『ポンヌフの恋人』ボウイを愛した監督・カラックス
デヴィッド・ボウイの訃報はまったく信じられなかった。1月8日のボウイの誕生日に、新作『★(ブラックスター)』が発表されたばかりだし、来年には日本でも回顧展開催が予定されている。大御所健在とばかりの印象だった。ニューアルバムからのMV『Lazarus』のテーマが「死」だったので、「ボウイの死」というニュースは、何かの演出だと思ってしまった。あのパフォーマンスは、自身の死を知ってのものだ。鬼気迫るものがあって当然。本当に脱帽です。心よりご冥福をお祈りします。
先日閉館したシネマライズには、思い出深い作品がたくさんある。『ポンヌフの恋人』も、真っ先にあがる映画のひとつ。監督のレオス・カラックスというと、自分は直結でデヴィッド・ボウイの存在を思い出す。『ポンヌフの恋人』の前作にあたる『汚れた血』では、静かな場面で突如ボウイの『Modern Love』がかかって、主人公が突然走り出すというカッコイイ演出をしている。この『ポンヌフの恋人』は、さらに選曲に磨きがかかる。予告編では、本編使用曲のボウイの『Time will crawl』が、ガンガンにフィーチャーされている。あたかも主題歌のようだけど、この映画は他にもジャンルを超えた音楽が嵐のように使われている! まさにカオス‼︎ ここではロックもクラシックも関係ない。ボウイもシュトラウスも同じ立ち位置。そう! カッコよければいいのだ‼︎ この光と音楽の洪水の映画で、自分はカラックスに教えられた。「◯◯だから好き」というカテゴライズ決めは、自分から殻に閉じこもるような思い込み。それは、世界を小さくしてしまうことなんだと……。
『ポンヌフの恋人』は公開当時、「呪われた映画」と呼ばれていた。膨れあがった製作費が集められず、完成が危ぶまれていた。出資者を求め、プレゼンに奔走せざるを得なかった。でも幸いにも、中盤の見せ場であるフランス革命200年祭の花火の場面は、すでに撮影済みだったらしい。あの場面は映画史に残るものとなった。あの場面を映画館で観れてよかった。満員のシネマライズだった。あの頃、シネマライズには観客の熱気があった。
『ポンヌフの恋人』の頃、ボウイは『ティン・マシーン』なるバンド活動をしていた。今後はこれでやって行くと宣言していた。でも『ティン・マシーン』は不評で、すぐ活動が終わってしまった。自分はそれほど嫌いではなかったけど、やっぱりカラックスの作品には合わなそうだな〜とは感じていたものです。
ボウイは、80年代は映画に関わる仕事が多かった。楽曲の映画への提供はもちろん、自身の映画出演作も多かった。日本で馴染み深いのは、大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』。小学生だった自分は、教授こと坂本龍一さんめあてでこの作品を観て、すっかりボウイのカッコよさに魅了されてしまった。思えばボウイも教授も左利き。左利きは天才肌が多いと、自分は勝手に思い込んでいる。ふたりとも同じ時期にガンと闘っていたのですね。
ショウビジネスとはいえ、芸術的な表現者や、アート作品を扱う場所を、ここのところ立て続けに失ってしまった。世の中が加速度あげて変化しているのがわかる。果たしてこの先に何があるのか、先はまったくみえない。とにかく、後ろを振り返っているヒマはなさそうだ。
関連記事
-
-
『2001年宇宙の旅』 名作とヒット作は別モノ
映画『2001年宇宙の旅』は、スタンリー・キューブリックの代表作であり、映画史に残る名作と語
-
-
『ミステリー・トレイン』 止まった時間と過ぎた時間
ジム・シャームッシュ監督の1989年作品『ミステリー・トレイン』。タイトルから連想する映画の
-
-
『オッペンハイマー』 自己憐憫が世界を壊す
クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を、日本公開が始まって1ヶ月以上経ってから
-
-
『星の子』 愛情からの歪みについて
今、多くの日本中の人たちが気になるニュース、宗教と政治問題。その中でも宗教二世問題は、今まで
-
-
マイケル・ジャクソン、ポップスターの孤独『スリラー』
去る6月25日はキング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンの命日でした。早いこ
-
-
『オデッセイ』 ラフ & タフ。己が動けば世界も動く⁉︎
2016年も押し詰まってきた。今年は世界で予想外のビックリがたくさんあった。イギリスのEU離脱や、ア
-
-
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』 マイノリティとエンターテイメント
小学生の息子は『ハリー・ポッター』が好き。これも親からの英才教育の賜物(?)なので、もちろん
-
-
『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』 スターの魂との距離は永遠なれ
デヴィッド・ボウイの伝記映画『ムーンエイジ・デイドリーム』が話題となった。IMAXやDolb
-
-
『ブレードランナー』 その映画が好きな理由
『ブレードランナー』、 パート2の制作も最近決まった カルト中のカルトムービーのSF映画
-
-
『FOOL COOL ROCK!』サムライ魂なんて吹っ飛ばせ!!
『FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY
