*

『精霊の守り人』メディアが混ざり合う未来

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 アニメ, ドラマ,

 

『NHK放送90年 大河ファンタジー』と冠がついたドラマ『精霊の守り人』。原作は上橋菜穂子氏の『守り人シリーズ』。過去にプロダクションIGによってアニメ化されたこともある作品。特撮のマニア向けの作品と思いきや、NHKがかなり力を入れてつくっている。なにより俳優陣が豪華すぎるくらい。近年の大河ドラマや朝ドラで、人気があった役者さんが、これでもかというくらい総出演している。これから3年にわたって、原作シリーズをすべて網羅していくとのこと。

ウチの小さな子どもたちも「こわいこわい」と言いながら、毎回夢中になって観ている。本編は綾瀬はるかさん演じる女用心棒が、命を狙われた王子を守りながら闘うというRPGもの。女性と子どもが主役ということで、敷居はかなり低くなる。こういった特撮ファンタジーものは、本来マニアやオタクにしか訴求しないジャンルにもかかわらず、一般の視聴者をターゲットにしている。アニメやゲームが得意とするジャンル。やはり女性が主人公という要素は、現代では欠かせない要素なのだろう。

思えば近年の大河ドラマは、かなりアニメ的な演出になってきている。画面のつくりや、見やすさなど、絵コンテを逆に切り直したら、アニメ作品とたいして変わらないだろう。こういったジャンルの垣根がボーダレスになっていくことは、視聴者は見やすくなって、一見進化したかと思えるのだけれど、反面観客の想像力を欠くという可能性も生まれてくる。美味しい食べものほど、人工的な食材を使っていて、体に毒となったりするようなもの。

かつて自分が小さい頃に観ていた大河ドラマは、もっと学術的要素が強かったような気がする。第一話なんか、まだ本編に入らずに、1時間丸々、舞台になる時代背景の説明だったりしたものだ。あたかも歴史の講義を受講しているかのようだった。きっと観る方も、本気で学ぶ気でいたのだろう。

時代は移り、現代のとても観やすくなったアニメ的な大河ドラマに慣らされた我々は、『精霊の守り人』みたいなファンタジードラマが登場してきても、なんとなく受け入れられるように慣らされてしまっている。今だからこそ許されるドラマなのかもしれない。果たして一般のお茶の間では、どんな風に観られているのだろうか?

自分はこのドラマの番宣を観たときは、「ああ観ないだろうな」と思ってしまっていた。今流行りのマンガ原作実写化の流れで、あざとい企画という印象だった。いったい誰が観るのだろうって。そして放送が始まると、ウチではむしろ自分以外の家族が観はじめて、自分はつられて観るようになったのだ。本格的なファンタジーが、テレビドラマで大掛かりに観られるなんて、ちょっと予想外。家族の会話にでてくるようなジャンルでは本来ないから、けっこう自分は違和感がある。そういう考えはもう古いのかな?

このドラマは、これから海外にも持っていくつもりなのかしら? ピーター・ジャクソン監督のニュージーランド映画『ロード・オブ・ザ・リング』にそっくりなビジュアルだし、ギャグになるスレスレのところ。いくら舞台が架空の世界の話とはいえ、出演者が全員日本人で日本語喋っている違和感と面白さ。韓流ドラマはこの類の作品も多いから、きっとオーケーなんだろな。こういったジャンルは、バカバカしさも大切な要素。物語はたいてい暗い展開になっていくので、ツッコミどころを残していくのも作り手の余裕。

これから3年、くやしいけど、回を重ねるごとにワクワクしてしまいそうな自分が容易に想像できてしまう。ドラマも冒険ものだけど、制作側もだいぶ冒険してる。その両方の行方に期待してしまう。もしこのドラマが成功したら、将来日本の映像作品のベルエポック的作品になるかもしれない。かなり諸刃の剣だけど。それも含めてどうなるか、今後楽しみなドラマです。

関連記事

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 日本ブームは来てるのか?

アメリカで、任天堂のゲーム『スーパーマリオブラザーズ』を原作にしたCGアニメが大ヒット。20

記事を読む

『オオカミの家』考察ブームの追い風に乗って

話題になっていたチリの人形アニメ『オオカミの家』をやっと観た。人形アニメといえばチェコのヤン

記事を読む

『鬼滅の刃 無限列車編』 映画が日本を変えた。世界はどうみてる?

『鬼滅の刃』の存在を初めて知ったのは仕事先。同年代のお子さんがいる方から、いま子どもたちの間

記事を読む

no image

ある意味アグレッシブな子ども向け映画『河童のクゥと夏休み』

  アニメ映画『河童のクゥと夏休み』。 良い意味でクレイジーな子ども向けアニメ映画

記事を読む

『エイリアン ロムルス』 続編というお祭り

自分はSFが大好き。『エイリアン』シリーズは、小学生のころからテレビの放送があるたびに観てい

記事を読む

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自分はオリジナルの『ビートルジュ

記事を読む

『ケナは韓国が嫌いで』 幸せの青い鳥はどこ?

日本と韓国は似ているところが多い。反目しているような印象は、歴史とか政治とか、それに便乗した

記事を読む

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』これからのハリウッド映画は?

マーベル・ユニバース映画の現時点での最新作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』をやっと

記事を読む

『葬送のフリーレン』 もしも永遠に若かったら

子どもが通っている絵画教室で、『葬送のフリーレン』の模写をしている子がいた。子どもたちの間で

記事を読む

『プライドと偏見』 あのとき君は若かった

これまでに何度も映像化されているジェーン・オースティンの小説の映画化『プライドと偏見』。以前

記事を読む

『cocoon』 くだらなくてかわいくてきれいなもの

自分は電子音楽が好き。最近では牛尾憲輔さんの音楽をよく聴いてい

『僕らの世界が交わるまで』 自分の正しいは誰のもの

SNSで話題になっていた『僕らの世界が交わるまで』。ハートウォ

『アフリカン・カンフー・ナチス』 世界を股にかけた厨二病

2025年の今年は第二次世界大戦から終戦80周年で節目の年。そ

『トクサツガガガ』 みんなで普通の人のフリをする

ずっと気になっていたNHKドラマ『トクサツガガガ』を観た。今や

『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』 黒歴史を乗り越えて

カナダ映画の『アイ・ライク・ムービーズ』がSNSで話題になって

→もっと見る

PAGE TOP ↑