『あの頃ペニー・レインと』実は女性の方がおっかけにハマりやすい
名匠キャメロン・クロウ監督の『あの頃ペニー・レインと』。この映画は監督自身が15歳で音楽ライターデビューした経験に基づいて描かれている。キャメロン・クロウ作品の登場人物は、いつも生き生きしていて、オシャレで良い面構えしていてとても好き。映画には愛が溢れている。音楽への愛や登場人物への愛だ。サントラの選曲の妙も素晴らしいし、登場人物達はみんな欠点をもっているのだが、それすら愛おしいものとして描いている。当時の奥さんで『ハート』のナンシー・ウィルソンのサントラオリジナル曲もイイ!
映画は年齢をごまかした才能あふれる少年が、音楽ライターとして新進気鋭のバンドツアーに同行するという話。このバンドについてくるグルーピーの女の子への淡い恋心が主軸にある。グルーピーといのはロックスターの熱狂的なファンの女の子で、おっかけの積極的なもの。バンドの中に入り込んで、ロックスターの恋人として振る舞う。女遊びも芸のうちではないけれど、周囲も暗黙の了解。でもどう考えてもハッピーにはなれない関係だ。ロックスターには彼の家族もいるし、グルーピーの女の子も遊びでつき合われているのは百も承知の助。ロックスターもひとときの恋人として連れ合うのだから、魅力的な女の子なのは当たり前。彼女だってもっとハッピーになれる生き方はいくらでも選べるはず。
ロックスターやアイドルのおっかけにハマるのは、オタクのおっさんの専売特許なのかと思いきや、実は女性の方が熱狂的なファンになりがちらしい。これは潜在意識の中で、子孫をつくるときに、優良な種を求めているからかも知れない。ロックスターと結婚しても生活感はなさそうだし、すぐ他の相手に走りそうだが、やはり才能あふれそれに向かって実現する生命力というか肉食力に惹かされずにはいられないのだろう。女性が子どもを生むのは命がけ。男の恋愛感情とはかけるものが大きすぎる。ならば生活よりも、生命力なのかも知れない。優良な子孫を残そうとする、自己犠牲的な無意識な選択なのかも。
男がアイドルや美人タレントにハマるといっても、それはプライドの固持みたいなもの。男は結婚しようが子どもができようが、女性ほど人生や命をかけることはない。もっと気楽なものなので、ホントは女性よりも異性を選ぶ目は甘い。男なんてちょっと女性から優しくされれば、すぐ相手を好きになってしまうものだ。ある意味女性が相手を選ぶ時は、やっぱり現実を見つめ直して妥協していくのかも知れない。
この映画のロックスターもグルーピーもみんな刹那的な生き方をしている。それでもキャメロン・クロウの演出は温かい視点なので、観客は魅力的な登場人物達をどんどん好きになってしまう。なかなかハッピーになれないけれど、生命力ある登場人物達の姿に、ちょっと羨ましくも思えてしまうものだ。
関連記事
-
-
『007 スペクター』シリアスとギャグの狭間で
評判の良かった『007 スペクター』をやっと観た。 前作『スカイフォール』から監督は続
-
-
『ケナは韓国が嫌いで』 幸せの青い鳥はどこ?
日本と韓国は似ているところが多い。反目しているような印象は、歴史とか政治とか、それに便乗した
-
-
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』 冒険の終わり、余生の始まり
ハリソン・フォードは『スター・ウォーズ』のハン・ソロ再演が評判だったのを機に、『ブレードラン
-
-
『アトミック・ブロンド』時代の転機をどう乗り越えるか
シャーリーズ・セロン主演のスパイ・アクション映画『アトミック・ブロンド』。映画の舞台は東西ベルリンの
-
-
『おさるのジョージ』嗚呼、黄色い帽子のおじさん……。
もうすぐ3歳になろうとするウチの息子は イヤイヤ期真っ最中。 なにをするにも
-
-
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』ある意味これもゾンビ映画
『スターウォーズ』の実写初のスピンオフ作品『ローグ・ワン』。自分は『スターウォーズ』の大ファンだけど
-
-
『トップガン』カッコいいと思ってたけど?
「♪ハーイウェイ・トゥ・ザ・デンジャゾーン」風にのって歌が聴こえてくる。これは……、映画『ト
-
-
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』 長い話は聞いちゃダメ‼︎
2024年2月11日、Amazonプライム・ビデオで『うる星やつら2 ビューティフル・ドリー
-
-
『サタンタンゴ』 観客もそそのかす商業芸術の実験
今年2025年のノーベル文化賞をクラスナホルカイ・ラースローが獲得した。クラスナホルカイ・ラ
-
-
モラトリアム中年の悲哀喜劇『俺はまだ本気出してないだけ』
『俺はまだ本気出してないだけ』とは 何とも悲しいタイトルの映画。 42歳
- PREV
- 『帝都物語』 混沌とした世にヤツは来る!!
- NEXT
- 『七人の侍』 最後に勝つのは世論
