*

『CASSHERN』本心はしくじってないっしょ

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 アニメ, 映画:カ行, 音楽

 

先日、テレビ朝日の『しくじり先生』とい番組に紀里谷和明監督が出演していた。演題は『日本映画界から嫌われてしまった男』。この番組は一時期一世風靡したような人で、メディアから姿を消してしまった人が、自らの失敗談を語り、次のプロジェクトの告知をするような番組。したたかに次の作戦の宣伝をしているので、講師の殆どは自分がしくじっているとは感じていない。番組の意図としては、失敗している人を上から目線で批判しようとするものなのだろうが、やはり自分の名前を看板に活躍していた人は、常に次のことを考え行動しているように思える。

紀里谷和明監督といえば、元宇多田ヒカルさんの旦那というイメージがいちばん強い。彼女のPVを監督してして、そのビジュアルセンスのカッコ良さと、楽曲のイメージに合った映像づくりができていてスゴいと思ったものです。そのフォトグラファー出身の紀里谷監督の長編デビュー作『CASSHERN』は、70年代アニメ『新造人間キャシャーン』の実写映像化。当時はまだ漫画アニメ原作の実写化ブーム前夜、子どもの頃観ていたアニメがどうスタイリッシュに実写化されるのか、もの凄く期待して映画館に行ったものです。いつもはガラガラの郊外のシネコンも大入りでした。

で、蓋を開けてみたら、全然面白くないのこの映画。こっちは『スパイダーマン』や『マトリックス』みたいな映画の日本版が観れると思っていたのに、登場人物達がコスプレで延々戦争論を語ってるの。もっとバカバカしいものが観たいのにナニコレ?って感じ。そりゃあ『新造人間キャシャーン』は人間に奴隷のように扱われていたロボット達が、人間に反旗を翻す戦争の話だから、とうぜん差別問題や侵略戦争なんかを作者が調べるのはあたりまえのこと。でも結局娯楽作品なので、そこで深刻に捉えてしまって、ひっぱられてしまってはいけない。シビアなバックボーンはあれど、バカをやっていく器、なんとなくブレてしまって大物になりきれない残念感がした。

この映画は6億というメジャー作品にしては低予算で、15億稼いだらしい。これは立派なヒット作。それでも紀里谷監督は評価されず、日本映画界からほぼ抹殺されようとしたらしい。『しくじり先生』の番組では「日本映画の悪口を言い回ったから、業界から嫌われた」と言っていたが、問題はそればかりではなさそう。ちなみに日本では酷評だった紀里谷監督もハリウッドからスカウトされたらしい。ただリーマンショックと重なって白紙になったとか。なんと運のない男なのだろう。

才能がなければ始まらないが、その人が成功するには運も必要。この『しくじり先生』では紀里谷監督の態度ばかり責めていたが、とんがっていなければ新しいものは絶対に生まれない。この運のない理由が、番組の紀里谷監督の言葉で理解できた。フォトグラファー時代、一気にトップに躍り出て、ちょこっとシャッター押すだけで何百万とギャラが入って来たとき、彼は天狗になって遊びまくっていたそうです。本来そのときこそストイックにブラッシュアップすべきだったのに、仕事に集中できなかったのでしょうね。運がないというよりは、運が逃げていったという感じ。

紀里谷監督のハリウッド作品、観たかったな〜と思っていたら、なんでもモーガン・フリーマン主演の新作が公開されるとか。な〜んだ、『しくじり先生』とか言っておきながら、全然しくじってないじゃん。果たして紀里谷監督のハリウッド作品はどんなものになるのだろう?

 

関連記事

no image

『ジュブナイル』インスパイア・フロム・ドラえもん

  『ALWAYS』シリーズや『永遠の0』の 山崎貴監督の処女作『ジュブナイル』。

記事を読む

『映像研には手を出すな!』好きなことだけしてたい夢

NHKの深夜アニメ『映像研には手を出すな!』をなぜか観始めてしまった。 実のところなん

記事を読む

no image

『アバター』観客に甘い作品は、のびしろをくれない

ジェイムズ・キャメロン監督の世界的大ヒット作『アバター』。あんなにヒットしたのに、もう誰もそのタイト

記事を読む

『あしたのジョー2』 破滅を背負ってくれた…あいつ

Amazon primeでテレビアニメの『あしたのジョー』と『あしたのジョー2』が配信された

記事を読む

『天気の子』 祝福されない子どもたち

実は自分は晴れ男。大事な用事がある日は、たいてい晴れる。天気予報が雨だとしても、自分が外出し

記事を読む

『スワロウテイル』 90年代サブカル・カタログ映画

岩井俊二監督の『スワロウテイル』。この劇中の架空のバンド『YEN TOWN BAND』が再結

記事を読む

no image

90年代再燃か!?『ONE OK ROCK』

  若い子に人気の『ONE OK ROCK』。 映画『るろうに剣心』実写版三部作の

記事を読む

no image

『バッファロー’66』シネクイントに思いを寄せて

  渋谷パルコが立て替えとなることで、パルコパート3の中にあった映画館シネクイントも

記事を読む

no image

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』顛落の悲劇。自業自得か殉教者か?

  問題作すぎて新作『ニンフォマニアック』の 日本公開も危ぶまれながらもうじき公開

記事を読む

『ラストエンペラー オリジナル全長版」 渡る世間はカネ次第

『ラストエンペラー』の長尺版が配信されていた。この映画は坂本龍一さんの有名なテーマ曲の方が先

記事を読む

『新幹線大爆破(Netflix)』 企業がつくる虚構と現実

公開前から話題になっていたNetflixの『新幹線大爆破』。自

『ラストエンペラー オリジナル全長版」 渡る世間はカネ次第

『ラストエンペラー』の長尺版が配信されていた。この映画は坂本龍

『アドレセンス』 凶悪犯罪・ザ・ライド

Netflixの連続シリーズ『アドレセンス』の公開開始時、にわ

『HAPPYEND』 モヤモヤしながら生きていく

空音央監督の長編フィクション第1作『HAPPYEND』。空音央

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自

→もっと見る

PAGE TOP ↑