『初恋のきた道』 清純派という幻想
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最終更新日:2022/04/24
映画:ハ行
よく若い女性のタレントさんを紹介するときに「清純派の◯◯さん」と冠をつけることが多い。明らかに清純派のイメージじゃない人がほとんどで、いつも失笑してしまう。芸能界でのし上がってくるような人は、若い女の子であっても、そうとうの修羅場をかいくぐっているはず。年齢とは裏腹に精神的には大人で、酸いも甘いも当然知っていて、そこで清純派を演じている。じゃあなぜ清純派とか言いたがるのか考えてみる。
日本人男性が本当に弱くて、強い女が怖くてしょうがない。どうしても自分の下に従えたいという情けない欲望の現れかと。結局世の中男目線で動いている。男にウケなければ商売にならない。その心理を知った上で清純派を演じる、下がってみせる。そうなると女性は強い。強い女性のメンタリティそのままで商売になればもっと凄いことになりそうなのに。
中国映画の『初恋のきた道』。監督はチャン・イーモウ。『赤いコーリャン』や『菊豆』でコン・リーを輩出し、北京オリンピックの開会式の演出もしていた。のちにワイヤーアクションものへ走ったり、高倉健さん主演の『単騎、千里を走る。』を撮ったかと思えば、反日映画と言われた南京事件を描いた日本未公開の『フラワー・オブ・ウォー』など、作風がよく掴めない。この作品ではチャン・ツィイーをデビューさせている。
『初恋のきた道』のチャン・ツィイーはとにかく健気で可愛い。中国の大陸の1000年前から殆ど風景が変わっていないであろう田舎村を舞台に、少女の恋心を淡々と描く。田舎が舞台でもチャン・ツィイーが都会的な顔立ちなので、現代へと繋がりやすい。
違和感を感じたのがカメラワークや編集がハリウッドタッチだということ。世界配給を考えての演出だろうし、配給もソニーピクチャーズだからスタッフもハリウッドから来ているのだろう。観やすくはなったものの、中国映画の淡々とした雰囲気はそこにはなく、計算され尽くされたハイテク映像が、大陸の風景撮影に使われている。これはこれで新鮮な映像体験だったが、もう映画表現のお国柄の違いみたいなもが観られない、どこの国の映画も同じ演出になってしまうのはどうもつまらないし寂しい。けれど中国映画は柔軟にハリウッドにうまく取り込まれて、海外進出を図っている。日本は独自の道を未だ歩み続けて国内完結型の作品を作り続けている。これでは海外のマニアに拾ってもらうのがせいぜいだろう。日本はまだ鎖国状態か?
この映画でデビューしたチャン・ツィイーもハリウッドへ渡る。そこでは悪役や怖い女の役が多くなる。やっぱりね。『初恋のきた道』のチャン・ツィイーは男目線の理想の健気な少女像。彼女はそれをしっかり演じきったにすぎない。
世の男性諸君にはぜひとも清純派女性願望というものをぬぐい去って欲しいものである。女の人になめられるだけの男の存在ってのは、男女お互いにとってよろしい関係ではないから。
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