのたび、自分が生き残れるかだけでなく、いかに人びとに尊敬されるかを必死で考え、切り抜ける。とてもスリリングだ。買収されてイカサマ優勝ようとも、取り引きのその場で「アイム・ナンバーワン!」と叫ぶメンタルの強さ。この図太さは見習いたい。ミスター・サタンは懐かしい『Dr.スランプ』のペンギン村に居そうな人じゃないか!

自分は鳥山明さんの絵柄は大好きだ。『ドラゴンボール』初期のアメコミタッチもかわいいし、中盤からのハードなストーリー展開に合わせてバンド・デシネタッチになっていくのもいい。海外で受け入れられたのも頷ける。原作を読むと、アニメ版のようなダルさはなく、テンポよく次から次へと話が展開していく。濃密な情報量で畳み掛ける展開。原作とアニメは似て非なるものだ。

悟空がさっさと結婚して、パパになっちゃうのも爽快だ。ヒーローは所帯を持てないジンクスを簡単に壊してる。

それにしても『ドラゴンボール』に出てくる女性キャラはみんな強い。自分は萌えとか、男に媚びる女性像は不得手なので、鳥山さんとは趣味が合う。鳥山さんの構想では、描かれていない登場人物たちのラブストーリーもちゃんと考えているらしいが、恥ずかしくて描かなかったらしい。どんなに商業的な圧力がかかっても、恥も外聞もすべてなくしてはいけない。行間を読ませることも必要だ。そんなベタつかないドライなところが女性ファンも多い所以じゃなかろうか。

大団円で悟空は必殺技の元気玉という攻撃をしようとする。元気玉のエネルギーは地球に住む人々の力を借りなければ集まらない。地球のみんなに力を貸してくれと、ベジータが語りかけるが、誰も耳を貸さない。「自分には関係ない」とみなは言う。地球のために戦っている悟空とベジータの声が無視されていく。なんだかそれがあまりにも今の現実の日本に当てはまるのでゾッとした。このくだりを観ていた頃、ちょうど昨年の解散総選挙の真っ只中だった。

「自分には関係ない」と言っている人その人こそが、実は一番最初に被害を受ける事柄だったりする。無関心でいられても、無関係ではいられない。

「いつまで甘えてるんだ。お前らまた殺されたいのか!」ベジータの悲痛な叫びが響いている。元気玉には、まだエネルギーが集まっていない。

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